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電影と少年CQアルバム『クロニックデジャヴのピクチャーショウ』解説(1)

電影と少年CQの2枚目となるアルバム『クロニックデジャヴのピクチャーショウ』が2020年4月29日に、まずは配信という形で発表されました。
こちらが特設サイト(ステキなコメントもお読みいただけます)

5月18日よりはTRASH-UP‼︎の通販サイトよりCD版も先行発売され、その初回購入特典としてルアン 、ユッキュン、長田が書いた各楽曲や題材となる映画の解説が載ったタブロイドが付くので、それを是非購入していただきたいのですが、その販促的な意味も込めて、アルバム制作時からメモや日記的に書き溜めていた文章を公開いたします。

■アルバムのコンセプト/テーマ

よくコンセプトアルバムと言っていただけるのですが、実はコンセプトアルバムとして意識はしていないんです。多分ピチカートファイヴの影響なんだと思います。一枚のレコードを一本の映画のように作る。逆にコンセプトアルバム以外にそこまで興味がないのかな。
また、アルバムのテーマについて聞かれますが、そこまで特別なものは用意しておりません。電少のような月に何度もライブを行う活動をしていると新曲をコンスタントに出さなければならないんです。お客さんがどういう曲を求めているかその場その場の判断でフレキシブルに新曲を出していくので「こういうテーマでアルバムを作ろう」といった感じでアルバムを最終地点として曲は作っていません。なのでアルバムのテーマみたいなものは後付け的に考えてはいますが、基本は普段のライブや1stアルバムと同じで「電影と少年CQが様々な映画のサウンドトラックを旅する」になります。
これはグループとしてのコンセプトと一緒で多分3rd、4thとアルバムを出していっても同じ事をすると思います。飽きたら変えるかもですが、今のところ何度挑戦しても変化や発見のある強度があるテーマだと思っています。
ただ2ndという事で「映画の続編」ってテーマは新たにあります。これについては後述。

それと、かつてライムスター宇多丸さんが、“アイドルのアルバムは様々なタイプの楽曲を入れることでそのアイドルの様々な側面が見えるようになると良い”みたいなことを仰っていて、これまで僕が携わった全てのアルバムの座右の銘になっています。

■アルバムの成り立ち

2ndアルバム発売は、特に誰が決めたわけでもなく、1stアルバム発売前くらいには「まあ出すよね」くらいの感じで計画をしておりましたし、1stアルバムの収録から漏れてしまった楽曲もあったしで、とにかく発表の2年ほど前から動き出しておりました。
最初は5曲入りぐらいの手軽なミニアルバムでコンセプトぎちぎちの、世界観をバッチリ見せた作品にしようって言っていて(実際それはそのうちやりたいと今でも思っています)、けれどメンバーやスタッフ、作曲家やエンジニアなどの都合がうまく合わず、その待機時期に作曲家さんや僕が新たなアイデアをどんどん出していき、結果曲数は増えていき発表は遅れに遅れ、2年もかかってしまいました。

■アルバムタイトルについて

『クロニックデジャヴのピクチャーショウ』ってどういう意味かわからないですよね。
固有名詞に助詞が入っているのが好みでして、例えば“電影と少年CQ”も“異次元旅行のサウンドトラック”も“少女閣下のインターナショナル”も、なので今回も助詞は入れようと。
“ピクチャーショウ”っていうのは僕が大好きな映画『ロッキー・ホラー・ショー』の原題”The Rocky Horror Picture Show”から拝借いたしました。あと『マーダー・ライド・ショー』とか。“ピクチャーショウ”っていうのは映画の原型、画像を連続で映すことで画像が動いてるように錯覚を見せる娯楽のことです。
“クロニックデジャヴ”ってのは、デジャヴのことですね。経験したことないはずなのに既に経験しているように錯覚する心理現象。
タイトルには色んな意味を後付け的に込めて自分の中では納得していますが、テーマや意味はお客さんがそれぞれ考えていただければいいし、それが正解だと思っています。それよりも基本は発音/語感の良さを優先しています。「クロニックデジャヴのピクチャーショウ」って言いたくなるような、手頃な略称を考えたくなるような。

■2ndの呪いについて

アイドルポップやパンクロックって初期衝動の面白さゆえに1stが最高で、技術的に洗練された2nd以降は悪くないけど、まあ1stほど熱狂はできないなあなんてことよくあると思います。
1stアルバム『異次元旅行のサウンドトラック』はお陰さまでとても好評を得ることができましたので、2ndを出す時に最も気をつけたのはこの「2ndの呪い」を如何に避けるかということでした。
“1作目も最高だけれど、2作目もまた最高だよね”って“2ndの呪い”を免れた映画を片っ端から研究しました。
例えば『007/ロシアより愛を込めて』、『ターミネーター2』、『オースティンパワーズ・デラックス』、『グレムリン2』、『HELP/4人はアイドル』、『死霊のはらわた2』、『バットマンリターンズ』、『スクリーム2』などなど。
これら続編は、1作目のテーマはそのまま、1作目のインディペンデント感、ざらざらした手作り感、マニアっぽさは失われたけれど、より洗練され、よりド派手に(そしてよりバカに)って共通点があると思います。
電影と少年CQは洗練されて失うものもあまりないので、とにかく洗練させ、やりすぎなほどド派手な、時にわかりやすく都会的で、時にわかりやすくバカでってのを意識しました。
しかし、新作を作るからには旧作を超えなければならないというのは作り手の避けられない宿命、もしいざ超えてしまったとき、新作と比較される旧作がかわいそうに思えてしまう複雑な親心もあったりします。

■題材となった映画たちについて

電影と少年CQの楽曲は全て実在の映画を題材としています。
1stの時からそうだったのですが、電影と少年CQのメッセージというものがあるとしたら、全てが並列で平等なことです。それは題材となる映画もそうで、製作国、時代、ジャンル、名作、駄作、美しいものも醜いものも全てがその個性を尊重しながら肩を並べて立っていることを意識して選んでいます。
なので題材となる映画はなるべくバランスよく選んでいるつもりですが、もちろん漏れているものも星の数ほどあるので、それは3rd、4thと続けていく中で回収していきたいなと思っております。
以下では発表順にどのように題材映画を選出したのか、簡単な解説込みで書いていきたいと思います。
(※詳しい解説は5/18に発売されるCD版の初回購入特典となるタブロイドをお読みいただければと思います)

・『Pa.Pa.La.Pa.』(題材映画:『恋する惑星』/1994/香港)

14の楽曲の中で最初に構想されたのが『Pa.Pa.La.Pa.』でしたが、1stの時に収録できなかった日本以外のアジア産映画ということで、香港映画の『恋する惑星』をチョイスしました。イギリス領から中国へと返還される前の映画なので、中国映画とは言わず香港映画って言っています。
この曲の熱帯夜的な雰囲気があの映画にピッタリだと思いまして(ちなみに1998年の台湾映画『初恋』って作品もちょっと題材にしております。こちらも大傑作なのでご興味あればご覧ください)。
韓国映画や香港以外の中国映画、ベトナムやインド、イランの映画など他のアジア映画も今後どんどん題材にしていきたいなと思っております。

・『細雪』(題材映画:『細雪』/1983/日本)

和風バラード曲『細雪』の題材となる1983年の市川崑版『細雪』はそもそもは2人体制時代のあヴぁんだんどとのコラボユニット亞卍Qの曲として製作されていました。亞卍Qが4人組なので4人姉妹モノを歌でやりたいといった始まりだったと思います。『若草物語』よりこっちの方が電少っぽいし、『阿修羅の如く』は映画よりドラマの方がイメージ強いしといった理由で『細雪』。歌詞を急いで書かなければならず、あの長い谷崎潤一郎の原作を読む時間がなかったため、“漫画で読む『細雪』”的なマンガを読んで歌詞を書きました。
この映画自体が個人的に思い入れがある作品なのでえこひいきして選出というのが一番の理由かもしれません。

・『悪い奴ほどよく眠る』(題材映画:『悪い奴ほどよく眠る』/1960/日本作品)

題材映画を選ぶ際にジャンルで選ぶということもやるのですが、タンゴの曲を作りたいと音楽家さんたちと話題になり、タンゴなら悪くてセクシーなのがいいと思い、今まで題材として扱ってこなかったポリティカルサスペンスの傑作であるこの映画を選出しました。
ちょうどその頃「アイドルと政治を絡めるな」みたいな議論がTwitterで話題になっていて、ならばカッコいい政治とアイドルの絡め方をしてみようと思ったのもあります。
考えなしに『Pa.Pa.La.Pa.』、『細雪』、『悪い奴ほどよく眠る』と続けて、アジア映画が3本連続になってしまい「しまった!」と思ったのを覚えております。

・『月世界旅行』(題材映画:『月世界旅行』/1902/フランス作品)

映画史の黎明を語る際に不可欠な“レジェンド映画”というジャンルが、僕の中ではあって、主に1920年代までのサイレント作品。
そういう権威ある映画を一本入れておくと映画の並びに深みが出ると思い、SF映画/特撮映画の元祖にして金字塔の『月世界旅行』を楽曲にすることにしました。
1stアルバムでいう『列車の到着』(1897/フランス作品)の立ち位置ですね。あとは『アンダルシアの犬』(1929/フランス作品)や『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922/ドイツ作品)、『カリガリ博士』(1920/ドイツ作品)、『メトロポリス』(1927/ドイツ作品)、サイレントではないけれど『キングコング』(1933/アメリカ)とかも個人的にはレジェンド映画。
一枚絵的なインパクトの凄さは置いといて、今見ると退屈と思う方もいるかもしれませんが、これらの映画が一本でもなかったら映画の歴史はかなり変わっていたかも。「権威」なんて言葉使ったけど、「権威」以上の何かがある映画たちです。

・『apple yard』(題材映画:『ピクニックatハンギングロック』/1975/オーストラリア作品)

ちょっと不気味なガーリーな映画って大好きで、『ピクニックatハンギングロック』は電少を始めた時から題材にしようとしていた作品でした。
以前僕が演出担当を行なっていた少女閣下のインターナショナルでやはり同映画を題材にした曲を作っていたのですが、ライバルであったあヴぁんだんどがミニアルバムのタイトルを『ピクニックat nerd park』にしていたので、急遽同じく不気味でガーリーな映画『エコール』を題材にした過去がありまして、そのリベンジでもあります。
『ピクニックatハンギングロック』の世界観はアイドルと相性がいいのもあり、題材にしているアイドルさんは他にも多いのではないでしょうか。ちょっと調べたい。
珍しいオーストラリア映画であること、なぜか電少のレパートリーでは少ない70年代の映画ってのも選出の理由です。

・『Bubble Ballet』(題材映画:『シェイプ・オブ・ウォーター』/2017/アメリカ作品)

アイドルの裏方を始めてからというものめっきり新作映画を観にいけなくなっているので、なかなか2010年代の映画を登場させるチャンスがないのですが、作曲家の幕須介人さんがこの映画でやりたいとおっしゃってくれて、かろうじて見ていたので選出しました。
『シェイプ・オブ・ウォーター』を題材にするということは、同時に本作の合わせ鏡的な存在である1954年の『大アマゾンの半魚人』も題材にできて多層的な構造になるなと思ったからというのも強いです。
電少はロマンチックなホラーと相性が良いのでこういう作品は選びやすいです。

・『E.T.weekend』(題材映画:『E.T.』/1982/アメリカ作品)

この時点までの作品群だと、映画ファンなら大体見ていても、普段そこまで映画を見ない人は知らないかもしれない映画ばかりでしたので、みんなが見ている(少なくとも存在は知っている)映画も必要だなあと思いスピルバーグの大傑作『E.T.』をチョイスしました。
けれどこの映画の公開も38年前。若い人はかなりのクラシック映画に思えてしまうのかもしれませんね。
厳密にはこの曲は『E.T.』そのものではなく、金曜日21時から毎週放送されていた『金曜ロードショー』で『E.T.』が放送された週末の夜のイメージです。またみんなで週末の夜にコーラと宅配ピザを囲んでテレビで『E.T.』を見たい。

・『No.9』(題材映画:『太陽を盗んだ男』/1979/日本作品)

映画において戦闘シーンというのは結構重要な要素だと思います。アクション映画はもとより、SF、ホラー、戦争、サスペンス、ヤクザ、スパイ、時代劇、西部劇、怪獣特撮などなど様々なジャンルに戦闘シーンはあります。
ところで電少の2人は微妙に戦闘というものが似合わない。なので、戦闘シーンが強い映画はある程度避けてきたのですが(同様の理由でスポーツ映画も避けている)、『太陽を盗んだ男』が持つ、フェチズムによって織り成される戦闘シーンは電少っぽいかなと思い選びました。

・『こと映画に関しては......』(題材映画:『VHSテープを巻き戻せ!』/2013/アメリカ作品)

ここからは現時点でライブ未発表の曲たち。
映画というと皆さん劇映画をイメージすると思いますが、様々な映像作品を広義の意味で「映画」とするならばこの圧倒的に多いのはドキュメンタリー映画です。なので、電少もドキュメンタリー映画を題材に扱いたかったというのが選出理由。
アルバムの中に電影と少年CQ版『ポケモン言えるかな?』をインターミッション的な意味も込めて入れたくて作った曲です。最初はポケモン映画を題材として権利とって『ポケモン言えるかな?』を実際にカバーするという案もありました(既にピチカートファイヴがやっていたので没になりました)。

・『メカニカル/デートプラン』(題材映画:『WALL-E』/2008/アメリカ作品)

映画を意味する“movie”は本来は「動画」という意味だし、映画がそもそもは絵(写真)が動くというビックリショーから始まった歴史から見ても、アニメーション(この語も生命のないものを動かすという意味の“anima”を語源としている)は映画の基本の楽しみ方を現代でも守り抜いている創作形態だなあと思っております。なので数ある映画群の中でも一本はアニメーション作品をアルバムの中に入れておきたいと思っています。
『WALL-E』を選んだ理由は先行してあったこの楽曲のデモが、ディズニー映画でよくある日本語版のエンディングでこの曲が流れていたら泣けると思ったからです。
電少の2人の声質はとてもディズニー感があると思っています。1stアルバムに収録された『アラジン』を題材にした『アンダー・ニュー・ワールド』しかり。
本質的に王子様のユッキュンが作詞してくれた事でよりディズニー感が増しました。

・『Bird Watching』(題材映画:『鳥』/1963/アメリカ作品)

上記したアニメ映画のほかに、ホラー映画というジャンルも物語の基本形態としてとてもリスペクトをしていますため、アルバムには必ず一曲入れないとと思っています。
物語の基本的な骨組みには必ず「恐怖」が少なからず必要というのが僕の持論です。
『シェイプ・オブ・ウォーター』もホラーチックな作品ではありますが、もっとより恐怖を追求した作品をと思い、色々試した結果、厳密にホラーというと微妙ですが、ヒッチコック監督の『鳥』が、アルバムのバランスを担うためにも、作曲家の久徳さんがやりたいこと、長田がやりたいことにもぴったりだったために選ばれました。
ホラー映画に関してはやりたい題材がたくさんあるのですが、気を抜くとホラー題材の歌ばかり歌うグループになってしまいそうなので気をつけています。現状でも『悪魔のいけにえ』『雨月物語』『シェイプ・オブ・ウォーター』『鳥』、それにSFホラーコメディの『マーズアタック!』と5曲も題材にしている映画がある。(ちなみに2ndアルバムの7曲目『THE FLY』はタイトルは拝借しているものの、デヴィッド・クローネンバーグ監督の傑作ホラー『ザ・フライ』とは関係がありません)

■スタッフクレジット

最後に配信版だとご尽力いただいた方々がわからないので、アルバムのスタッフクレジットを載せたいと思います。

クレジット:
M_1『クロニックデジャヴのピクチャーショウ』
作曲:久徳亮 / 台本:長田左右吉

M_2『Pa.Pa.La.Pa.』
作曲:植木雄人 / 編曲:タカユキカトー / 作詞:植木雄人・長田左右吉

M_3『悪い奴ほどよく眠る』
作曲:植木雄人 / 編曲:久徳亮 / 作詞:植木雄人・長田左右吉 / サックス:村上大輔

M_4『Bubble Ballet』
作曲:幕須介人 / 作詞:長田左右吉

M_5『メカニカル/デートプラン』
作曲:yellowsuburb / 作詞:ゆっきゅん

M_6『apple yard』
作曲:しずくだうみ / 作詞:長田左右吉 / 編曲:大橋翔司(The World Tear Us Apart / ラグチューシャック)

M_7『THE FLY』
作曲:タカユキカトー / 台本:長田左右吉

M_8『こと映画に関しては……』
作曲:植木雄人 / 編曲:タカユキカトー / 作詞:長田左右吉

M_9『No.9』
作曲:植木雄人 / 編曲:タカユキカトー / 作詞:長田左右吉

M_10『Bird Watching』
作曲:久徳亮 / 作詞:長田左右吉

M_11『細雪』
作曲:久徳亮 / 作詞:長田左右吉

M_12『月世界旅行』
作曲:ドクター赤松 / 作詞:長田左右吉 / 活弁:早坂七星

M_13『クロニックデジャブの電影と少年CQ』
作曲:久徳亮 / 台本:長田左右吉

M_14『E.T.weekend』
作曲:しずくだうみ・みね / 編曲:みね / 作詞:しずくだうみ・長田左右吉(原案) / サックス:村上大輔

歌:電影と少年CQ
ルアン
ユッキュン

ディレクション:長田左右吉
マネジメント:街田格

ディレクション協力:久徳亮

レコーディング:タカユキカトー(M_1,2,3,5,6,7,8,9,10,12,13,14) / 藤木和人(M_4,11)

ミキシング:
久徳亮(M_1,6,10,11,13)
タカユキカトー(M_2,3,5,7,8,9,14)
幕須介人(M_4)
ドクター赤松(M_12)

マスタリング:大城真
ダンス振付:Rikako

アルバムデザイン:シマダマユミ(TRASH-UP!!)/長田左右吉/ルアン(曲タイトル文字及びイラスト)
写真撮影:相原舜
衣装:HEIHEI

A&R:屑山屑男(TRASH-UP!!)

協力: (50音順):
ALi(anttkc)/加賀誠人(Project92.com)/吉良ナム/ちえん/土屋リサ/火山功士/松田さつき/マツモト/山本果樹園(三鷹)/寮母