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季節の匂い

夏が近付いている。車の窓を開け放ってドライブすると、草などが放つ緑の匂いがした。

「もう夏だ」

毎年緑の匂いを感じれば、体はもう夏と認識する。長い梅雨もそろそろ終わる。

季節を感じる手段はいろいろある。咲いている花、植物、海の色など自然から教わることもあるし、メロンや柿みたいに旬が短い果物でも分かるし、クリスマスとかお正月みたいにイベントでそういう気分になることもある。

いろいろあるけれど、特に「匂い」で判断することが多い。匂いは思い出や記憶とよく結び付く。

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私の母はラベンダーの香りが苦手だ。特に乾燥させたラベンダーポプリの匂いがダメだそうだ。

植物やお花全般が大好きな母なのに、どうしてラベンダーだけは苦手なんだろう?と小さい頃からいつも不思議だった。

「なんでラベンダーポプリの匂いが嫌なの?」

理由は単なる好き嫌いではなく、記憶と結びついていることが分かった。大地震を体験した当時、自宅にたくさんのラベンダーポプリがあったそうで、匂いを嗅ぐと地震を思い出すのだそうだ。

自分ら家族は5年間くらいアメリカに住んでいた時期があって、ちょうどその時大震災に見舞われた。阪神淡路大震災に匹敵する規模で知られるノースリッジ地震だった。

ノースリッジ地震は1994年に起こり、なんとその1年後の全く同じ日に阪神淡路大震災が起きている。偶然なのか必然なのか、分からなくなるくらいの重なり具合に驚く。

小さかった兄とわたしを抱えて、両親は必死に逃げたそうだ。残念ながら家は崩壊して飼っていた真っ白でふさふさなハツカネズミは助けてあげられなかったらしい。赤ちゃんもたくさん生まれて大家族だった。

通常ラベンダーはリラックス効果とか安眠効果があるハーブとして知られているけれど、母にとってのラベンダーは「母だけのラベンダー」で、一般的な効果は得られないんだなと思った。

匂いはいろいろと思い出すきっかけとなる。匂いを感じて季節を感じるのも同じだ。春夏秋冬をしっかりと覚えている。動物としての勘が冴える。

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写真 2020-07-16 14 09 09

夏は緑の匂い。秋はキンモクセイの匂い。冬は匂いがない。春は土と柏餅の匂い。

今はこのものさしだけど、これは生きていく場所によってきっと大きく変化していく。

そのうち季節ごとの「湖の匂い」が分かるようになってみたい。せっかくなら今自分が生きている土地の匂いを嗅ぎ分けられるようになれたら嬉しい。……ヘンな目標。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。