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逆噴射2024ピックアップ

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#パルプ小説

Rebecca is dancing.

Rebecca is dancing.

対向車の後部座席で泣き叫ぶレベッカと目が合ったのは、ほんの一瞬のことだった。あいつが誘拐されるのは、今年4度目だ。
俺は通信機を操作し、治安部隊に連絡した。

「よぅ無能ども。俺の愛する娘が、またどこぞやの馬鹿に連れて行かれた。理由?知るかよ。俺は追いかける。邪魔すんじゃねぇぞ」

Uターンして、さっきの車を追いかける。古臭い日本車、派手な塗装。すぐに追いついてタイヤに銃弾を撃ちこんだ。
車は路肩

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我が友 スノーボール

我が友 スノーボール

 豚。
 夜の森を駆ける。
 豚。
 巨大な眼のような月に追われながら。
 豚。
 その顔に浮かぶのは、まるで人間のような苦悩の表情。
 怒り。悲しみ。驚き。そして恥。感情に揺れる心は脳を輝かせ、その輝きに豚の顔は歪む。
 この豚は人語を解し、そして話す。本を読み、そして学ぶ。哲学、歴史、科学、数学を学ぶ。貪るように。豚には知性があり、それに伴う理性があった。
 だが。
 今この時。
 それに何の

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崩!崩ㇲ麺

崩!崩ㇲ麺

 F県K市。穢媚(えび)そば”はさみ”には今日も長蛇の列ができていた。
 曇天。霧雨。泥濘んで。10年近くK市に太陽は出ていない。行列の客たちはその体をぐっしょりと濡らしながら、自分の番が来るのを待っていた。全員猫背で顔色も悪いが目だけは輝いている。昏く赤い光。さらに揃ってお箸のポーズだ。人差し指と中指以外の指を掌へ折り曲げて、泥濘へ水平ピースサイン。それを上下に動かし続ける。必死に幻想を啜るその

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「JIRAIYA No.49」

「JIRAIYA No.49」

 そり立つ壁に挑む48番の義足が爆散した。ジェット噴射の使用は定石だが、出力制御を失敗しては無意味だ。
 義体の破損は即失格となる。コースの床が抜け、48番は1stステージ37人目の犠牲者となった。
 控室のモニターを前に、選手たちは猛々しい歓声を上げた。最先端の全身義体さえ買える大金を得るのは、完走者唯一人。サドンデスの脅威は少ないに限るが、結局JIRAIYAは己と戦う競技だろう。彼らは理解して

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ドリーム・キャッチャー

ドリーム・キャッチャー

 格付けは、済んだ。

 第三世代夢鯨が魚群に食い尽くされていく。

「今……しかなイ…瞬間ヺ……」

 若年層向けローン広告のフレーズを言い終えぬまま、夢鯨は消滅した。

「うーむあの第三世代を完全排除とは……」

「デカいのが取り柄ならバラバラにして砕く、簡単なアプローチですよ」

「いやぁよくやってくれた。このピラニアの発表で株価は急上昇だな」

 社長が笑顔で俺の肩を抱く。アドブロックの開

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落花〈ラッカ〉

落花〈ラッカ〉

 想像を絶する景色が広がっていた。青と黒。地球の大気層と、宇宙が織りなす壮大なるコントラスト。地上百キロメートル。概念上の地球と宇宙の境界線――カーマンライン。

 そこにあるのは静寂、そして高揚だった。

 軌道エレベーターに設置された「飛び込み台」の上。来栖紫苑と真空とを隔てているのは、特殊な宇宙服のみだった。管制室からの情報がバイザーに映しだされ、通信が隣に立つ男の声を伝えてくる。

『僕ら

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『オグバンジェ』

『オグバンジェ』

 ピンポーン。
 6度目のインターフォン。
 やはり返事は無い。 
 (何が何でも親権を取るべきだった)
 國谷巽はかつての我が家の前で額に汗を浮かべる。

 協議の上、2か月に一度と定められた娘との面会日。
 いつも同じボロボロのジャージ。
 他の子に羨ましがられた長く綺麗な髪はボサボサで、枯れ枝のような両腕で覚束なくナイフとフォークを使い、「この前おとうさんと会ったとき以来」というハンバーグを

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木々は枝より腐敗せる

木々は枝より腐敗せる

 山杉翠がたくさんの自分に気づいたのは、Vtuber【ベーン=ビー】の雑談配信を見ている最中だった。初めての高額スパチャを投入した時、画面に黄金の筋が走り、複数の投げ銭が行われた。最高金額だった。

「ベンちゃんありがと!」「いつもいつもいつもお世話になってるよ!」「前から疑問だったけどビーってなに?」「現出しました」「幹の人見てる?」

 スパチャが流れる。最高金額を叩き続ける寄付の数は百に昇る

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ひと昔前はデジタル時計の方が高価だったらしいぜ

ひと昔前はデジタル時計の方が高価だったらしいぜ

 第二種殺しの免許保有者は、自動火器に加えてある種の爆発物と毒物も仕事で扱うことができる。おれはスイッチを握り込む。
 ドアの蝶番が吹き飛んだ。

 おれはご機嫌だった。全額前払いという好条件の救出任務を請けたのだ。それも指名で。調子に乗って一人でメインフロアに忍び込み、強襲をかけた。アサルトライフルとかサブマシンガンを撃ってくるやつらをすみやかに制圧して、神経質にあちこち巡る。救出対象はどこだ?

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【アルティメット・クソグラフ・チャンピオンシップ】 #逆噴射小説大賞2024

【アルティメット・クソグラフ・チャンピオンシップ】 #逆噴射小説大賞2024

 どのようなグラフを作ってこの島に送られたのですか?
「新聞に載った犯罪統計のグラフだ。少年犯罪が前年の2000倍増えたように見えるグラフを作った。実際には、0.2%しか増えていなかったがな」

 0.2%を200000%に? とても大胆ですね。
「目盛りをチョイといじっただけだが、かなりの騒ぎになったよ。クソグラフが法律で禁じられてからこのかた、ここまでデカい数字のクソグラフを作ったのは俺が初だ

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カタリ語れば騙るとも

カタリ語れば騙るとも

 狭い独房で口をぱくぱくと動かす山ン本の姿は滑稽だが、傍らで首を掻きむしっている看守数名の死体があるなら話は別だ。心停止、自傷、出血多量。どれもが顔を青褪めさせ、年甲斐もなく失禁していた。
 仲間にハンドサインを送る。銃は最終手段だ。今回はスカウト目的で、殺しじゃない。タブレット上の指示を改めて反芻し、ヤツの正面に立つ。

 削ぎ落とした耳が疼いた。“暗殺怪談師”との交渉なら、俺たちが適任だ。壇ノ

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ブラッディ・エンジン:2.5

ブラッディ・エンジン:2.5

 ――2周目に突入。50位。
 瞬間、後続車が全て爆発四散した。
 爆風に煽られる車体。俺はハンドルを捌き、どうにか真っ直ぐ保つ。
『いい加減にしろよ素人!』
 俺の車――狂魔が怒鳴りやがる。
「……るせェ」
『いいか。次40位に入んなきゃ――』

爆散。

「分ァッてるよ!」
 アクセルを踏みつける。エンジンが唸り、体を振動させる。現在時速250km。
 だがこのままでは。

爆散。

『分かっ

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