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ショートストーリーの茶話会 4

3でご紹介したストーリーと同じ冒頭で、「壮大なストーリー」へ展開させたお話です。

SFコメディですが、宇宙から持ち込まれたウイルスを扱っておりますので、このご時世に不快だと思われたならお読みになりませんように。

「ウイルス?笑い飛ばして免疫力、上げたるわ!」という方は、どうぞお進みくださいませ。



題名 『ウサ子、地球を救う』


あたちは、赤いお目々に白い毛のミニウサギ。

名前はウサ子。

ママと一緒に小さなマンションのお部屋で暮らしていたの。

あたちが子うさぎの頃は、ごはんをいっぱいくれたし、へやんぽ(ケージから出して部屋を散歩させること)もさせてくれた。

でも、大きくなってイタズラするようになったら、ケージからだしてくれなくなって、身体は大きくなったのにごはんの量は変わらなかった。

「おなかすいた! へやんぽしたい!」って、ケージをガシガシしたり、足ダン(うさぎが後ろ足で床を叩き、大きな音をさせる)しても、「うるさい!」って叱られるだけ。

そして、今日は久しぶりに出してくれたと思ったら、いきなりキャリーバッグに入れられて車の中へ。

健康診断かな?

それとも爪切り?

車が停まって下ろされて、キャリーバッグから出されたら、車は行っちゃった。

ここ、どこ?

広い野原で、あっちに森があるけれど、知らない場所だよ。

どうしよう、怖い獣の臭いがするし、空には大きな鳥がいる。

天敵って見たこと無いけど、ウサギの本能でわかるよ。

怖いよ~!

あたちは、隠れるところを探して、うろうろした。

藪があったので、そこに隠れようとしたら、ガサガサ音がして、銃を持った身体の大きな男の人が出てきた。

銃って、テレビで見たから知っている。

あたち、撃たれるの?

逃げようとしたら、反対側からも銃を持った男の人がやってきた。

見回したけど、逃げられそうなところがない。

その場で走り回っていたら、二人はすぐ目の前までやってきた。

もうダメだ。

あたちは震えながら目を閉じた。

でも、いつまでたっても、あたちはズドンとされなかった。

突然、野太い声が響いた。

「隊長!こんなところにいらしたんですか!」

その一言で、私の意識は目覚め、ウサ子の意識は眠りについた。

目の前にいるのは、地球人の自衛官と機動隊員になっているが、間違いなく私の部下だ。

同時に自分の状況に気づいて、私は絶叫した。

「どうして、うさぎに憑依転送されているんだ~!」

ガヤガヤと集団が近づいてきた。

「君たちの隊長は見つかったか?」

ニッカーポッカーを履いて安全第一ヘルメットを被り、ドリルだの圧縮機だのを持った連中だった。

ああ、こいつらは第5部隊、工作班の連中だな。

機動隊員が、黙って私=ウサ子を指さした。

外見は地球人のひげ面の現場作業員である第5部隊隊長が、おそるおそる私に尋ねた。

「まさか……第0部隊隊長……ですか?」

私はすぐさま飛び上がり、そいつの顔にウサパンチをお見舞いした。

「バカ者!うさぎに憑依転送するなど、何を考えているんだ!すぐにまともな地球人に替えろ!」

うさぎはホリホリを得意としているから、けっこう本気のウサパンチは強力だ。

さらに私の戦闘力が加わっているのだから、アホ隊長は傍の木に激突した。

「落ちついてください、この地球人の身体は借り物なんですから、我々の任務が終われば返すんですよ。傷つけないでください。それに地球上での変更は無理です。ジュピターベースに戻ってやり直さなければ……でも一度憑依転送されたら、一週間はできません。あなたの行方不明で、任務が遅れているんです」

安全第一ヘルメットからてぬぐいをのぞかせている奴=第5部隊曹長が泣きそうになりながら、必死に説明している。

すっ飛ばされた隊長は、他の連中が救出して、すぐさま身体の修復にかかっていた。

「で、地球に入ってから、かなり時間をロスしているのか?」

私の問いに、ようやく曲がった首をまっすぐにした第5部隊隊長が答えた。

「三日たっています。あなたが行方不明になってしまって、遂行が遅れていまして」

「それは私のせいか?」

睨んだが、自分でもわかる。

うさぎのまぬけな顔では迫力などないことを。

それでも普段の私を知っているだけに、相手は大慌てだった。

「いいえ、こんなミスを犯したのは転送を司る我々の責任です。とはいえ、急がないと。X4-18は第9部隊による除去が進んでいますが、大本の奴はまだ生きています。他の隊員は、すでに目的地へ転送済みです」

「仕方がない、このままで指揮を執る!私のMBDガンは?」

機動隊員がベルトにつけられたままの銃を差し出した。

この2人が持っているのも一見普通の銃だが、我々が持参した「対象物を瞬時に分子レベルに分解して消滅させる」特殊兵器だ。

じろりと第5部隊の方を見ると、あわてて1人が自分のベルトから、地球人が見れば電動ドリルのようなものをとりだして、私の銃に光を当てた。

みるみる小型化する。

それを自衛隊員がベルトを私の腹に回して、白いもふもふの背中に固定してくれる。

「行くぞ」

私の一声で、この小さな島国の隣、目的地の大国へ我々は瞬時に転送された。



地球はまだ科学力・民度共に劣っているために、地球人のごく一部の者をのぞけば知られていないが、すでに銀河は連邦国家となっている。

私は、銀河連邦防衛軍、太陽系方面司令室所属、第0部隊隊長だ。

名前は伏せておこう。

第0部隊は、通称斬り込み隊、もっとも戦闘力の高い者で構成されており、その連中を率いる私は歴戦の軍人だ。

いくら民度が高くなっても、必ず「自分が一番偉い選ばれた人間だ」と勘違いしている愚か者はいる。

銀河連邦中から終結した勘違い連中によるテロリスト集団は、長年連邦政府が頭を痛め掃討作戦を続けていたのだが、ようやくほぼ壊滅に成功した。

問題は、こいつらが本拠地から逃げる際に、まだ未開の星である地球に目をつけ、地球人を奴隷化し自分たちの惑星にしようと計画していたことだ。

そのためにX4-18と我々が呼ぶ、非人道的なウイルスを「正義の戦士」と自称する連中の体内に隠し、地球へと転送させた。

地球の中には、こいつらにうまく利用されて協力している人間もいる。

テロリストの親玉と科学者たちは、一足先にその協力者たちに憑依転送して、ウイルスを持ち込む仲間を待っていた。

このウイルスは、51才以上の者、心身に持病、障害のある者に地球上にある病気とよく似た症状を発症させ抹殺するという性質がある。

つまり、奴隷として役に立たない地球人はすべて抹消する計画だった。

性格的にも役に立つ地球人、不要な地球人と選別しながら少しずつウイルスを広げ、自分たちの楽園を作るつもりだったのだ。

ただし我々防衛軍に加えて連邦警察も非常警戒網を敷いていたから、特殊カプセルで梱包して体内に入れて運び、地球でそれを出して拡散させるという計画だったようだ。

ところが、ここで思いがけないミス、いやドジをやらかした。

崩壊した本拠地から地球人へ憑依転送されるはずだったのに、間違えてブタに憑依してしまったのだ。

ブタになった連中はパニックになって騒ぎ、面倒だと思った人間によって肉にされ、それを食べた人間達が発症してしまい、あっという間にウイルスはランダムに世界中に広がってしまったのだ。

ちなみに憑依転送とは、通常の転送とは異なり、目的地の星の人間の身体を借り乗り移るという特殊な方法だ。

主に銀河連邦にまだ所属していない未開の地で問題が起きたときに、我々の正体を隠すために使われる希有な転送方法である。

あらかじめ自分と似た性質、主に戦闘スタイルを持つ者を選び、申し訳ないが黙って身体に憑依して使わせてもらう。

本人の意識は眠り、我々が任務を終えて帰還する際に、借りる瞬間の時間まで遡って返却するから、本人も周囲も全く気づかない。

テロリストどももこの方法を使ったのだが、ブタに転送されたと聞いて、我々は木星にある太陽系司令室基地=ジュピターベースで腹を抱えて笑ったものだ。

まさか、銀河中から選りすぐりの戦士や科学者が集まる我が軍で、今回の作戦の全権を委ねられたこの私が、間違って「うさぎのウサ子」に憑依転送されるなど想像もしていなかった。

おのれ、転送した奴、帰ったら軍法会議にかけて水星送りにしてくれる!

死ぬまで、太陽の熱でうだりながら仕事しろ!



一瞬で我々は、ウイルスをばらまいている大国に到着した。

街から離れた深い森の中で、すでにウイルス駆除に当たっていた細菌・ウイルス・生物兵器担当の第9部隊のメンバーと私の部下達に合流した。

「おい、隊長は見つかったのか?」

白衣を着てマシンガンのように見えるウイルス駆除器を振り回していた若い男が、自衛隊員に尋ねた。

私の部下は、黙って銃を担いだウサギの私を指さした。

全員が呆然として私を見つめている。

そりゃそうだ。

泣く子も黙る第0部隊隊長が、銃を背負った白いもふもふウサギなのだから。

呆気にとられている白衣の若い男、第9部隊副隊長に、私はむっとしながら叫んだ。

「状況を報告せよ!」

「は、はい! 地球上のウイルスは78%駆除。しかし、この近辺で今もウイルスをばらまいている宿主が生息していて、それを消滅させない限り完全駆除は不可能です」

私は自衛隊員、機動隊員、武道家など、戦闘技術に長けた地球人に憑依した部下達を見回した。

「で、宿主はわかったのか?」

すぐさまひげ面の自衛隊員が答えた。

「いいえ、この近辺から放射されていることは確実ですが、本体の特定には至っておりません」

今回の作戦が決まった時に、我々地球へ送られるメンバーは徹底的に地球のあらゆるものについての知識を頭に入れた。

そして、大本の場所へ直接行っては敵に気づかれる恐れありということで、海を隔てた小さな島国へ憑依転送されたのだ。

全員が転送されたら、第9部隊は地球上に散りウイルスの始末、第0、第5部隊はすぐさま現地へ入り敵をたたくはずだった。

それが3日も遅れるなど、言語道断だ。

急がねば、どんどん感染者や死者が増えていく。

私はうたっち、いや立ち上がって辺りを見回した。

ウイルスに臭いはないが、妙な臭いを感じる。

しかもウサギは、けっこう鼻がいい。

この臭いは、本来地球には存在しないものの臭いだ。

うさぎで良かった……よくないよくない。

私は白衣を着ている第9部隊の連中に命じた。

「この先は我々第0部隊が進む。第9部隊はこのまま駆除、第5部隊は第9部隊を援護せよ」

「あの~、隊長が指揮を執るんですか? その姿で?」

第9部隊隊員で白衣の中年男が吹き出しそうな顔で尋ねたが、すぐさま私のウサパンチが炸裂し、そいつは草の上で仰向けになった。

さっき吹っ飛ばされた第5部隊隊長が、急いで本題に入った。

「テロリストブタの中で食用にされる前に逃走したものが、本体だと思われます。どのような形態変化を起こしているかわかりません。ご注意を」

「だから、我々がこの任務を命じられた」

ぶすりと言い返した。

この程度の仕事は、第5、9部隊だけで充分なはずだった。

だがこのウイルスには「宿主の形態変化」という恐れがある。

いくら特殊カプセルで防御していても、取り出されなければ溶け出し、どんな生物になるか予想不可能だ。

それゆえ戦闘を専門とする部隊が派遣されることになり、あいにく他部隊が出払っていたので、本来ならこの程度のことで出てくるはずのない先鋭の我々第0部隊が派遣される羽目になったのだ。

さっさと片付けて、ウサギから解放されるぞ!

「続け!」

自分でもわかるが、銃を背負ってぴょんぴょん走る白ウサギに先導されて、武装した屈強な男や女が走って行く様子は、さぞかし滑稽だろう。

私だって嫌だ。

「こちらでいいんですか?」

すぐ後ろを走る副隊長が問う。

「ああ、本来地球には存在しない生物の臭いがする」

「なぜ、わかるんですか?」

「ウサギだからだ!」

部下達はそれ以上訊かなかった。

当たり前だ、うっかりアホな質問をすればどうなるかは、長年私の下で働いていればわかっている。

森の中に入り、私は足を止めた。

すぐに部下達も止まる。

「銃をかまえろ。近いぞ」

私も背中から小さくなったが性能は同じ銃を下ろして、前足で持って構えた。

どうしてウサギの足の裏には毛が生えているんだ?

持ちにくい!

「隊長、あれを!」

1人が上を見て叫んだ。

「撃て!」

私は叫んだ。

木の上から、黒いブタにコウモリの羽が生えたような奇怪な生物が牙をむきだして襲いかかってくる。

私も部下も次々にレーザータイプの銃で撃ち、撃たれた生物は瞬時に消滅した。

普通の戦闘ではさすがにこの銃は使わないが、ウイルスや細菌などの生物兵器が相手の場合は、根絶する必要があるため用いられる。

「かなりの数です。報告されたテロリストの人数をはるかに上回っています」

部下の1人が叫ぶ。

私は冷静に答えた。

「地球上で繁殖したんだ。報告された数は当てにならん。全滅させろ!」

くそ~、毛の生えた手では撃ちにくい。

だが、私も歴戦の勇者、なんとか体勢を整え、うたっちして次々に撃破した。

約1時間後、コウモリブタはすべて消え去った。

それでも部下達は油断なく銃を構えている。

当然だ、私が終了を宣言していないのだから。

「このまま奥へ進む。まだ敵がいるぞ」

私は銃を背中に戻し、また四つ足で走り出した。

そうだ、ウサギの鼻にはまだ奇妙な臭いが漂ってくるのだ。

部下達は無言で私に続く。

森を抜け、岩場だらけの場所へ出た。

洞窟がある。

「この中にまだいる。おそらく、さっきの奴らは分裂体だ。本体はこの中だ。油断するな」

私は先頭に立って入ろうとした瞬間、おそろしい勢いで奇妙な臭いが近づいてくるのに気づいた。

「散開!出てくるぞ!構えろ!」

すぐさま、私も部下達も銃を構えて、出てくる敵に一斉射撃ができる陣形をとった。

やがて、黒い影が姿を現した。

親玉は、どんな形なんだ?

はあ~?

現れたのは、さっき倒したコウモリブタの2倍の大きさのコウモリブタだった。

芸が無いというか、いや、もう少しラスボスらしい形態になれなかったのか?

「撃て!」

どんな形態だろうが、退治するまでだ。

「隊長!ダメです!」

部下の1人が叫ぶ。

ただ、でかいだけではない。

こいつの皮膚が、我々の銃から出るMBD光線をすべて弾いてしまうのだ。

「まさか、こんな進化を!どうしますか? 一時撤退しますか?」

想定外のことは、どんな戦場でもありえる。

私はためらわずに指示した。

「退避!撃ちながら後退して、森の中から出ろ!」

その時、コウモリブタが私めがけて襲いかかってきた。

動物の本能で、一番弱そうな私を狙ったのだろう。

その時、手というか前足が滑って銃を落としてしまった。

繰り返す、どうしてウサギの足の裏には毛が生えているんだ~!

まともな人型なら、絶対にこんなミスはせんぞ。

「援護します」

部下達が前に出て撃とうしたが、コウモリブタが私に襲いかかる方が早かった。

「なめるな!」

私はとっさにジャンプして、奴の顔にウサパンチを連打した。

変な声を上げて、奴は動きを止めた。

そうか、銃はきかなくても、打撃は効果がある。

「撃ち方、やめ!」

そう叫ぶと、私は奴の頭に思いっきりウサキックをお見舞いした。

ウサ子がケージから出して欲しくて足ダンして鍛えた脚力に、肉弾戦も得意とする私のケリが合わさったのだ。

その破壊力は、敵の頭を砕くのに充分だった。

「亀裂が入った。集中攻撃せよ」

私の命令で、部下達は頭の割れ目に向かって一斉射撃を行った。

外側は防御できても、中身はもろかったようだ。

大型コウモリブタは、あっさりと消滅した。

私はすぐさまうたっちして、臭いを確認した。

もう地球にいるはずのない生物の臭いは無い。

「念のために、洞窟を調べろ」

副隊長と部下が3名、銃とウイルス探索装置を手にして慎重に洞窟に入り、しばらくしてから戻ってきた。

「報告、中には生物もウイルスも存在しません」

「任務終了。合流地点に戻る」

私はまた銃を背負い、屈強な部下達を率いて、ぴょんぴょん跳ねながら、第5、9部隊のいる地点へ戻った。

第9部隊は仕事を終えていた。

まだ世界中にウイルスが残っていたが、一掃するのは時間の問題だと報告してきた。

「残りのウイルスは第9部隊が根絶、第5部隊は第9部隊の任務終了まで地球で待機。地球人に憑依したテロリストどもは銀河連邦警察に任せ、我々第0部隊はジュピターベースに戻る。転送前に、憑依を解け」

すぐさま第5部隊隊員の1人がブルドーザーのようなものに乗り込み、我々に向かってパワーシャベルを向けた。

そこから深紅の光が出て我々を包むと、足下には地球人とうさぎの身体が横たわり、我々は元の姿になっていた。

やっとウサギから解放された。

「地球人の協力者は、それぞれ時間遡行を行い元の場所に戻します。えっと、このウサギも飼い主のところへ戻しますか?」

隊員の言葉に、私ははっとした。

人間に憑依する際はその記憶や感情が入り込まないように防御されるようになっているが、ウサギに憑依するなど想定されていないので、私はウサ子の記憶も感情も知っている。

「戻しても、ずっとケージの中に閉じ込められ、腹をすかせ、必死に頼んでも『うるさい!』と怒鳴られ、無視されて、三日後には捨てられるんだ。だが、どうしようもないな」

私はそう言うと、転がって眠っているやせて毛艶の悪い白ウサギを見下ろした。

私の部下も、まだ地球人に憑依している連中も、ウサ子を黙って見ている。

連れて帰りたいな、ふっとそんな気持ちが胸をよぎった。

だが、勝手に未開の星の生物を持ち帰ってはならない規則だ。

しかも、私は命令一つで激戦の最前線へ出る立場にある。

地球上で新しい飼い主を探してやることは規則上できないし、仮に許可されても私も忙しい身で、探す時間がない。

言い知れない寂しさと苦しさを感じていると、土星で流行している軽快な音楽が響いた。

安全第一ヘルメットを被った隊長が、地球のスマホに似た通信機をとりだして画面を見、にこりとした。

「司令官殿から許可が出ました。そのウサギをジュピターベースにお連れください」

「はあ~? どうしてそうなる?」

「実は、転送ミスの原因を調べているうちに、そのうさぎの飼い主の女がつきあっている男が、隊長が憑依するはずだった者で、そこから計算ミスが生じてうさぎに転送を。ついでにウサ子の素性を調べまして、あまりにも可哀想で司令官殿に飼う許可を申請しました。OKです」

「で、誰が飼うんだ?」

「もちろん、あなたです」

「冗談じゃない」と言いたかったのに、口から出たのは「私はウサギを飼ったことがないぞ」だった。

「大丈夫、すでに医療担当の第8部隊が調べて、お帰りになれば飼育資料がそろっていますから」

「地球で育ったウサギが、ジュピターベースの生活になじむと思うか?」

「捨てられて獣の餌になるよりはましかと思います」

それもそうだ。

私はのびている白いもふもふを抱きかかえた。

「転送します」

第5部隊によって、私と部下とウサ子はジュピターベースへ送られたのだった。



基地に戻った私は、ウサ子を部下に預けて司令室へ行き、司令官に報告した。

一応真面目に聞いていたが、報告が終わるとすぐに司令官は言った。

「で、ウサ子は?」

「部下に預けています。どうして許可されたんですか? ペットを飼うのはかなり規則が厳しいはずですが」

司令官は、デスクのスイッチを押した。

背後のスクリーンに、私が憑依して活躍するウサ子の姿があった。

「ウサ子は、地球を救った功労者だ。今度は我々が救う番だ。それに君が飼うんだ、可愛いじゃないか」

このタヌキじじい、面白がっているな。

それでも、ウサ子と別れずにすんでほっとしているのも事実だ。

敬礼して司令室を出て、自分の部屋へ戻ると、すでに立派なケージが置かれ、中にはガツガツ野菜を食べているウサ子がいた。

傍らには、通称おっかさんと呼ばれている女傑の第8部隊長と、あんちゃんと呼ばれている副隊長がいた。

「この子、おなかすかせているわ~。ちゃんと食べさせてあげてよ。それから、これ、飼い方の資料ね。少しでも具合が悪いようなら、すぐ連絡してよ」

ウサ子は、すでになじんでいた。

これまでの境遇が不幸だったせいか、地球外で飼われていても、抵抗はないようだ。

翌日にはケージに「銀河連邦防衛軍 太陽系方面司令室所属 第0部隊隊長室付き ウサ子(地球出身)」のネームプレートがつけられた。

戻ってきた第5部隊隊長が自ら作ったらしい。

「おまえたちは、宇宙戦艦やら武器やら通信機器の専門家だろう? どうしてうさぎのネームプレートなんか作るんだ? そしてこの仰々しい肩書きがついた名前は何だ?」

私の質問に、副隊長と一緒に取り付けた隊長は、重々しく答えたものだ。

「ここは軍隊です。所属をはっきりさせねばなりません」

なぜかやたらに皆が見たがるので、談話室にウサ子のケージを置いてみた。

しかし、ウサ子は餌も食べず排泄もしなくなり、第8部隊長はすぐさま私の部屋へ戻してきた。

帰ってきたら、すぐに餌を食べトイレでコロコロ出していたから、よほど私の部屋がいいらしい。

昼間は隊長室に、執務が終わればケージごと抱えて私室に戻るのが日課となった。

戦いに明け暮れて妻子を持つこともなく、二親も死んでいた私にとって、小さな家族が出来たようなものだった。

もちろん、これは内緒だ。

武闘派でならす第0部隊隊長が、そんなことを口には出来ない。

毎日、誰かしらが隊長室にやってきて、どうでもいいような用事を終えた後、デレデレとウサ子に話しかけるのが日常の風景になった。

これも隊員のストレス解消だとタヌキ、もとい司令官が言うので、好きにさせている。

以前は私の部屋に来るのは肝試しと呼ばれていたのに、なんたる変わり方か。

まあ、いい。

ウサ子は餌をふんだんにもらえ、毎日定期的にへやんぽし、第8部隊隊長直々に銀河系最高の医療で見守られている。

すっかり毛艶が良くなり、筋肉も付いて、元気に毎日をすごしている。

ウサ子にとってここの生活が幸せかどうかはわからないが、私も他の連中もウサ子の存在を好ましく思っている。

余談だが、私をウサ子に憑依転送させた第5部隊の隊員は、ウサ子をジュピターベースへ連れてくることになった功績により、水星を免れ海王星送りになった。

左遷には違いないが、水星でなかったことに泣いて喜んでいた。

今、ウサ子は私の執務室でへやんぽ中だ。

足下に来て鼻先でツンツンしているので撫でてやろう。

                  完

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