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見えない気持ち

最近ヤギたちの落ち着きがなく、メーメー鳴くことが多くなった。

ヤギはとても静かな生き物で、何かを求めているとき以外、基本的には鳴かない生き物だ。求めることはいろいろで、一番多いのは寂しいとき、空腹なとき、雨が降るとき。

特に寂しいときの鳴き声と言ったら、まるでお祭り騒ぎ。私がヤギ小屋を後にしようとすると、まるで「行かないで!置いてかないで」と言わんばかりに、声を出す。

傍にいくと鳴き止んで、離れると鳴いて、また傍に行くと落ち着いて、その繰り返し。一日中一緒に居られたら嬉しいし、時間があるときは彼らが満足するまで撫でてあげるけど、毎日そこまで対応できるわけでもない。

ヤギは群れで行動する生き物だから、私がその場を離れると、群れから一匹居なくなろうとしている!と焦るのだろう。……と推察しているけれど、本当のところはヤギにしか分からない。

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言葉を発しないものの気持ちを察するのは、とても難しい。そしてもどかしい。

動物はもちろんだけど、人間の赤ちゃんだって言葉を話せない。「鳴く・泣く」という行為でしか感情を表現できない。周囲の人は原因を探り、なぜ今この表現をしているのか?を冷静に考えなくちゃいけない。

でも時々すごく疲れてしまう。

言葉以外の方法で表現されることを解釈するのって、こんなに大変だったんだ、と思う。

いちいち真面目に対応していたら、多分そのうちどこかで爆発するか撃沈する。そうならないために、ある程度テキトーに、面白がって対応していくのがいいような気がする。「あらあら、また鳴いているのねえ」と軽く流せる精神が求められている。

子育ては真面目な人ほど躓きやすい、とよく言われるように、動物飼育もまったく同じ。

真面目な人はすべてを理解しようとして、理解できないと苦しんで、と負のループに陥りやすい。なぜそんなことが分かるのか?と言われれば、自分が真面目人間だからだ。こんなふうに真面目くさった自分は嫌い。

世には100%理解できないこともたくさんあって、すべてを理解する必要はない。

よく分からないことに出会ったとき「ただそのコトが横たわっているという事実」をまずはじっくり見つめよう。理解できないからと諦めたり、見捨てたりしなければ、いつかパッと照らされる時がくると思うから。

早急に白黒付けず、見捨てず、添い続けることが「本当に理解すること」なのでは、とヤギから教わった。

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冬になるとヤギのエサがグッと減ってしまう。これまでは、庭一面に生えていた雑草や樹木の葉で食欲を満たしていたけれど、植物はこの先どんどん枯れていってしまう。

メーメー鳴くヤギも、間違いなく冬を感じ取っている。日に日に毛は分厚くなって、暖かそうな体つきになっている。飲む水の量も、夏に比べて減った。

草原で草を食んでいる瞬間が最も幸せなヤギにとって、瑞々しい草がなくなる季節というのは悲しいことだと思う。それでも四季のある日本で生きるしかない。

大切な家族だから、春になるまでのしばらくの間、一緒に乗り越えていきたい。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。