刑法の構造と逮捕の意味から考える警備業のリスクマネジメント

1. 警備員は悪い奴を見つけたら戦うべきだとおっしゃる方もおられるが、それはできない。そんなことをすれば刑法にひかかって逮捕される可能性があるから。警備員は権限がなくあくまで一般人。

 2. 刑法の構造はいわば形式から実質を考えましょうというもの。

(1)例えば警備員A(以下A)が工事中の契約施設の巡回中、不審者B(以下B)を発見したとする。「そこの君、何をしている?」と聞いたところ、相手は素手で殴り掛かってきたので、警戒棒等を使って応戦し、相手に全治1ヶ月の重傷を負わせた。ちなみにこちらはかすり傷程度の傷しか負っていないものとする。

この場合、刑法204条の傷害罪が成立するか問題となり、Aの行為が204条の文言に形式的にあてはまるかというところから始まる。

Aの行為の結果、Bは全治2ヶ月の重傷を負ったわけなので生理的機能が害されたといえ、「他人の身体に故意に損傷を与え」たと評価できよう。

(2)こういったAの行為が条文上の文言に形式的にあてはまることを構成要件に該当するという。

構成要件に該当すれば、A の行為は悪く(違法で)、責任がある(有責性あり)ことが推定される(構成要件の違法・責任推定機能)。なので、Aはこのまま例外的な事情がなければ理論上、逮捕され、下手すると起訴され、裁判にかけられ有罪となる可能性がある。

しかし、Aが悪くない例外的な事情がある場合、Aの行為は違法と評価されない。このことを違法性阻却事由という。

警備員の場合、警察と違い、権限がない。なので、本件の場合、正当業務行為は考えにくく、正当防衛が問題となる。

ここで実質的な判断が始まる。正当防衛の①急迫不正の侵害②防衛の意思③やむをえずにした行為、といった要件にあてはめ、法律解釈をしていく。

こういった実質的な法解釈の場合、必要性と相当性、それに場合によっては緊急性といった要素を検討していくことになる。

本件の場合①や②の必要性や緊急性はあるが、③の相当性については、体格差にもよるが、通常素手に対し、警戒棒を使うのは武器対等の原則に反する事、こちらはほぼ無傷なのに相手を全治2か月の重傷を負わしているのはやり過ぎであること等を考えると、相当性を逸脱した過剰防衛でAは違法である可能性が高い。Aは警備員なので通常心神耗弱・心神喪失でないことを考えると(警備業法3条1項7号)、責任もあるので、このままいけば刑務所行きとなろう。

もちろん、これはあくまで理論上の話なので、それまでに警察側の裁量により、逮捕されなかったり、されても起訴猶予や不起訴等の措置があるのでなんともいえない。

3. でも刑法の構造が形式から実質となっている以上、どんな事情があるにせよ、形式的にやってしまった段階で、推定を覆す事情がないか、あったとしてもその真実性が警察レベルで判断できないほど明確でなければ、当然、法と証拠に基づき、実質の有無を裁判で判断しましょうということになり、警備員は逮捕されてしまう。そうなれば民間の警備会社はダメージは大きい。

この国では逮捕は社会的な死刑宣告に等しい。なのでリスクマネジメントの観点から隊員には悪い人間を見つけて、挙動不審な言動が目立つようだと、無理して自分だけで解決しようとしないで安全な場所に逃げて、隊長に連絡して指示を仰ぐか、緊急性がある場合は警察に通報してくださいね、と指導している。

それが権限のない警備業のいたしかたない実態。しかしこの状況はなんとかならないものだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?