相方をはじめて怒った時の話
コンビに喧嘩はつきものではある。
そりゃあ喧嘩をしないコンビもいるのかもしれないけれど、一生懸命やってりゃ険悪なムードになることなんてザラで、単独ライブ前のやさしい雨のネタ合わせなんて人に見せられたモンじゃない。よく漫画の表現で、険悪なムードに空間がぐにゃああと歪む現象が実際起こる。漫画というか刃牙の表現か。
やさしい雨の場合は、だいたい僕がぶわあーっと言って、松崎くんが被害者の顔をしたり憮然とした表情をしたり聞いてなかったりして終わりです。
僕の怒りが正当な時もあれば、余裕がなくなってる時や全然関係ないことで苛々してて単なる八つ当たりの時もあります。八つ当たりされる方はたまったモンじゃない。正当な時と理不尽な時は半々くらいですね。
まあ、 理不尽な時は自分でも八つ当たりしてるなあと割とわかっているし、松崎くんにもバレてて、そういう時はほとんど話を聞いてないんで有難いんですが、問題は松崎くんがちゃんと駄目でそれを僕が指摘している時に、被害者みたいな顔をしている時ですね。
僕がはじめて松崎くんに怒った内容を今でも覚えていて、それはまだコンビを組み立ての時の話です。
ある日、20時とか21時くらいだったと思うんだけど、僕と石井元気という同期と松崎くんで、松崎くんの住んでる街まで行ったことがある。
用事は忘れてしまったけど、行く必要があって電車に乗っていったのだ。
松崎くんは西武新宿線沿いに住んでいた。
電車はまあまあ混んでいて、僕らは3人ともドアーの近くに立っていた。
すると、いつの間にそんなものを買っていたのか、いつの間にお湯を注いでいたのか、松崎くんがいきなりカップヌードルを食べはじめた。しかもカレー味。
僕と石井元気は呆気にとられて、まあまあ混んでる電車の中で匂いを充満させながらズルズルと汁を飛ばしながら食べている松崎くんをただ見ていた。眺めていた。何が起こっているのかわからなかった。
人がこんなことをする訳がないという信じられない思いから、MATUZAKIという生き物を見ているような気分になった。
すぐに我に返り僕と石井元気で説教。人生ではじめて説教をしたかもしれない。
しかし。
MATUZAKIは、自身が悪いことをして怒られている時に必殺技・被害者の顔をするので、いつのまにかこちらが悪いことをしているような気分になる。
何故、被害者の顔を出来るかというと、だいたいにおいて『何が悪いのかわからない』という現象が起きているからだと思う。
例えば上の事例では、松崎くんは福岡出身だけれども、ド田舎。日本最後のスラム街と呼ばれている場所にほど近い町で近所には山しかない。みたいなところ出身だ。
電車もほぼ乗ったことなく、乗っても常にガラガラ。なので、何を食べようが注意する人も文句言う人も指摘する人もいなかったのだ。
こんなこと言うと法律で電車の中でモノ食べちゃいけないの?とか言い出す。キャア。
松崎くんはごめんなさいとありがとうが言えない人なので、ただただ被害者の顔をしてこちらに罪悪感みたいなものを植え付けてくるのです。妖怪みてえだな。
一事が万事でこんなことだらけなのである。逆もまたしかり。僕はいちいち口を出してしまうのだ。食事のマナーとか。うるせえなコイツと思われていることだろう。
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