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夏の女神、夏の小説、夏の花

<前回までのあらすじ>
 アイドル小説家に道を照らされ、本当に作家となってしまったぼく。彼女に感謝を伝える機会はないかと、アイドル公式のスマホゲーム『乃木恋』の上位者特典「リアルイベントご招待」を目指すことになり、重課金者たちと熾烈な争いを繰り広げた末、遂に1位の座に輝く。
※一連の記事は下記マガジンに束ねています。https://note.com/sionic4029/m/mae74d1eb6131

続く人生の階段

 つくづく、ぼくは「面倒くさい」人生を送っていると思う。相手が「会いに行けるアイドル」であるなら、とっとと「握手券つきのCD」を買って握手しに行けばいいのに、それをすぐ選ばない。きちんと意味づけができるまで、一枚一枚のカードは切りたくない。

 ちょっとしたことでも、性格の面倒くささが足を引っ張って考えあぐねてしまう癖がある。この星に77億もいる人々の中で自分だけの人生を歩みたいと思ったら、それを定義し、条件付けし、行動し、ジャッジした上で納得したい。

 それ以外のことをしたら、全部後悔に繋がってしまう。そういう思いが人生の勝利条件を複雑にしていく。

 まだぼくには積まなければならないステップがあるはずだ。

 「乃木恋」の彼氏イベントはその後も何度かあって、とりあえずそれらは5位以内でクリアすることにした。特典がグッズだったので、リアルイベント参加がかかっていた前回ほど熾烈な戦いにならず、普通にイベント期間限定で用意された割引販売アイテムを全部買ったり、イベント期間中に販売されるガチャのカードで特効がつくのでそれを揃えたりすれば、そんなに難しくはない。

 スマホゲームでの順位はもういいので、むしろ大切なのは人生でもっと何を積んでいくか、だ。まだまだ照らされる側の存在でしかない、ちっぽけな自分である。本屋に行ってみろ。Amazonで取り扱ってる本を見てみろ。全部自分の著作か? 違う。今の自分など、広大な砂漠の砂の一粒みたいなものだ。

次に女神が照らした道

 小説家として何かを成したい、もっと売れたい、面陳されたい、今週のベストセラーの棚に並びたい、何かの賞を獲りたい。俗でいいし、何でもいい。そういう欲求を募らせて、混沌の塊のような状態にならなければ。生きるための喜怒哀楽のヒダ、海胆のように全身から突き出るように伸びた棘。一つ一つに自分を動かす理由を求めなければ。

 そして次に女神が照らしていた道は『令和小説大賞』である。

 ちなみにリンクを貼った『モデルプレス』サイトは、写真の撮り方やコントラスト調整が恐ろしく上手い……というかとても気遣いが窺える。おそらくこの写真の会場はLED照明で、光が白飛びしやすいギラギラした色で影ができやすい状況だったと考えられるが、他サイトの写真が概ね高山一実のご尊顔を影の入った写真で済ませているところ、モデルプレスはかなり綺麗なものをアップしていた。サイトに「モデル」を冠するだけあって、美に逆らうようなLED照明をも手懐けている。最高です。

 令和小説大賞……そう。このシリーズを読んでいる方ならご存じのとおり、ぼくは「賞」に選ばれないという点でかなりの自信がある。下読みか審査員か、相手はともかく、好かれる文章を書けない。

 特に応募のベースとなる『LINEノベル』や『LINEエッジ文庫』は、出版業界のライトノベル分野で金字塔を打ち立てまくっている三木一馬氏が関わっている。ちなみに三木氏は『NovelJam2018秋』のオープニングアクト(講演)だったし、因縁があるといえばあるし無いといえば無い。どっちだよ。

 これは参ったな。定義は色々あろうが、いわゆるライトノベルやWeb小説で勢いのある異世界転生は、何度かトライしては挫折し、自分でもうまくノリが掴めないジャンルだ。ちなみにこういうのを書いたことがあります↓

 だがしかし『令和小説大賞』は女神が照らした道。慣れないジャンルであっても、挑めというならば挑まなくてはならない。目を逸らしてはならない。自分で悩んでいてもしょうがないので、「その道のプロ」にともかく話を聞いてもらうのが一番だ。

令和元年版 傾向と対策

 思い立ったが吉日。ぼくはTwitterのDMで坂東太郎先生に相談し、会うことになったのである。下記リンクは坂東先生の著書。

 約束の5月10日、何の情報も持たずに行くのは意味がないと考えたぼくは、坂東先生との会合場所へと向かう前に、六本木の『文喫』での「LINEノベル あたらしい出版のカタチ」イベントを観覧することにした。このイベントは『令和小説大賞』を主催するLINEノベルのトークショウだ。

 得た情報をもとに、主催者側の狙い目を分析しようという魂胆での参加である。この登壇者たちでまったくヒントが得られないなんてことはあるまい。模試の出題範囲にヤマを張る学生の気分だ。

……そう意気込んで拝聴した内容であるが、ズバリ、登壇した編集者同士の「あるある話」だった。以上。

 トークショウだからね。セミナーじゃないからね。えー! なんか賞を獲れる秘訣とか教えてくれたっていいじゃないかよ~。時代は令和だろ~。これだけ書けば選考を通します! とか言ってくれよ~。言うかよ。

 文喫にほど近いトラットリア。坂東先生とは一連のNovelJam2018秋活動以来の再会。三ヶ月ぶりくらい? まずはご挨拶にと、出版されたばかりの『ブロックチェーン・ゲーム』にサインを入れて手渡しする。いやぁ、なんというか、作家が作家へ自著を贈呈ですよ。ある種の感動がある。先生、今日からぼくは同業者です。

 それからぼくは、とにもかくにも高山一実と『トラペジウム』と乃木坂46がいかに素晴らしいかという話をし、『乃木恋』で一位になるためにどれだけお金を使いゴールデンウィークを使い果たしたかを、無我夢中でまくしたてるようにした。

……そのおかげで、対策は『好きな物を好きなように書く』ということになった。ちゃんと小説の話をしなかったぼくが悪い……。って、そんなわけあるかいっ!

 いえ、まあ実際の対策としてはこうだ。告知されている審査員欄を見るに、三木氏だけでなくテレビ局やアニメ会社が名を連ねているわけで、これはおそらく流行の異世界転生というジャンルだけということではなく、実写ドラマ(映画)化、アニメ化を見据えた作品がそれぞれ選ばれるのではないかという予想がつく。

 ということは、そこに合致しそうなジャンルを読んで、求められる文脈を理解してトライするのがよさそうだ。坂東先生の鋭い読みに、これには同席した某氏も頷いていた。

 あー そーゆーことね 完全に理解した(ポプテピピックの絵を貼るの省略)『君の膵臓をたべたい』ね、『君の名は。』ね。はぁ~ん。

 って、書けるかーい! どっちもむちゃくちゃヒット作じゃねぇか! 若い男女の淡い青春なんざ遠く過ぎにけりなおれにとって、ゼロに何を掛けてもゼロだろうが! 

 仕方が無いので、文庫で『君の膵臓をたべたい』を買った。当時はKindle版がなかったからである。いまチェックしたらKindle Unlimitedになってた。実写映画も観た。浜辺美波の演技が切なくてギュンギュンきた。

 そのほか、最近の小説から映画・アニメとなった作品を大量に摂取した。小説が他のメディアになるときに何が求められているかを逆算して「映像化に際して、映えそうだなとプロデューサーや監督が感じたと思われるシーン」「脚本家(あるいは演出家)が『ここ変えねーと使いもんにならねーぞ』と脚色していると思われるシーン」「売れてる(売りたい)俳優女優をどういう配置にしてプッシュしているか」なんかを感覚的に把握しておくのがよいだろう、という考えからだ。

 それからはいつもの工程。スマホのアウトラインアプリに発想した内容を長い期間かけて少しずつメモしていく。本業があるので集中して発想に時間をかけることができないため、そういうのはハナから諦めている。もやっとした考えはもやもやしたまま書いておく。最初から綿密にしようとすると途中で飽きる。

 実際、プロット作成時までにいろいろと考えていた設定(主人公は高校生、部活動、少しSFみたいな設定)がしっくりこなくて棄てた。しっくり来ていないものを「なんとかなるんじゃないか」と拡張して練り続けるのは意味がない。一人の頭の中でやってることなのだから、自分が納得できないものを形にしたところで、いいアウトプットができるわけがない。

 そうしてぼくの夏が始まった。っていうか、締め切りが9月30日だったんで、本当にひと夏の戦いだ。サマーウォーズ!!!!!(意味の無い雄叫び)

人類最強と並び立つ

 そんな夏の風物詩。『乃木坂46 真夏の全国ツアー2019』で、またぼくは超絶な体験をする。

 チケットがなかなか当たらないという噂のライブツアー。「各地方での全日程に応募して当たったところへ行く」という猛者も多い中、どうせ当たらないなら運試しに応募するかと一通送ったら、一発獲得。

 8/30(金)神宮初日。しかもA7ブロックは相当にステージに近く前のほうだ……。「持ってる」な。持ってるよ、おれ。

 初めてのツアー観覧に戸惑いながらも、当日の注意事項などを読むために公式サイトにアクセスすると……。

8/30(金)、8/31(土)、9/1(日)に明治神宮野球場にて開催されます、「乃木坂46 真夏の全国ツアー2019」東京公演に関しまして、お知らせいたします。
メンバーへの祝花をお送りいただく場合は、8月28日(水)11:00~16:00必着にて、下記届け先に到着するよう手配をお願いいたします。

……え、祝花って送っていいの!?

 他会場では広さや管理の都合で祝花を送ってはいけないというのもあり、神宮ほどの大舞台なんてそれこそ業界関係者の花くらいしか並べられないんじゃないの? ファンが「有志一同」で送るということをしているのは知ってるけれど、なにか仕来りとかあるのかな……? 勝手に送ると親衛隊に詰められるとか。って、どこの昭和だよ。

 よくわからないときは素直にプロに頼むのがいい。坂東先生に相談したのと同じ。道を識る者に訊かずに、素人である自分があーだこーだ悩んでも時間の無駄。古来から「下手の考え休むに似たり」と言うではないか。

 早速祝花を手がけている花屋を検索して注文のメールを送り、電話をする。

「……高山一実の好きな色は水色とピンクって(WikiPediaに)書いてあったんでそれでお願いします!」

【結果】

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 人類最強の元レスリング金メダル選手の隣にぼくの花を並べてしまったのは何故なんだぜ……。

 スタッフさんが並べたのだろうけれど、乃木坂46の公式お兄ちゃん(バナナマンの設定)の列とか、畏れ多すぎる……。

 きっと並べるときに「沢しおん……って誰だろ。スマホで検索~っと、ちゃんと本だしてるのか。作家って知ってるようで知らないもんだな。個人名で出してきてるし、花も意味ありそうな色だし、変なとこに並べて失礼があったらよくないし、ここにしとくか」みたいなことがあったんじゃないだろうか。ないですかね。

 ところで、実際に花を注文する際にあれでもないこれでもないと検討したことで、他者の花の様式からどういう注文をしてそうなったのかの見当がつくようになった。

 おそらく大きな企業ではこういう祝花を贈るきっかけとか新聞の慶弔欄を必ずチェックしてる部署があるのだろうし、番組などのロゴがカラープリントで正確に入っているということは社内にそういう部署があって相応の発注作業が流れ作業でできるか、慣れっこの馴染みの花屋があるということだ。

 それこそ芸能界は多方面で関わりが広くあるだろうから、各社似た花、似た様式が多くなってしまうのだな、という推測も容易にできる。

 手が込んでる花は女性誌の編集部とかに多い。芸能関係やテレビ局、番組名の入った花などは最前列、ラジオやメンバーがピンでメインを張ってたり写真集を出しているような出版社は二列目、そのほかグループを取り扱ったメディアやIT系企業は後ろの列に配置されるようだ。いろんな知見を得た。やってみなければわからないことが世の中には多い。

夏。女神降臨。

 神宮球場。神の社を名にいただくこの会場で、ぼくは女神と二度目の邂逅を果たす。

 邂逅というのは類い稀なる巡り逢いのことなので、そんなものが二度あってたまるか、チケットを買ったらそりゃ会場で見られるだろ、最初もそうじゃねぇか、とは思うのだけれども。

 ……でも、雨の神宮球場で女神たちがステージに降臨し、その歌と舞いに酔いしれているうちに雲に隙間が生まれ、ついには星まで瞬いてしまったら、

 それが全て他人にとってどうでもいい偶然だとしても、ぼくはただただ畏怖し、その光に、祈るしかないだろう。

 では、お聴きください。乃木坂46で『ガールズルール

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※この物語はフィクションです。




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