見出し画像

「言ったもの負け」にならない問題解決組織の編成方法

組織内で新しいこと、たとえば「既存の組織の壁を打ち破ろう」「新しいビジネスモデルを生み出そう」「従来の働き方を改革しよう」といったことを行おうとした時、必ずと言っていいほど抵抗勢力による押し戻しや簡単に越えられない壁に遭遇します。これを打破するために組織横断のプロジェクトチームが組まれることがありますが、プロジェクトの運営がまずいと、「言ったもの負け」の構造に陥ってしまいます。

この記事では、こうなってしまう理由の考察と、「言ったもの負け」にならずにみんながハッピーに問題解決できるようにするにはどうすればいいかについて考えます。


よく聞く「言い出しっぺが損をする」構造

既存の組織の壁を打ち破る変革プロジェクトをトップダウンで立ち上げて各組織からメンバーを集め、鳴り物入りで始めることは、どこの組織でも良くあることでしょう。関係者全員に同じ方向を向かせて特別感を出してプロジェクトを進めることには効果があります。ただし、開始後にうまくプロジェクトが機能しているケースは実はそれほど多くないのではないでしょうか。私もいままでうやむやで立ち消えになったプロジェクトを何度も見てきました。

典型的な例としては、定例会議はプロジェクトの進捗を各チームから報告しあうだけで、プロジェクトで挙がってきた課題をトップに述べると「それはあなたがリードして解決してくれ」と、何故かそこはボトムアップの解決を推奨されるだけで終わってしまいます。その後、特に重要課題を追跡することもなく、最初は色々と報告をしてきていたサブリーダーたちも、一人、また一人と熱量がなくなり無難な報告だけをするようになる…そして、最後には「誰も居なくなった」状態になります。

このプロジェクト運営は「言い出しっぺが損をする」の典型です。これでは、誰も課題を提起して解決しようとはしなくなります。

問題解決はリーダーシップの発揮のしどころ

組織の問題解決のやり方やスピード感は、組織運営の在り方を考えるうえで優先度が高い事項です。リーダーシップスタイルには元来いくつものスタイルがあってその場にあったスタイルを採用する必要があります。

日本の伝統的企業 (JTC、ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー) では、経営トップは割とボトムアップ型 (民主型、委任型)のスタイルを採用しがちですが、組織の一般メンバーは「上意下達」になっていて 、実際の決裁者は各事業部のトップになっていることが多いようです。この決裁者の数は企業規模によっては数十から百名を超えることもあります。

各事業の通常運転の損益の判断であればそのレベルの判断でよいのですが、企業全体の戦略にかかわるレベルの問題解決は、縦割りの判断を防ぐには、より上位の経営トップの先導による意思決定が必要になります。

素早く効果的に問題解決するための5つのポイント

企業全体の優先課題を解決するには、経営トップがいくつかの事項をコミットして、それを実現するための運営チームをしっかりサポートする必要があります。

これが比較的うまく機能していたのが、私がマイクロソフトに在籍していた時の、Office 365 (今のMicrosoft 365) やMicrosoft Azureのサービス強化のためのグローバルエスカレーションの仕組みで、これを参考に要点を5つのポイントにまとめてみました。

1. リーダーの姿勢とビジョンを明確に伝える

まず最初にプロジェクトリーダーがやるべきことは、このプロジェクトのスポンサーになっている経営トップによるプロジェクトの目的、ビジョンを明確に関係者に伝えることです。たとえば「このプロジェクトで改善するサービスを日本一、世界一にする」とか「サービスの品質や顧客満足度を一番にする」等、大きな風呂敷を広げて方向性を示すと良いでしょう。

この際によくやりがちなのが、直近の売り上げ目標や方法論の各論を掲げてしまうことです。ビジョンを示す目的は、プロジェクト関係者の共感を得てモチベーションを上げ、一つの方向に向かって動かすことですので、関係者全員に取って分かりやすい大きなビジョンを掲げることをお勧めします。

また、同時に「挙げてもらった意見には経営トップがすべて目を通す」とか「普段は漏れてしまうような声にも耳を傾ける」といったリーダーの姿勢を示すのも効果的です。これらも、プロジェクト関係者のモチベーションを向上させ、議論を活発にすることでしょう。

2. 「One List」を作り課題管理をする

プロジェクトで解決すべき課題については、優先度をつけてひとつのリストにまとめてプロジェクト関係者全員から見えるようにして、その顛末 (課題が解決されたかどうか)も一緒に共有します。そうすることで、課題リストについての「透明性」と「網羅性」を確保するようにします。マイクロソフト社内では、この課題リストは「One List」と呼ばれ、通常の社員にも一覧と進捗が広く公開されていました。

課題リストについては、エスカレーションする側は特に以下の項目をきちんと入れるようにします。

● 課題の優先度・深刻度
● 対象顧客名
● ビジネスインパクト (この課題が解決された場合に得られる売上、利益等、具体的な数字・金額で)
● 解決してほしい内容 (的を絞って具体的に)

課題を審議した結果、採用された場合は解決した内容、不採用の場合はその理由をOne Listに残しておきます。こうしておくことで、今後別の関係者が同じ課題にぶつかったときに、あらかじめOne Listを参照することで効率的に課題の検討・回避を行うことができるためです。

加えて、課題を審議して採用・不採用が出るまでの時間をSLAとして定義しておくことも、関係者にとっては重要になります。

3. 「War Room」を定例で設定して運営する

「War Room」とは戦略的決定をする会議のことを指します。課題解決プロジェクトでは、単なる情報共有のための定例会議ではなく、War Roomを定例で開催します。War Roomには経営トップはもちろん、挙がってくることが想定される課題をその場で理解して判断できるプロジェクト関係者のリーダー達が必ず参加するようにします。

新たに挙がってきた課題については、優先度やビジネスインパクトを見ながら、関係者がその場で採用・不採用を判断します。課題の記載内容に不明点があったり不十分な場合には差し戻します。War Roomでは、情報共有ではなく、この判断をひたすらひとつひとつ繰り返します。

4. 心理的安全性を上げ多様な発想で取り組む

One ListやWar Roomを運営する前提として、プロジェクトを前に進めるための課題提起であれば、どんなことでも挙げて良い (優先度やビジネスインパクトはしっかり入れる前提)、課題を挙げることで怒られたり、解決を押し付けられたりすることがなく、挙げられた課題は無視したりせずに、経営トップが必ず目を通す、といった「心理的安全性」を確保することが重要です。プロジェクトの一番のリスクのひとつは、本来挙がってくるべき課題や意見が挙がってこなくなることだからです。

また、挙がってきた課題に対して、関係者が色々な方面から検討・議論をして多様な発想で取り組むことも重要です。たとえば、課題を完全に解決することは難しくても回避方法があるとか、別の部門で取り組めばよりコストのかからない解決方法がある、といった議論をします。その際には、組織の壁や利益にとらわれない発想で議論できる環境づくりも大切になります。

5. 追加リソースを準備する

課題の解決にあたっては、組織の縦割りをまたいで情報連携することで解決する課題もあるにはありますが、やはり特定の部門が大きな持ち出しを強いられる状況になると、その部門からの抵抗が強くなり課題解決が滞りがちになります。

経営トップはこれを予見して、追加で投入できる金銭的、人的リソースをあらかじめ確保しておく、もしくは必要になり次第緊急確保する体制を取れるようにしておくことが重要です。最終的に「言い出しっぺ」や「押し付けられた」部門が損をする構造にすることは避けたいところです。

そして、追加投資をする前提として、企業もリソースが無尽蔵にあるわけではないため、優先度が低い他のプロジェクトを縮小・廃止するなどして、余剰リソースを確保するといった経営判断をすることがセットとなります。

問題解決能力は組織の命運も左右する

私が在籍していたころのマイクロソフトでは、先に述べた通り、Office 365やMicrosoft Azureのサービス強化のためのグローバルエスカレーションを、フィールドチームと本社チームが一緒になってアジャイルに取り組むことで、自社サービスを競合に追いつき追い越させる勢いのある成長を行う原動力の一つとなりました。

経営レベルでの問題解決能力は、時にはその企業の命運も左右するくらい大きな差となって表れてくることがあります。グローバルでビジネスがアジャイルにまわっている現代では、ちょっとした経営判断ミスで市場シェアが低下してしまうことも起きています。

皆様も過去にこういう方法で効果的に経営レベルの問題解決がうまくいったという仕組みがあればぜひ教えてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。では、また!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?