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[書評]武蔵境自動車教習所など、リアル中小企業の泥臭いブランディング術を学ぼう


中小企業が成長の原動力に選んだブランディング

本書はいち早くブランディングの重要さに気づき、成長の原動力として活用してきた5社の事例を紹介した書籍です。巻頭の特別インタビューでは、良品計画の前会長である松井忠三氏が「MUJI」ブランドをどのようにして日本発のグローバルブランドに育て上げたのかを語っていますが、そのほかはすべて、言葉を選ばずにいえば超有名企業とは程遠い中小企業の事例となっています。

ブランディング関連の書籍といえば、大企業や外資系企業について書かれることが多いですが、本書は決してネームバリューが高くない中小企業に特化して紹介しているところが大きな特徴です。

数で言えば日本企業の大部分を占める中小企業。しかし、その事例にフォーカスした書籍は決して多くありません。そのため、ブランディング関連の書籍はなかなかロールモデルとはしにくい側面もあったと思います。しかし本書は、中小企業の経営層や管理職の方々が、ブランディング事例をキャッチアップするのに非常に参考なるのではないかと思います


ブランドありきで、独自性と優位性を構築する

著者はブランディングやコンサルティングを専門とする株式会社イマジナ代表取締役社長の関野吉記さんと、当時代表取締役を務めていた奥山由美子さん。関野さんは、「良いモノを提供し、お客さまから喜ばれれば、それがブランドになる」という発想に日本企業が陥りがちだと指摘します。そして、「いわなくても、分かるだろう」「いい仕事をすれば、結果は後からついてくる」というメンタリティはブランディングでは禁じ手だと語ります。

本書で紹介されている5つの中小企業は、そのようなマインドを打破していったマイノリティな存在であり、当時としては異端者であったかもしれません。しかし今ではこの5社は、日本を超えて世界に大きな存在感を放つ企業へと成長しています。

株式会社りらく
株式会社ヤマセ村清
株式会社武蔵境自動車教習所
エーピーアイ株式会社
株式会社関家具

彼らに共通するのは「企業の成長はブランドありき」という強い信念を持ち、「世界」を見据えて事業を成長させた点。ブランドマネジメントの先駆者ともいえます。


社員にモチベーションと誇りを与えることもブランディングだ

たとえば本書で紹介されている武蔵境自動車教習所は、自動車免許取得を「人生の大切なライフイベント」と定義し、地域社会すべてが顧客、教習所全体で地域社会に貢献するという意識改革を行いました。社員が主体となって年末には餅つき大会、夏には花火大会と言った地域貢献のイベントを開催。また社員のアイデアで教習の待ち時間にネイルやマッサージを導入することで、LTVがはるかに向上したそうです。これらの取り組みを支えていたのは、他ならぬ従業員の「楽しい」「お客様に喜んでもらいたい」という熱い想いに他なりません。

武蔵境自動車教習所が成功した背景にあるのは、「社員満足」「顧客満足」「地域社会貢献」という3つのキーワード。そして、「社員が満足していれば、顧客を満たし、地域に貢献できる」という真理です。

本書の成功事例は、理論を全面に押し出したものやスタイリッシュなブランディングというよりは、泥臭く人間臭さを感じるものが多いと思います。しかし、その人間らしさこそが人の心を打ち、行動へと駆り立てるのではないでしょうか。

中小企業のブランディングは、ある意味、結果が如実に現れやすいとも言えます。ブランディングを行うことで大手に引けを取らないような優秀な人材が集まり、社員にモチベーションと誇りをもたらし、顧客や地域に喜ばれる仕事が生まれる。そして、この好循環こそが、企業を成長させる重要な原動力となっていくのです。

社員をその気にさせる、とは言われてみれば頷ける話ですが、意外と経営や数字ばかりを見ていると見落としがちなポイントではないでしょうか。企業や事業をさらにドライブさせたい方、行き詰まりを感じている方はぜひ本書の泥臭くも秀逸な成功事例に触れてみることをおすすめします!



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