なぜ人は「キンプリを見てください」しか言えなくなってしまうのか ―初心者のための『プリティーリズム』シリーズ入門(4)―


 迷いなくゴールに進めて、なんでも解決しちゃう人っていうのが、大体この手の作品の主人公になるじゃないですか。そうは絶対にしたくなかったんですよ。「みんな友だちだよ!」みたいなのはしらじらしくって。うそうそそんなの!そんなアニメを見て育った女の子たちは絶対将来苦労するんだから、だめですよ。(…) いやほら、表面だけの友だちづらした奴はいらないよ、ってことなんです。 (菱田正和監督。『プリティーリズム・レインボーライブ』について。『プリティーリズム・オールスターセレクション アニメ公式ガイドブック』p.118-9)

 

プリティーリズムの魅力その4 :妥協しない重厚なストーリー

 いよいよ最後の魅力、ストーリーです! これまで、どうしてもプリティーリズムの魅力を短い言葉で伝えようと思うと、ストーリーよりもライブの凄さを強調したり、ストーリーのショッキングな部分を画像で伝えるという形になってしまいがちでした。

 それでも上手く伝わらないとどこかでわかっているから、最後にはあふれる想いを「プリティーリズムを見てください」という言葉に込めて流す………いつか伝わると信じてくり返し………こう書くと詩人っぽいですが傍から見るとただの危ない人です。(いつも「プリティーリズムを見てください」ばかり言っていてごめんなさい……自覚はあるのよ。)

 ただ、これもやっぱり仕方がないことなのだと私は思います。プリズムエリートに語彙がないんじゃありません (たぶん……きっと……)。ストーリーに隙がないのです

 先に結論からいきましょう。プリティーリズムのストーリーを一言でいい表すなら、「重厚」です。重厚というと、どっしりとして落ち着いた様子のことを普通は指しますが、ここでは単純に「重くて」「厚い (熱い?)」という意味です。 

 そしてもう一つ先に強調しておきたいのは、プリティーリズムは、子ども向けだからとかそういう理由で妥協することは一切ありません。冒頭に引用した監督の言葉からはそれが十分に伝わってくるのではないでしょうか。妥協しないからこそ、大人でも満足し、深く感動する作品として完成されています。


ストーリーの話と全然関係ないけど、パジャマパーティーがかわいい。(プリティーリズム・オーロラドリーム Rhythm13 [DVD]) 


 さて、プリズムジャンプの話とは打って変わって重い書き出しにしてしまいましたが、とりあえずは『プリティーリズム』シリーズの特徴を書いていくことにしましょう!

 まず、このシリーズの大きな特徴として、本編が18分程度しかありません!『プリパラ』のみを視聴している方には信じられないかもしれませんが、毎週実写パートに時間が割かれていたのです。その18分の間に毎回ライブが入るし、そのライブには先述のプリズムジャンプが含まれています。

 ちょっと待って? 一回18分でライブまであって、どこにストーリーなんて入れられるの? と思ったあなたはとても鋭い。私もいま記事を書きながら冷静に考えてるのですが、一体どこに詰まってるんだ……?

 いや、茶化しているわけではなく、ほんとうに不思議なんです!! 体感時間というのは恐ろしいもので、18分程度だなんて全然思えないんですよ! 1話1話にストーリーが詰まっているのに、無理して詰め込んだようには見えない……まるで魔法みたいなアニメです。

 18分のなかにあらゆる感情がつめ込まれている、というと大げさに聞こえてしまうかもしれません。それでも、この短い時間で笑ったり切なくなったり、泣いたりドキドキしたり……たくさんの感情がゆさぶられます。

 本編が短いというのは、初めて視聴する人にとってもメリットかもしれませんね。50話と言われるとちょっと尻込みしてしまいますが、短いのでけっこう気軽に見始めることができるのではないでしょうか。 

18分で本編を作れるのに、90秒は数えられなかったらしい……(笑)  (注:レインボーライブ本編のストーリーの多くが紹介されています。本編未視聴の方は注意。)


 ちなみに『キンプリ』は宣伝も含めて70分程度だったかな? 本編は60分程度だったと思います

 プリキュアの映画が70分、アンパンマンが50分なので、その中間くらいの時間です。短いと思いましたか? でも、侮っていると死にます。冷静になって考えてみましょう。洗脳済みのエリートたちをもって「電子ドラッグ」と呼ばせる『KING OF PRISM by PrettyRhythm』………。これをプリズムの煌きに耐性のない人が90分とか浴び続けたらどうなると思いますか……? 


 

 そう、きっと60分で良いのです……良いのです……。




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 冗談はさておき、次にストーリーの特徴です。先に「重厚」だからこそ語彙がなくなると書きましたが、いったいどのように重厚なのでしょうか。各シリーズの内容については次以降の記事で紹介するので、ここではシリーズに共通する特徴を簡単に述べることにします。

 プリティーリズムの一番おもしろいところは、物語が単線的ではないところです。大会があって、そこに向かって練習をするという点では一つの目的に向かっているようにも見えるのですが、実はそれぞれのキャラは胸の内にまったく異なる思いを抱いています。それが、ときに重なったりぶつかったりしながらストーリーが進んでいく。そこに大人たちの思惑や、組織としての思惑までもが絡んでくる……。

 多数のキャラクターが繰り広げるストーリーには、群像劇という言葉がぴったりではないでしょうか。

 そして、レベルの高い群像劇になっているということは、個々のキャラが生き生きとしているということを意味しています。もしもキャラクターがただの操り人形でしかなかったとしたら、物語は決められた結末に向かって一直線に進んでいく味気ないものになってしまうでしょう。しかし、プリティーリズムのキャラクターには (ときに製作陣までもを驚かせるほどに?) 血が通っているのです。視聴者の想像を大きく上回るような行動を採り、悪くいえば話を引っ掻き回してくれます (笑)

 キャラクターの一人ひとりに命が吹き込まれいて、それぞれがそれぞれの意志で動きまわり、相互に影響を与え合い、成長していく。だからこそ、この話は「重くて」「厚い」のです。

(『プリティーリズム・レインボーライブ』OP2 より)


 記事の冒頭で「迷いなくゴールに進めて、なんでも解決しちゃう人っていうのが、大体この手の作品の主人公になるじゃないですか。そうは絶対にしたくなかったんですよ。「みんな友だちだよ!」みたいなのはしらじらしくって。うそうそそんなの!」という監督の言葉を引用しました。

 この言葉の通り、物語は迷いなくゴールには進まないし、簡単に「みんな友だちだよ!」とはなりません。少女・少年たちが、ぶつかり合って傷つき、ときに自分とは異なる価値観を理解して受け入れながら、ひとりの人間として成長していく。

 このように、時間の制約があるなかでも、「人間」同士がぶつかって成長していく様子を描いている。それこそが『プリティーリズム』という作品の素晴らしさなのだと、私は思います。

 そして、単純なストーリーではないからこそプリティーリズムをいい表す適切な言葉を見つけることができなくて、今日もエリートたちはゾンビのように繰り返すのです………。「プリティーリズムを見てください!!!」。

 

 

 想像以上に長くなってしまいましたが、ここまでで「(1) そもそも『プリティーリズム』とは…?」は終わりです。次の記事からはシリーズの系譜を追いつつ、『キンプリ』の前提知識などをまとめていきます! 大体書いてあるので、明日には更新できる……かな? ではでは。




*以下、プリズムエリートの方々へ補足:

 記事冒頭で引用したインタビューは「プリティーリズムで描きたかったものとは?」と題されたもので、監督菱田正和さんのほかに、シリーズ構成の井内秀治さん・坪田文さんの三人がお話しています。プリティーリズムシリーズがどのような理念や葛藤によって作られてきたのか、そして製作者の方々がどれだけこの作品に情熱を注いだのかがよくわかるインタビューなので、読んだことのない方はぜひぜひ読んでみてください。

 とくに、蓮城寺べるの某ジャンプがコンテ段階ではどのようなものだったのか語られている部分は、読むたびに何故か泣いてしまう……プリリズファンの方は必見です。ボツになった仁のラストについても書かれていますが、これが実現していたらキンプリはありませんでしたね…(笑)。以上、補足というか宣伝でした。

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