印刷のレシピ 少し変わった印刷の解説 10選
デザイン事務所SKGは、2014年よりブランディングデザインを開始し、2024年で10周年を迎えました。お客様の潜在意識に響く提案をしたいという思いと、代表の助川の名に「助」が含まれていることから、「デザインで本当の助けになる」をミッションに掲げ、お客様に支えていただきながら、10年続けることができました。
前回のnoteでは『ブランディングデザイナーが大事にする4つの姿勢』と題し、僕ららしさに向き合いました。
ブランディングを人に例えること
課題の前提条件を疑い、本質に迫る姿勢
特殊印刷の提案
遊び心を忍ばせる
このうち、特殊印刷について今回のnoteでは取り上げたいと思います。
展覧会会場では「印刷のレシピ」を配布しておりました。作品リストに変わり、印刷の仕様を網羅したリーフレットになります。その中でも特にこだわった事例はポイントとして解説も添えました。このnoteではほぼ加筆せずに掲載します。普段目にされる少し変わった印刷物にもきっと何かしらこだわりの思考が詰まっていると思われます。みなさんの印刷物への愛着に少しでも貢献できたら嬉しいです。
阪急の味 プライムタイム
食品会社に印刷会社が紐づいていたので、似たパッケージでも印刷会社はそれぞれの食品で違います。ある会社はマットニスができても、他ではできないと言われたことも。そんなときはそれまでのパッケージの刷り本をお渡ししたらできました。
盛田昭夫塾
館はコンセプトが縁なので印刷にも縁を。昭夫さんの名にちなんでフライヤーの用紙は竹尾さんの「Mr.A」。また、メモ帳などの用紙には吉川紙商事さんの「ノイエグレー」を使っています。ノイエグレーの開発者は小さい頃、昭夫さんの親族と同級生だったとか。
DJI CAMP CERTIFICATION
複製防止の機能の意味でも活版印刷と箔押しを取り入れました。箔押しは浮き出し加工をしたいところですが、取得者の名入れをプリンタ出力でする条件を考慮し、擬似エンボスです。ただ「疑似エンボス」と言えば一般的に質の違うニスで絵柄を表現することを指すようですが、ここでは箔版に傷をつけるようなイメージで、版の表面にギザギザをつくる製造方法。1版だけで絵柄を表現しています。
cookpad採用冊子
文字情報だけで言えば、きっとA4ペラに収まります。しかしそれでは言葉の重みが伝わらないと考えました。じっくり向き合ってほしい思いから文庫本サイズの上製本をご提案。見た目は上製本なのですが、実は中身は中綴じ冊子です。中綴じ冊子の表紙を上製本の見返しのように貼る手法をとっています。もちろん中綴じ冊子よりは高価ですが、上製本より安価です。
これは実は小さい子供向けの絵本にはよくある製本方法です。薄い冊子を耐久性あるようにするためと思われます(子供向けのものはホチキス綴じではなくミシン綴じですが)。そして、この採用冊子の本文はすべて活版印刷です。高価そうに思えてしまいますが、伝票印刷用の活版印刷とのことで、僕らが名刺やカードでよく使う活版のイメージとは少々異なります。
空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン
10万部、20万部も刷るような印刷の場合、用紙単価がちょっと上がるだけで、印刷代が跳ね上がってしまいます。その点、b7シリーズはすばらしいですね。紙の質感残しながら、色のノリもいい微塗工紙。しかも嵩高。b7という選択肢を知ってしまうと逃れられないかもしれません。
構造展ー構造家のデザインと思考ー
建築家と協働しているはずの「構造家」に光が当たることは世間的には珍しいようです。この展示はそんな構造家に光を当てたもの。このコンセプトを紙地で答えました。招待状は用紙がクニメタルホワイト。フライヤーはシルバーにちょっとだけ青を混ぜてクニメタルの紙色に寄せたイメージにしました。
建築模型展ー文化と思考の変遷ー
この展覧会の出展建築家でもあったVUILDさんとのコラボ仕事。彼らの「EMARF」というプリントアウトするように家具をつくることができる技術を活用しています。文字自体にほぞを掘り込み、中抜き材を差し込むようにすることで、軽量化と強度アップに成功しています。
『120%くつラヂヲ』
コスト削減のためにもカバーと帯は同じ面付けに。カバーの裏側にすごろくを印刷するデザインなので、必然的に帯の裏にも絵柄が入ります。一方、表裏の違いが大きいクラフト紙を選んでいるのでカバーと帯で「オモテ」を変えています。これでカバーと帯が同じ紙であることもわかりにくいはず。ちなみに、面付け上の取り都合から帯のサイズを割り出していることも隠れたポイントです。言わば印刷コストから逆算してデザインしています。
日本機械学会誌 2017ー2019
あざかやな色彩の原画に印刷を合わせようとする際、プロセスカラーで再現できない色域は特色を足すことが通常と思われます。H4 に広告が掲載されるので、広告に影響が出ないようにするためにも。広演色のカレイドインキを使ったり、ワイドカラーといった色域の広い印刷方法も世に存在します。ですが、僕らはよくするのですが、プロセスインキに蛍光色を混ぜます。
機械学会誌の表紙(2017-2019)では、原画により混ぜる比率が都度異なります。混ぜる量が多いと鮮やかになりますが、H4の広告への影響も大きくなってしまうため、そのバランスを都度見極めていました。
SKG のコミュニケーション術ーブランディングを人にたとえるとー
印刷現場でも結構色をコントロールできます。もっと赤く、もっと濃度アップ、といったように。
確認する関係者が少なければ、印刷を任せてもらって、色校正を省くことも。特色の場合は「展色」だけで確認を済ませたりもします。なお、当展覧会のフライヤー裏面は部分的にスミを極端に下げています。QRコードが薄く、グレーっぽく見えることにお気づきでしょうか。
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お楽しみいただけましたでしょうか。
SKG WEBでは他の事例でもできるだけ印刷仕様を公開しています。ぜひご覧ください。
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