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言葉と俳句 雨降って草のよろこんで伸びよるわ

日本語は七五調が調子良く響いてくる構造なので、しばしば美文の調べが私たちを楽しませてくれる。太平記の日野俊基朝臣関東下りの段「落下の雪に踏み迷う交野の春の桜狩り 紅葉の錦きて帰る嵐の山の秋の暮れ」などは七五調の名文とされる。だが、あえて古典を開かなくても、日常の話し言葉にそれらしき調べを感じることがある。

学生の頃、友人と明日香村の藤原という民宿に数日泊まった。部屋には琴が置いてあった。おかみさんが弾くのだろうか。なかなか感性豊かな人で、「風に色がついていたら怖いわ」と言っていた。

あいにく雨が二日ほど降り続いた。どこへも行かずに民宿の部屋でごろごろしていた。

藤原さんのおかみさんが縁側の障子を開けて雨を見て、こう言った。

「草のよろこんで伸びよるわ」

それは、そのまま俳句になる言葉であった。日本語のリズミカルさを感じた。

雨降って草のよろこんで伸びよるわ

2022.10.7 



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