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友情よ今いずこ

 コワルスキーが仕事場で本日18人目を切り分けていると、特別室のザッパーから呼び出しを喰らった。
「アンダーの連中とつるんでちゃあ、もうおしまいだよな」ザッパーは一枚の写真を、処刑器具のような指でつまんでいた。
「……殺すのか」コワルスキーのくたびれたブーツが、赤い絨毯の長い毛に溺れかけている。
「チャンスを掴め。カミさんを死なせたくなけりゃ、始末は自分で付けてこい」ザッパーは必要な道具を投げてよこした。

 イチイが自宅のリビングで本を読んでいると、後頭部に銃口が押し付けられた。ひどく熱を持っていた。
「そっか、僕は2番目か」イチイは両手を上げながら言った。
「キララはどこだ」背後のコワルスキーが言った。
「ここにはいないよ」
「案内を、頼む」
「わかってる」

 空は煮えるように青く、太陽は容赦せず、吹きっさらしの荒野は荒縄を押し付けたような直線道路にぶち抜かれている。
 その脇に、巨人に叩かれたような一軒の小屋があった。
「鍵は開いてるよ」運転席のイチイは言った。
「覚悟はしてたけどさ、やっぱり、ね」
「どうか、恨んでくれ」コワルスキーは言った。
「うん、じゃあね」
 コワルスキーは引き金を絞り、車を降りた。車内は冷房が効いていて、流れる汗が冷えていた。
コワルスキーの手が玄関のドアノブに掛かってから、少しの間があった。
 空気はひどく乾いていた。
 開けた。
 爆炎が殴るようにコワルスキーを飲み込み、千切れた肉が赤茶けた大地のほうぼうに転がっていった。

「これであんたも、身ぎれいになれたな」ザッパーは監視ドローンの電源を落とし、目の前の女に言った。
「ええ、これも約束だもの」キララは言った。
 ザッパーは舌打ちし、懐の銃を抜き撃つ。
 額を抉られる寸前にキララは奥歯のスイッチを舌で押し、腹に隠された爆弾が膨れ上がった。


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