犯人さがし

「そこの兄ちゃん、ちょいと話を聞いてくれないかね。私は仕事で話の読み聞かせをしているのだが、その練習に付き合ってはくれないかね?」
「ああ困った。知らない男に声をかけられてしまった。こういう時は無視するに限るね」
「勿論タダとは言わないよ。ほら、一万円をやろう」
「これはいい仕事だ。話を聞くだけで一万円ももらえるとは。いいだろう、聞こうじゃないか」
「ありがとうございます。では、聞いてください」


昔々あるところに賢い娘がいた。賢い娘はその賢さ故に周りから少々浮いていた。とある講義にて教授がとある昔話を語った。そのお話の結末を聞き、娘はくすりと笑ったが周りは何が面白いのか分からずしんとしていた。娘は恥ずかしくなり、顔を本で覆い隠した。その反応を教授は見逃さなかった。

「君のそれは才能だ。もっと自信を持ちたまえ」

娘は教授の言葉に「やめてください」と首を振った。教授はどうして娘が否定するのか分からず、「あんな奴らにあわせる必要なんかない」と言った。娘は「やめてください」と首を振るばかりだ。「君はこんなところで才能を殺すべきではないんだ。君にふさわしい場所はここではない!」と教授は叫んだ。娘は「やめてください!」と近くにあった花瓶を持って、教授の頭を殴った。殴り続けた。やがて教授は動かなくなった。

さて、犯人はだれでしょう。


「そんなの簡単だ。この娘だ」
「そう思いますか。残念ながら不正解なのです」
「え、だってこのお話には娘と教授しかいなかっただろう。あ、もしかして同じく講義を受けていた者達とかって言わないだろうね」
「言いませんよ」
「じゃあ誰だっていうんだい」

「私と、そして貴方でございます」

「なんてことをいうんだ。このお話に俺達など出てこないだろう」
「おっしゃるとおりでございます。私達はこのお話に出てきません」
「ではなんで俺達が犯人だというでたらめをいうんだ」
「でたらめではございません。私がこうやってお話をしなければ娘が教授を殺す必要などなかったのですから」「そういうもんかね。お前が悪い意味は分かったが、俺が悪い意味はなんだっていうんだ」

「それはですね、私から金を受け取り、私が話をするきっかけを作らなければこうならなかったからですよ」


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