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【課題別レポート】傷つく窓口―児童扶養手当の現況届の実態と改善要望

シングルマザー支援に取り組むしんぐるまざあず・ふぉーらむおよびジェンダー政策の専門家、研究者らによるシングルマザー調査プロジェクトは、課題別レポート「傷つく窓口―児童扶養手当の現況届の実態と改善要望」を発表しました。本プロジェクトでは、昨年2020年7月に大規模調査を行い、8月からは539名を対象とした毎月パネル調査を開始しています。今回のレポートでは、自治体による制度運用の差や、窓口における対応そのものが支援を必要とするひとり親世帯を遠ざけてしまう状況が明らかになりました。国や自治体レベルでの改善が求められています。

自治体によって尋ねられる、元夫の名前や交際関係
低所得ひとり親世帯の暮らしを支える「命綱」といえる児童扶養手当ですが、受給している人が引き続き手当を受け取る資格を満たしているかどうか、年に1回確認する手続きとして、受給者は毎年8月に現況届を提出します。この現況届けの手続きには自治体ごとに差があり、自治体によっては、元夫の名前を記入する必要がある、異性との交際について尋ねられる(東京33.9%、東京以外47.6%)など、受け手が不快に感じる質問が含まれています。子どものもう一人の親から受け取る養育費の額を示す必要性や、子どもを監護しているひとり親が事実婚状態や内縁関係にある場合は手当の対象外となるということから、上記のような質問をしていると推測されますが、政府は元夫の名前の記載などは求めておらず、受け手に配慮した質問や聞き方など改善が求められています。

失われる信頼―「相談できる」と思わない6割超、「助けてくれる」と思わない7割超
自治体によって対応に差が出る中、役所の児童扶養手当の窓口に対して「困ったときは相談できる」と思わない・どちらかといえばそう思わないと回答した割合は6割を超えています。(東京63.3%、東京以外65.5%)また、「悩みを相談したら助けてくれる」と思わない・どちらかといえばそう思わないと回答した割合は7割に達しています。自由記述からは、過去に窓口で嫌な思いをしたという声が多く聞かれ、本来であれば支援を必要としている人と救済制度の橋渡しを行うはずの窓口が「行きたくない」場所になっている状況が明らかになりました。

窓口という重要な場所
コロナ禍で多くのひとり親世帯が困難を抱える中、より真摯な傾聴や、丁寧な対応、そして配慮のある声かけが求められています。これまでの調査では、地域の暮らしや公共の場(役所、学校、保育園など)において、周りの人たちからの嬉しかった行動や、励まされた言葉を聞いています。そこからは、「市役所の人が真剣に話を聞いてくれて、心配してくれた。」(東京以外・8月)「〇〇区でも〇〇市でも役所の方々が皆、親切な対応で言葉の一つ一つが温かく、前を向いて生きていけそうです。」(東京・10月調査)など、窓口が単に手続きを行う以上の存在になっているケースも見受けられました。

しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子は、窓口対応だからこそできることがある一方、「窓口での対応が悪ければ、傷ついて、行政への信頼を失い、孤立を深めてしまう」とし、以下の提言を述べました。

1. 自治体への改善要望-児童扶養手当の窓口運用について
① 郵送提出の承認
② 提出書類の見直し
③ 受付窓口の場所や配置、プライバシー保護
④ 窓口に立つ人(行政職員)の研修
⑤ 異性との交際に関する説明
⑥ ひとり親の子育てに必要な情報提供、社会資源へのアクセスへのサポート

2. 国への改善要望-児童扶養手当の制度について
① 1980年の事実婚の通知の見直し:窓口ハラスメントの温床
② 郵送提出の承認、民生委員による実態調査・現地調査の廃止
③ 養育費の8割の所得算入について
④ 審査対象所得は前年所得だけなく現在の収入も考慮してほしい
⑤ 5年後減額規定(一部支給停止適用除外手続き)の廃止

【山口 絹子(NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西理事長)のコメント】
窓口ハラスメントで一番怖いのは、窓口で嫌な思いをしたお母さんたちが「もう、役所の世話にならない!」と行政とのパイプを切ってしまうこと。社会資源へのアクセスを拒否することです。その結果、必要な制度を活用することもなく、孤立化し、経済的にも精神的にも困窮してしまうことです。逆を言えば、自治体の窓口はその運用と対応しだいでひとり親の生活をしっかりと支えていくことができるのです。児童扶養手当の本来の目的である「児童の健やかな成長のため」にも窓口ハラスメントをなくす施策を強く要望します。

【湯澤 直美(立教大学コミュニティ福祉学部教授)のコメント】
2002年にまとめられた母子家庭等自立支援対策大綱では、児童扶養手当制度は「離婚後等の激変期に集中的に対応するもの」とあり、5年間受給した後の支給停止が可能なっています。また、改正を知らせる厚生労働省の文面では「母子家庭の自立の意欲を高め、またこれから母子家庭がさらに増えても、制度が母子家庭の皆様を支えることができるよう」とあるりますが、就労率は高いものの、ジェンダー構造の中で非正規雇用が多く就労収入が少ない母子家庭の苦しい状況が「意欲」の問題になっています。それに加え、児童扶養手当法に定められている支給停止要件として「当該職員の質問に応じなかったとき」とあるなど、現在の制度は求められている継続的な支援を阻んでいるといえるのです。コロナ禍の前から低所得の母子世帯が多い中、制度自体の見直しが迫られています。

シングルマザー調査プロジェクトについて
シングルマザー調査プロジェクトは、コロナ禍によってひとり親世帯が困窮する現状に問題意識を持った、ひとり親支援団体、ジェンダー政策の専門家、研究者らによって発足しました。脆弱な状況にあるひとり親が、子どもを育てながら十分な給与を得られる安定した仕事に就き、子どもの学びや教育へのアクセスを保障できるよう、緊急支援に加えた恒常的な支援の拡充および政策を実現するために、コロナ危機がひとり親に及ぼす影響を示すデータ収集を目指します。


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