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ブランディングデザイナーが大事にする4つの姿勢

こんにちは。SKGと申します。代表して助川誠です。創設10周年を機に開催した展覧会におけるギャラリーツアーで、僕らデザイナーとして大事にしている姿勢に気づいたことをお話しました。それを大幅に修正・加筆してお届けします。この時に自身で何を考えていたかの記録も込めて。

なぜ展覧会をやろうと思ったか。


創設10周年を迎えるにあたり、仕事の成果だけでなく、どのような思いで仕事と向き合ってきたのかを振り返りたいという強い思いがありました。
SKGは「ブランディング」を軸に仕事をしています。最近では、この言葉も世間に浸透し、デザインに関わる多くの方々が、ブランディングを意識して仕事の幅を広げていると感じています。ただ、それぞれが独自の基軸を持っています。

例えば、建築を基軸にされている方々は、街単位や地域の生活を考えながら場所を作り出す力を持っています。
広告分野の方々は、大きな媒体を使って世界観を表現する力を持っています。
また、ウェブ系の方々は、多様なデバイスに最適なレイアウトを作り、動きやプログラムを駆使した環境を構築する力を持っています。

もちろん、そういった方々と協力することも多いですが、そんな中で「自分たちらしさとは何か」や「外から見た自分たちはどう映っているのか」と考える瞬間がありました。
しかし、日々の忙しさに追われ、その問いが一度は消え去っても、また時折浮かんでくることも。

なんとか10年やってこれましたが、このタイミングで一度自分たちを見つめ直したいという気持ちが強くなったのです。

この展覧会は自主企画で、もちろん僕がやりたいと提案したものです。それに応えて、スタッフが全力で動いてくれました。僕が一人で仕事をしていた時代が3年ほどありましたが、その時期の仕事も倉庫から引っ張り出して、「これは何ですか?」と質問したり、サイズを測ったりしてくれました。彼女たちは、過去のSKGと向き合う機会を得たのだと思います。


4つ、SKGらしいと思うこと。


会場の挨拶文にも書かせてもらいましたが、展示を整理しながら、僕ららしさを表す4つの要素があると感じました。

まず一つ目は、展示タイトルにもなっている「ブランディングを人に例える」という考え方です。2019年に非常勤講師として京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)で講演をした際、どのような内容を話そうかと考えていたとき、いつかどこかで耳にした「ロゴはブランドの顔である」という言葉を思い出しました。この言葉をヒントに、講演のテーマを決めました。

その講演では、ブランド全体を人として捉えることよりも、「ロゴが顔ならば、顔には表情があっても良いのではないか」ということをテーマにしました。かつてのCI(コーポレート・アイデンティティ)ブームでは、ロゴを展開する際に形の印象を崩さないよう、厳格に管理されたフォーマットが多く存在していました。しかし、現在は変化が求められているのではないか、ロゴに表情があっても良いのではないか、と考え、そうしたアイデアをもとに実践した事例を紹介しました。

この講演をきっかけに、自分の思考を整理する中で、ブランディングにおいて考えるべき事項が、人に置き換えて考えると一本筋が通ってくることに気づきました。この考え方を、今回の展覧会で一部展示させていただきました。


二つ目は、僕らの姿勢についてです。

僕の名前に「助」が含まれていることに着目し、SKGのミッションを「デザインで本当の助けに」と定めました。この言葉には、お客様の課題の前提条件を疑い、本質に迫るという意図が込められています。この姿勢を意識するようになったきっかけは、「阪急の味」のプロジェクトでした。


前職・GRAPHから独立してすぐに携わったこの仕事では、既に完成していたイラストを用いたキービジュアルを、商品のパッケージデザインに落とし込むことが僕の役割でした。パッケージには牛乳パックのような紙製のものから、ビニールや缶までさまざまな素材とサイズがあり、統一したイメージを展開するには、デザイン力だけでなく、印刷の管理能力も求められました。そのため、印刷に詳しいという理由で声をかけていただいたのです。

しかし、扱う食材は和から洋まで多様で、イラストも色彩豊かであったため、試行錯誤を重ねたものの、各商品が美味しそうに見えるパッケージデザインを作ることが難しく、プロジェクトが停滞してしまいました。担当者からは、部分的な修正で解決を試みる提案がありましたが、私はそれでは問題を解決できないと感じました。

そこで、当時の阪急オアシスの千野会長に直接お話しする機会をお願いしました。会長がプロジェクトに抱いている思いやイメージは今も他変わらずに大切にされていることを担当者との会話から感じ取っていたからです。会長から直接お話を伺った結果、イラストを部分的に修正するだけではなく、デザイン全体を抜本的に見直すことを提案しました。具体的な変更案はまだなかったにもかかわらず、会長は私の意見を信じ、デザインの大幅な変更を決断してくださいました。

このプロジェクトを通じて、根本的な課題に真摯に向き合い、提案することの重要性を実感しました。なお、このパッケージデザインは現在は使用されていませんが、特別な思い入れのあるプロジェクトであり、許可と協力をいただき展示させていただいています。

三つ目。
特殊印刷。特殊と言っても、『デザインの引き出し』で特集されるような高度なものではありませんが、コート紙やマットコート紙での4色印刷とは異なり、少しグレードを上げた印刷を特殊印刷と呼んでいます。これも僕らの「らしさ」と言えるターニングポイントがありました。それは、クックパッドの採用冊子です。

新しく入社される方々に、創業者の思いをしっかりと届けるものを作りたい、というご要望をいただいたと記憶しています。この冊子に掲載予定の文字情報だけであれば、A4サイズのペラ1枚に収まる内容でした。しかし、そうした形態では言葉の重みが十分に伝わらず、すぐに捨てられてしまう可能性もありました。そこで、「上製本のスタイル」を取り入れ、文庫本サイズで手に取りやすく、振り返りやすい仕様を提案しました。もちろん、印刷コストを考えるとA4ペラよりも高くなりますが、デザインや製品の役割を考えた場合、これは妥当な選択です。

ちなみに、「上製本のスタイル」と言いましたが、厳密には上製本と完全に同じ形態ではありません。外見だけ上製本風にし、中身は中綴じの冊子です。具体的には、中綴じ冊子の表紙を上製本の見返しとして貼り込む仕様にしました。これにより、見た目は上製本でありながら、コストは抑えられる、ということを実現させています。


四つ目。
遊び心。このこだわりは大きくアピールするものではなく、見た人が発見したときに、ちょっとした喜びを感じてもらえることを願って込めた仕掛けです。このターニングポイントは『アートになった猫たち展』でした。2019年に千代田区立日比谷図書文化館で開催されたアート展ですね。

ポスターではしたの女性のように少し優しい目つきに。雌猫です。

まず、タイトルにある「猫」という漢字が通常から逸脱した文字になっているところから始まり、コラージュされた猫たちには、それぞれレイアウト上で独自のストーリーが与えられています。どんなストーリーかはここでは触れませんが、例えば、一つのエサを二匹の猫が見つめるシーンなど、元の作品からは全く異なるストーリーが展開されています。これはコラージュという手法の醍醐味でもあります。

さらに、ポスターや招待券、割引券、バナーなど、タイトルが入るすべてのアイテムで、猫の表情がそれぞれ異なります。招待券の猫は招き猫の仕草をしていたり、サインでは誘導の方向に目が向いていたりと、細部にまで工夫が施されています。展示会場内の章立てパネルでは、章の数字に合わせて猫のヒゲが増えるという遊び心も取り入れました。

左は招待券なので人を招く手に。右は割引で入れるので、目をカッと見開いている。
4章に伴い髭が4本ずつ。

気づく人は少ないかもしれませんが、僕らが満載した遊び心を運営の方々も楽しんでくださり、フォトスポットの設置やSNSでの投稿内容など、普段の展覧会とは異なるアプローチにまで発展しました。

こんな遊び心の仕掛けは「アートになった猫たち展」以降、チャンスがあれば自信を持って仕込んでいますので探してみてくださったら嬉しいです。

  1. ブランディングを人に例えること

  2. 課題の前提条件を疑い、本質に迫る姿勢

  3. 特殊印刷の提案

  4. 遊び心を忍ばせる

4つ挙げさせていただきましたが、他にもあるかもしれません。客観的に僕らを見ていただき、もし他の要素があれば教えていただけると嬉しいです。今回挙げたのは、あくまで現時点で僕ら自身が『僕ららしい』と思うことです。現時点の考えではありますが、少なくとも今後も大切にしていきたい思いであることは間違いないと考えています。

展覧会でのギャラリートーク

【会期】2024年7月23日(火)~7月27日(土)
【開館時間】11:00~18:00(最終日は17:00 まで)
【会場】Gallery 5610(東京都港区南青山5-6-10 5610番館)
【入場料】無料


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