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「普通」から疎外される人たちを可視化したい。『敏感肌・ADHD向け』の美容情報を発信する理由

Sisterleeをご覧の皆さま、はじめまして。呉樹直己と申します。軽く自己紹介をさせていただくと、田舎で暮らす20代の大学生です。Twitterアカウントを持ち、ブログを運営したりしています。日本生まれ・日本在住の日本語ネイティブで、出生時から日本国籍を有している、この国のエスニック・マジョリティでもあります。それと……それぐらいかなあ。華々しい肩書は何もないですね。

自分語りがもう少し続きますが、しばしお付き合いください。わたしは、Sisterlee編集部様から、自分語りをしてほしい(超意訳)というご依頼をいただいてここに紙幅を得ているのですから。

SisterleeはTwitterのコスメアカウントから始まったウェブメディアとのことなので、美容関係の情報を挙げてみましょうか。肌質でいうと、敏感肌です。軽度のアトピー性皮膚炎持ちで、ステロイド外用薬で治療しています。化粧品の成分の中ではとりわけエタノールに弱く、みんな大好きナチュリエのハトムギ化粧水ですらピリピリしてしまって使えません。基礎化粧品は常に慎重に選んでいます。

そして、発達障害の一種であるADHD(注意欠陥・多動性障害)の当事者でもあります。二次障害として鬱の症状も持っており、通院・服薬をしながら辛うじて日々の生活を営んでいます。わざわざ言うほどのことではない、と切り捨てるにはあまりにも強く、この障害は、わたしの生活を支配し、困難なものにしてきました。

それでもわたしは、わたしなりに、美容やコスメを趣味として楽しんでいます。そしてその様子を、ちょくちょくネットの海に放流しています。

この世にはいろんな人間がいる、ということを、近年とくに実感していらっしゃる方は多いんじゃないでしょうか。漠然とした書き方をしましたが、本当に「いろんな人がいる」としか言いようがないくらい、いろんな人がいるんですねえ(小泉進次郎顔で)。

SNSの発達は、個人の想像力を遥かに超える多様な生の在り方を可視化しました。わたしたちは、おのれが漠然と考えていた「普通」「標準」「世間一般」がいかに自分本位で狭量なものであったか、日々思い知らされています。

しかし、人間は残念な生き物なので、「いろんな人がいる」という真理から演繹していくだけでは、なかなか実感に至らなかったりする。わたしもそうです。であれば、個別の事例から帰納していく読み物があれば役立つのではないか。「いろんな人がいる」をもっと具体的にして、「いろんな人の例」の中身をわかりやすく提示した読み物があってもいいんじゃないか。たとえば、「ADHDの人」とか。

CHANELとDiorと、コンサータ

ここで、以下の写真をご覧ください。わたしの持ち物を写した写真です。

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右から、CHANEL・Dior・コンサータとなっております。

CHANELは皆さまご存じの、世界的に有名な高級ブランドです。写っているのは、CHANELのアイシャドウ、オンブル プルミエール クレームの804番です。Diorも説明は要りませんよね。こちらも大変有名です。写っているのは、ルージュ ディオールの999番です。

そしてコンサータは、ADHDの治療薬です。わたしはこの写真を、ブログのアイコンにしています。コスメ愛好家には発達障害者もいるのだという、当たり前なのに、あまり当たり前としては語られていないことを、わかりやすく示すために。

さきほど、Sisterlee編集部様から「自分語りをしてほしい(超意訳)」という依頼をいただいた、と書きましたが、もちろんこれは冗談で、正確には、「ブログで敏感肌・ADHD向けの美容情報を発信する理由について書いてほしい(要約)」というお声がけをいただいていたのでした。

これに直接的にお答えするのならば、シンプルに「わたしが敏感肌のADHDだから」ということになります。敏感肌で、抑鬱ありのADHDだから、「普通」に美容を行うことが難しい局面がある。そんな人はわたしだけではないはず。なのに、ADHDであることを切り口にした美容情報はまだまだ少ない。であれば、自分で書いて増やしてしまおうと思い立ちました。

わたしの言葉の主語はすべて、「わたし」だけど

もちろん、ADHDの診断名は、わたしという人間を形づくるアイデンティティのごく一部でしかありません。わたしに当てはまることが、ほかのすべてのADHDに当てはまるわけでもありません。わたしの言葉の主語はすべて、「ADHD」ではなく「わたし」です。しかし、あえて「ADHD」というマイノリティ属性を切り口にしてものを語ることには、一定の意味があると思っています。

わたしはこの文章の冒頭でさらっと自分のエスニック・アイデンティティを明かした挙句、「華々しい肩書は何もない」などと書きましたが、日本国籍を有していることは、この国においては紛れもない特権なわけですよ。特権なのに、華々しい肩書としてはカウントされず、当たり前に「ある」ものとして扱われている。「ない」人は時にゆるやかに疎外され、時に激しく迫害され、周縁化されているんです。

発達障害も、ある意味では似ています。当事者は当たり前に「いる」のに、それを切り口にした美容情報は少ない。発達障害者はマイノリティで、「普通」は「そうではない」ことになっているからです。

「普通」は「そうではない」ことになっているからこそ、市販の化粧品たちは実は、ほとんどが定型発達(発達障害ではない人)向けです。そのように意図して製造されたものではなくても、わたしにとっては実質そうなのです。

それを説明するために、わたしが使っている基礎化粧品をひとつ紹介させてください。

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メディプラスというブランドの、オールインワンゲルです。
オールインワンゲルとは、洗顔後にこれを塗るだけで最低限のケアができる優れものです。抑鬱が酷くて、化粧水や美容液や乳液など複数種類の液体を顔に塗る体力がないときでも、スキンケアを可能にしてくれます。
また、容器がポンプ容器なのもいいところです。蓋を回し開ける必要がなく、片手で押すだけで適量を取り出すことができるので、体力がないときも使えます。

成分もアルコールフリー・香料フリーで、個人差あるとは思いますが少なくともわたしは、肌荒れせずに使えました。なお、うちの近所のバラエティショップで購入できますし、オンラインショップもあるので、鬱が酷くて外出できないときでも手に入ります。

これは、敏感肌かつADHDのわたしでも使える貴重な商品です。
わたしは、化粧品を買うとき、ADHDのわたしでも使えるか?を常に念頭に置いて選択するようにしています。その結果、スキンケア用品はポンプ容器の商品しか選ばないようになり、選択肢が大幅に減りました。

でも、いいんです。ADHD目線で商品を選ぶことは、単純にわたしの生活を楽にしてくれるとともに、「普通」には生きられない自分を受け入れる訓練として意義があるのだから。

化粧品を買うことで、「世間の声」に抗い続ける

化粧品を買うことは、わたしにとっては、ADHDである自分を受容し、自分を知り、よりよい生活を営むための鍛錬そのものなんです。自分が感じる不便感を商品選択に反映することは、自分の感じ方を尊重しているということを意味する。自分が感じる生きづらさを甘えや努力不足として切り捨てるのではなく、受容していることの証だと思います。

スキンケアも満足にできないなんて大人として情けない、みたいな、内面化された「世間の声」に抗い続けるために、今日もわたしは、自分なりの基準で化粧品を選び、自分なりに使い、自分なりに美容を楽しんでいます。

最後に、もう一度自己紹介をさせてください。なんたってわたしは、自分語りをするために紙幅をいただいているのですから(違います)。

こんにちは、呉樹直己です。敏感肌で、ADHDです。わたしはここにいます。伊勢丹の化粧品フロアにも、マツキヨの化粧品コーナーにもいます。もしかしたら、あなたのすぐ隣にも。

執筆=呉樹直己
写真=ヘッダーのみUnsplash、他筆者提供

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