見出し画像

誰かの力になるということ

執筆者:さとじゅん

はじめてオンラインで取材を受けた時ライターの方から言われた「さとじゅんさんはとてもパワーのある人ですね」の言葉に驚いた。だって、その時の私は、自分がパワーのある人だとは全く思っていなかったから。

▼取材記事はこちらからご覧いただけます。
「シングルで妊娠・出産・乳がん。多くのひとと繋がって成立していた日常が、コロナで一変して」

選択的シングルマザーになるということ

37歳の秋、妊娠が分かり、その時のパートナーからは出産を反対された。そこから2か月、私はお腹に宿した命をどうしたらいいか悩みに悩んだ。両親と友達は皆反対し(いま考えれば私と産まれてくる子への愛情からだと分かる)、唯一私の意見を後押してくれたのは、姉の「子どもは社会の宝だよ」という一言で、自ら選択してシングルマザーになることを決めた。

出産する時も親族立会なしだったが、助産師さんの手厚いサポートのおかげで寂しさはなく、やっと愛しい我が子に会えた安堵感のほうが大きかった。

子育ては、家族・親戚・友達がかわるがわる助けてくれ、1人で育てている感覚はなく、私は娘と周りの人に沢山助けられながら、かつ楽しい子育てのスタートを切った。

産後8か月、職場に復帰し環境は一変

「子どもをもつ社員でも営業の第一線で活躍する」という大きな役割を背負い、復職後3年間は育児・仕事・家事と3つの両立をしながら、親戚・友達・ファミリーサポート・ベビーシッターをフル活用して働いた。

シングルマザーになった私は一家の大黒柱でもあり、仕事で任された大きな役割を果たそうとと毎日必死だった。自分自身の健康なんてお構いなしに、ただただ突き進む日々だった。

そんなある時、胸に異変を感じ仕事の合間に近くのクリニックで検査することになった。

1週間後、私は「乳がんです」とあっけなく宣告された。

娘はまだ3歳。「ここで死ぬわけにはいかない」と泣きながら姉に電話した。「医学の力をなめるんじゃない」と姉に一喝されたが、今は医学が進んで治療法が沢山あり、早期に発見されれば大丈夫と姉なりに私を励ましてくれた。

治療と手術、娘のがんばり

病院選びも治療の選択も娘のケアも、家族や親友のサポートのおかげで前向きに取組めるまでになり、いよいよ術前の抗がん剤治療からスタートした。

半年に及ぶ抗がん剤治療は想像以上に身体も心もしんどかった。それでも乗り越えられたのは娘の存在が大きい。辛そうな私をみてそっと見守り、時には優しく頭をなで、そして笑顔で私を元気づけてくれた。

次は手術。生まれて初めて娘と10日間離れて暮らすことになった。3歳で、まだはっきりと分かっていなかった娘はすごく寂しかっただろう。入院中に1度だけ会いに来てくれた時のはにかんだ顔が今でも忘れられない。私にとっても娘にとっても、この10日間はお互いの大切さを再認識する期間でもあったと思う。

セルフケアとの出会い

術後の抗がん剤治療に入った頃、faceboookをみていたら友人の投稿で、シングルマザーズシスターフッドのセルフケア講座をみつけた。コロナ禍でずっとリモートワークだった私は、術前の抗がん剤と手術で低下した体力回復にもなるかもしれないと思い、すぐに申し込んだ。

久しぶりのストレッチは気持ちがよく、身体の血流が良くなっていくのを感じた。対話の時間に皆と話すことで、治療や仕事のことををひと時でも忘れ、「自分」の時間を持つことが出来た。

もう少しで抗がん剤治療の完走がみえてきた頃、シングルマザーの現状についての取材を受けた時に言われたのがこのエッセイの冒頭の言葉だった。

その時は、体力的にはまだ全回復とはいかなかったが、セルフケア講座に継続して参加しており、本来の私が持つパワーを少しずつ取り戻せていたのかなと、今ならわかる。

取り戻した自分らしさ

治療がひと段落し、「これからはシングルマザーの力になることしたい」と思い、私はシングルマザースシスターフッドの1回目のキャンペーンスタッフに手を挙げた。

ここで出会う仲間は全員シングルマザーで、さまざまな事情を抱えているが、誰一人同じ境遇の人はいない。そんな多様なメンバーが、皆で協力してキャンペーンを作り上げていく。励ましあい、称え合い、学び合い、時に休む事も許されるという、私にとって貴重な場だった。

かつての私がそうだったように、他のシングルマザーが元気になって自分らしさを取り戻していく姿をみて、「誰かの助けになりたい」と思って参加したのに、いつも私が皆から刺激をもらい、心が元気になっていく。そんな不思議な場所なのだ。

私に出来ることは「辛そうな人がいたら声をかけ・話を聞き・そして共感する」ことだけで、結局最後には私が皆からパワーをもらっている。

今の私は自分の身体と向き合い、セルフケアはどんなに忙しくても欠かさない。週末は公園で娘や娘の友達と走り回って、「パワフルなおばさん」そのものだ。

これからも「誰かの力になる」ことを意識してやっていきたい。やりたいこと・やるべき道を見つけられて、自分を改めて更に好きになることも出来た。

パワフルでいつも突き進んでばかりの私の後ろ姿を、娘にみてもらえたら、それだけでいいのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。このエッセイは、NPO法人シングルマザーズシスターフッドのMother's Dayキャンペーン2022のために、シングルマザーのさとじゅんさんが執筆しました。

このキャンペーンは、自身の心と体を大切にすること、それを互いにサポートしあえる社会を目指して実施しています。ご共感くださった方はぜひ、私たちの取り組みを応援していただければ幸いです。

ただいま『ひとり親けんこう白書』を作るためのクラウドファンディングに挑戦しています。ぜひ応援よろしくお願いします。

NPO法人シングルマザーズシスターフッド


よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはひとり親の心身のセルフケアとエンパワメントの支援活動に使わせていただきます。