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続・住んでるマンションを退去したら被告になった話

前編はこちら→ https://note.mu/sirisiri/n/n997a1beb317f

被告になってから、私の生活は一変した

例えば、満員電車で足を踏まれた時に謝られたり

お酒を飲んで記憶がなくなるほど酔っ払ったり

友達と美味しいローストビーフを食べたりするたびに

「被告なのにすいやせん…」

みたいな気持ちになった

(些細な変化)


一方、彼は休日を返上し「答弁書」の作成にいそしんでいた


彼氏「壁の傷と油汚れの修復にかかる費用を複数社から見積もりもらって」

私「ハイッ」(いい返事)

彼氏「その時に、クロスの『張り替え』が必要なのかどうかも聞いて。傷や汚れ部分のクリーニングだけではいけないのかどうか」

私「ハイッ」(いい返事)


私は高校球児顔負けのハキハキとした返事をしたあと、言われた通りにクリーニング会社に問い合わせを行った


今の時代便利なもので、中にはLINEで画像を送ればどの程度の費用がかかるのか返事をくれるサービスがあった!

早速、壁の傷の写真をLINEで送付

数時間後に返事が来た(すごい)

業者A『概算価格でのご案内となり恐れ入りますが、1㎡500円~900円(税別)の間でお見積りさせていただいております。』

ヤッッッッスゥーーー!!!


神田あたりでランチ食べる時の価格帯じゃん!!!!!!



業者A『ご訪問して最終のお見積りをご案内いたしますが、作業をご希望されますでしょうか?
訪問見積りのみも無料で行っておりますので、ぜひご検討くださいませ!』


そうか、この業者さんは私がすでに退去した部屋で繰り広げられている裁判のために問い合わせているなど、露ほども思っていないんだろうな……

「この国のすべての家を綺麗にしたい」。そんな熱い信念を持ってこのクリーニング会社に入社したのであろう、ピュアな業者さん……

騙して、ごめん……



(米津玄師のそれっぽい曲が流れる)



気を取り直して彼氏に先方からのLINEを転送したところ、何やら不満げである

彼氏「いや、壁紙の張り替えが必要かどうか聞いてって言ったよね」(怒)

私「ハイスミマセン!」

庄やの「よろこんで!」の勢いで急いで業者さんにLINEを送る私


今回は割と早く返事が来た



なんか、1回目のやりとりから感じてたけど……


あまり仲良くないのに人との距離感分かってないちょっとめんどくさい友達並みに家にすぐ来ようとする……


ていうか、これ、

営業じゃん

とにかく家に上がってゴリゴリに営業しようとしてんじゃん


そうか……

私は逆に、騙されたのだ


さっきあれだけ、熱いクリーニング人生を歩んでいるタカシ(仮)を騙していることに心を痛めたばかりだというのに……


浮世を生きていくには、騙し、騙され、傷つけ、傷つけられなければならないというのか


私がタカシからのビジネスライクなLINEにショックを受けていると、私の仕事の遅さにイラついたのか彼氏から連絡がきた


このページを見てみると、私が今回つけた傷や油汚れ程度であればクロスの張替えは必要ないということが書いてある


というわけで紆余曲折ありましたが、まず、クリーニング費用の相場からすると「2万円は、ありえん」ということがわかった


その証拠をもとに、彼氏は夜なべをして答弁書の作成をした


20ページにもわたる超大作だった


内容はというと、今回の事件の発端、状況整理、世間一般のクリーニング費用の相場、有印私文書偽造問題、電話口の対応、この世の全ての不動産管理会社に対するメッセージ、とめちゃくちゃ壮大な内容になっていた


〜裁判当日〜

彼氏を代理人としているため、出廷しない私はふつうに仕事をしていた

仕事を終え、家に着くと彼氏がいた

彼氏「なんか俺が圧倒的すぎて判決が延期になった」

そんなことある?

聞くところによると、相手はまさか我々がこんなガチな答弁書を作ってくるとは思ってもみなかったようで、「アッ……すごいっスネ……」というこちらのガチさに若干引いた形で裁判は終わりとなり、改めて向こうも同じだけの材料を用意した状態で2回目の裁判に挑むことになったとのことだった

なんか、弱き者に優しい世界だな…と思った


〜裁判(2回目)〜


いよいよ判決の日


裁判は午前中

私は1回目と同じく仕事だったのですが、結果が気になりすぎて、とりあえず携帯を持って職場のトイレにこもった

裁判の終了時刻にLINEを送る


私「どうだった?」


彼氏「勝訴」



ッシャオラァァァァァ!!!!!!!

厳密には、壁紙22,000円が2,800円(部分負担)になったということだった



彼氏「みんな俺に圧倒されていた」

現場の状況としてはこんな感じだったらしい


簡易裁判所での裁判は、ドラマで見る「異議あり!」みたいな感じではなく、事前に裁判官と司法委員が答弁書を読んでおり、法廷では一通り内容を確認するのみであとは和解室という場所に誘導される流れとなる


我々の裁判が行われる法廷では同じ時間帯に10件くらい立て続けに裁判が入っているらしく、傍聴席には本事件の傍聴人でない人もたくさん座っている状況だったという

はじまる裁判


読み上げられる答弁書


ざわつく法廷


たじろぐ原告側の弁護士


スムーズな和解室への誘導



判決


高鳴る鼓動


勝訴



司法委員A「答弁書わかりやすいし、すごいですね。法務関係のお仕事されてるんですよね」

彼氏(神)「いえ、一会社員でございます」


司法委員B「弁護士の方かと思いました」


彼氏(神)「いえ、ただの会社員です」


若干、話盛ってない? とすら思うくらいに華麗に勝訴をキメたらしい彼氏(神)

相手側にはプロの弁護士がついていたわけで、それに対して勝ったことは本当に尊敬しかありません



そんなすげぇ彼氏、法廷ではどういう立ち位置だったのかなと思って、LINEの会話の流れでなんとなく聞いてみた



ズギュゥゥン!!!!!!



全く新しいプロポーズの形!!!!!!


〜数日後〜


晴れて「被告」という肩書きから逃れることができた私は、シャバの空気を楽しんでいた


もう、カラオケでロマンスの神様を歌うときに「被告なのに盛り上げてすいやせん…ヘヘッ…」といったようなうしろめたさを感じる必要はない……


とはいえ、減額されたぶんの請求はやってくる


私は指定された口座へ振り込みを行った


ネットバンキングからの振込なのでスマホから手軽にできる。まったく便利な世の中です


これだけ長期間かけた戦いだったのに、終わりがあっけなく指先だけというのは、なんとなく思うところがありました


彼氏が私の様子に気付き、振込してるの?ちょっとスマホ貸して、と言う

彼氏「俺に摘要欄を入力させてくれ」


言われるがままにスマホを差し出す私



彼氏が数分悩んで何かを打ち込み「これで」と返してきた画面を見て驚いた



ハンセイシテクダサイ



と書いてあった



銀行史上、こんな摘要欄はあっただろうか?



私は戸惑いつつも、そのまま振込を行った




そこからは、もう管理会社とのやりとりは何もありません


この件で、私が学んだことはふたつです

①世の中には割と簡単にわるいことをしようとする人がいること


②それは、正しい姿勢で臨めばきちんと成敗できること

私はもともと、買った食べ物についてるはずのソースがついてなかったりしても何も言えないタイプの人間なのですが、我慢する人が善ではなく、声を上げて悪事を淘汰していくことが善なのだと学びました

といい感じにまとめましたが



鬼のような彼氏をもつこと、というのも、騙し騙されの世界で生き抜いていく極意であると強く感じました



おわり



〈本日の一言〉

E.T.と甘栗は似ている



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