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鄙の宿 金宇館 (長野・美ヶ原温泉) 宿泊記*2015年9月

今回訪れた「鄙の宿 金宇館」は、長野の美ヶ原温泉にあります。温泉地といってもいわゆる観光地のような雰囲気ではなく、周囲には老人ホームがあったり小さなアパートが建っているような立地です。

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車を進めて行くと、そんな中に突如一軒だけ重厚な雰囲気のこの宿が現れます。決して大きな建物ではありませんが、本館は昭和3年、別館は昭和7年に建てられたというだけあり、ただならぬ年季を感じます。

立派な松が覆い被さる石門をくぐり、入り口に進むと、今晩宿泊するゲストの名前が黒い板に白い筆文字で記されていました。最近ではなかなか見なくなった光景ですが、客として歓迎されている実感がわいてきます。

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玄関で予約の名前を告げ、スリッパに履き替えるとすぐにお部屋に案内されました。廊下を歩くたびにギシギシと軋むのも“情緒”に思えて来るほどの古めかしさと、現代ではほとんど見ることの無い建具や装飾に、思わずキョロキョロと見回してしまいます。

[客室]昔の面影はそのままに居住性よくリフォームされた部屋

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チェックインは各部屋で行います。今回は、別館の一番広い客室(※)「辻堂」に宿泊。板間のリビングと畳の寝室2部屋からなり、建築当時の意匠はそのままに2009年にリニューアルしたということで、冬には床暖房が入り、トイレは最新のものが完備されていました。

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リビングは2面に窓があり、昔の板ガラス特有のゆらぎのある窓からは裏山の斜面を借景にした庭園が眺められます。

[温泉]レトロながらも丁寧に磨かれた清々しい浴室

こちらの宿は各部屋にはお風呂はなく、男女入れ替え制の大浴場が2つと、貸切風呂が1つあります。大浴場といっても総客室数が7室なので、4〜5人入れば混んでいる印象の大きさです。

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浴室も建築当時からの意匠を大事にしており、小さなタイルをグラデーション状に細かく敷き詰めた繊細な内装で、本物のレトロを感じます。毎日丹念に磨き込んでいるためか、タイルの目地は隅々まで真っ白で清潔感があり、気持ちのいい空間です。

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貸切風呂はドアに「空いてます/入浴中です」の札がかかっており、空いていれば中から鍵をかけて貸し切ることができます。脱衣所に用意されているアメニティは綿棒とカミソリ程度なので、タオル等は自室に備わっているものを各自持って行きます。

[館内]創業当時からの調度品がそこかしこに

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本館と別館につながる途中のスペースには談話室があり、ここもまた時が止まったような雰囲気に包まれています。

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創業当時のポスターが額に飾られていたり、古い蓄音機やオルガンがさりげなく置かれていたり、真空管のオーディオからはゆったりとピアノの音楽が流れていて、なんとも居心地がいいです。

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また、別館2階には、別館に宿泊している客だけが使える「書斎」があります。

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4畳半の部屋と広縁だけのスペースですが、ここにもゆるく音楽がかかっていて、地元・長野についての書籍が数冊おいてあり、ここで自由に寛げるとのことです。

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広縁に置いてあった肘掛け椅子がとても座り心地よく、共用部分でなければずっとここに座ってぼんやりしたい気分になりました。

[食事]旬の食材をふんだんに使ったセンスあふれる懐石料理

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夕食は全部屋18時半スタートで、本館1階の食事処にていただきます。各部屋ごとに個室になっていますが、隣とは襖で仕切られているだけなので、会話などは割と聞こえてしまいます。

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お料理は旬の秋の食材をふんだんに使った懐石料理で、上品で繊細な味付けと、センスのいい調理法で、料理人の真摯な思いが伝わってきます。

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印象的だったのは「焼き茄子のすり流し」です。茄子をそのまますり流しにすると、エグ味が出てしまうとのことで、焼いてから皮ごと裏ごししたといいます。いろいろ試行錯誤しながらオリジナリティあふれる料理を生み出しているようです。まさに味は味噌の風味がきいた焼き茄子で、面白い一品でした。

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朝食も前日の夕食と同じ個室でいただきます。朝は、女将さんと思しき女性も、若女将や他のスタッフと同じ制服を着て、テキパキと配膳や料理の説明などをされていました。家族とスタッフ一丸でこの宿を守っているという気概を感じて、とても好感が持てました。 

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本当に古い宿ですが、隅々まで掃除が行き届き、見事に磨き上げられているため、古い建物にありがちな侘しく澱んだ雰囲気は一切なく、館内すべての空気がキリッと澄み切っていました。昭和の初期には当たり前だった内装や調度品が、時代を経て「非日常空間」に変わり、宿泊客に癒しをもたらしている、そんなすてきな宿でした。

※こちらの記事と写真は2015年当時の情報です。ご了承ください。

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