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志賀直哉が“小説の神様”なら、高山一実は“小説の女神様”である。

「未来を引き寄せる」ことを「夢が叶う」というのなら……今すべきは行動だ。未来が今見えなくても、きっとアイドルが照らしてくれる。

※一連の記事は下記マガジンに束ねています。https://note.com/sionic4029/m/mae74d1eb6131

誰がそのこうべに冠を載せるのか。

 このnoteやTwitterあるいはカクヨムなどでぼくのことを知っている人は、ぼくが「無冠の人」であったことはご存じかと思う。かつての、うだつの上がらないWeb作家。賞レースでもいつも読者選考の一次予選は余裕で突破するのに、審査員の求めるものをまったく書けないヤツ。

「小説家になろう」では作品を運営に消され、「カクヨム」では賞レースの最中にアカウントBANを受け、一体何をしたらそんなことになるのか自分でもわかんねぇよ。とにかく他人にうまいように扱われることがない。他人から気に入られないことには人一倍の自信がある。

 多くの人から慕われ、憧れられ、愛される”アイドル”とはまったく逆の存在。2015年ごろからずっとそれ。

開いた扉の先で輝いていたもの。

 2018年初頭。いつも立ち寄るTSUTAYAに写真集のコーナーができていた。お、乃木坂46。知ってる、白石麻衣。テレビに出てるアイドルグループ、紅白でも見た。でもこの写真集は……かわいいけど誰だろ。そこで出逢ったのが『真夏の気圧配置』。秋元真夏の写真集。それ以来、コーナー前を通る度に買うか買うまいか迷って、一ヶ月後。ぼくは乃木坂のファンとしての扉を開いた。

 まったくのニワカで、メンバーの名前も秋元、生駒、白石……表記は必ず50音順なのでそれはわかりやすかったけれど、あとは誰だ? YouTube、iTunesにあるMV、見てもどれが何の曲なのかわからん。なんで嶋田久作や手塚とおるが出演してるの、すごいな。iTunesにある曲はComplete Editionって書いてあるけど、CompleteじゃないやつはCDなのか。CDについてくるDVDに入ってるメンバーのビデオは個別のプロモーションビデオ? 毎回こういうことをしているの……? そういえば深夜番組でバラエティをやってたな。とにかく手探り。

 次に覚えたのは生田、桜井……これで顔と名前が一致したのは5人。梅澤、佐藤、新内の区別が付かないまま、え、生駒卒業したの? 入ってくる情報の新しさ、そしてそれが古くなる速度に驚きながら、ぼくはメンバーの中に「小説家」が居ることを知る。

『乃木坂46・高山一実が小説家デビュー!』……凜とした佇まいの美しい顔立ち……なんで今まで気づかなかったの、俺!?

小説家になろうどころじゃねぇぞ、なるんだよ!

 秋葉原のアイドルショップで買うブロマイドの枚数が“真夏”<”かずみん”になった頃、ぼくは『NovelJam2018秋』に申し込む。

 アイドル=多忙、なのに小説上梓。

 ぼく=多忙、だけど小説は鳴かず飛ばず。

 二泊三日の魔窟じみた小説強化合宿。それで何ができるかはわからない、けれど、何かできることなら一つ前に進みたかった。

 合宿参加当選のメールが来たころ『トラペジウム』の受注がAmazonで始まった。ポチる。届くのは合宿が明けた後。ぼくの生活はAmazon無くしては成り立たない。

……はたして『NovelJam2018秋』では、ぼくも、ぼくのチームメイトも、何の一つの賞にもかすりもしなかった。経験は積んだ。技能もついた。総評で少し触れていただけた。でも、それだけ。

 合宿から帰宅し、『トラペジウム』Chapter.1を読む。その先は栞を挟んだまま。

 アイドルを目指す少女がアイドルになる物語。

 小説家を目指すおっさんが小説家になれない現実。

 無様だな。無様だよ。

 それでも、何か小説家として進みたい。合宿のおかげで短編ながらもインディーズデビューできたんだ、まだやれる。それに、合宿の延長戦でグランプリ戦がある。だが、合宿で書いた短編の続きに手が付かない。面白くない。なぜって、評価されなかったものの続編を書く理由はあるのか? そこに創作の力を割いて勝算はあるのか? 本業も年末進行というタイミングで?

 もっと手っ取り早くボリュームのあることをしないと、腐ってしまう。自分を騙すために、ボリュームは必要だ。夏に書いていた長編小説を、合宿で得た知識をもとに電子書籍化して自費出版することを思いつく。いくらか肩の力は抜いて取り組めたが、編集視点にスイッチを切り替えて12万字に自分で赤を入れるのはとにかく時間がかかる。遅々として進まない。

 年末年始の歌番組は、たくさん乃木坂46がテレビに出ていてとても良かった。それに、年が明けて”かずみん”が写真集を出すということを知る。速攻Amazonでポチる。ぼくの生活はAmazon無くしては成り立たない。

 2月1日、『NovelJam2018秋』のグランプリおよび各賞、全て逃す。本音を言えば、Twitter広告にカネかけてこれでもかとNovelJamの名前を広めたと言えるので、頭くらい撫でてほしいとは思った。すぐ、文芸を求められていたのに応えられなかったのが全ての敗因だから、仕方ないと思い直した。

 気分を入れ替えよう。今、手元にある12万字を何とか形にすれば、気持ちが次へ行ける。

 BGVは『魚たちのLOVESONG』『意外BREAK』のMV。同じ曲をリピートすると、曲に気を取られなくて済む。ふと画面に目をやれば”かずみん”の真剣な、それでいて笑顔。アイドルの真骨頂。その裏側で血の滲むようなレッスンや過密なスケジュール。それを思えば、ぼくは毎日終電で帰るような生活だけれども、まだまだやれる。一日1時間原稿に触れることができれば、3週間あればなんとか形になる。ようやく、下読みをしてくれる知人へ送るためのバージョンができあがる。

いつか会えるから今日会える。

 しばし脱力。でもここで終えられない。自分のテンションを上げたい。

”かずみん”の写真集、早く届かないかな……。そんなぼくの目に飛び込んできたのは「『高山一実写真集 独白』お渡し会開催」の文字。新宿サブナード福家書店。10年前に優木まおみの写真集お渡し会で訪れた場所。(←ここ、ツッコミどころですよ)

 幸運にも、チケット購入の抽選が通る。

……彼女に、逢うことができる。

「四列に並んでください~、左右空いているほうへ詰めていただいてかまいませんので、身分証とチケットご用意ください~」

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 AppleWatchが記録していた当時のぼくの心拍数。数字は正直だ。

 ぼくの前の人、前の前の人、ちゃんと会話してる。慣れたファンなのかな。アイドル、ファンのこと覚えててすごい。ぼくのことも覚えてもらえるかな。

 何て言おう、何て言おう。小説家になろうとしてます、いつかかずみんの側に行きます。いや、それは気持ち悪いな、いま会いにいきます。いや、もう目の前だから、頑張ってます、頑張ります、小説書いてます。自分語りしてて相手のこと考えてないな。憧れてます、支えられてます、輝いてます。何の評価だ。トラペジウム読みました。Chapter1だけって正直に言えないな。えっと、小説家目指してて、鳴かず飛ばずなんですけど、今日会えたので頑張れる気がします、いやもっと頑張れよ自分。気がするだけじゃ失礼だろ……

「……え、あの、が、がんばってください、おうえんして、ます……」

 ロクに目を合わせることもできず、差し出された写真集を受け取り、係員の誘導に従って捌ける。

 帰り道、遠回りしたくなって喫茶店に寄る。開いた写真集。サイン入り。

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 え……「あたりv」って何……

 読めずに止まっていた『トラペジウム』から栞を引き抜いたぼくは、それから何度も、そう、何度も読んでいる。

祝え、ベストセラー作家の誕生を!

 その後は皆さんご存じのとおり。ひょんなことから改稿していた小説が、あろうことか出版社の企画を通って日の目を見ることとなり、『ブロックチェーン・ゲーム 平成最後のIT事件簿』で平成最後の平日に作家デビュー。ゴールデンウィークのAmazonを駆け抜けてジャンルで「ベストセラー1位」を頂戴した。ぼくの生活はAmazon無くしては成り立たない。

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※この物語はフィクションです。

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