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「あるいて」は娘の世界への招待状

 家でのんびり過ごしていると、2歳半の娘がぼくに「あるいて」と言った。

 プリキュアの人形でいっしょに遊んで! という意味だ。
 娘はぼくに「だいじょうぶ? って言って」と指示を与えつつキュアフィナーレの人形を手渡してきた。

「だいじょうぶ? どうしたんだ? ケガをしているのか?」

 ぼくは、キュアフィナーレを持ってとことこ歩かせつつ、特徴的な武道家めいた話し方で言った。
 卓上には倒れ伏したキュアヤムヤム人形。娘曰く「おなかいたい」らしい。

「お腹がいたいのか! それは大変だ。救急車を呼ばなければ。誰か救急車を呼んできてくれないか!?」

 ぼくがキュアフィナーレを慌てたふうに上下させながら言うと、娘は手にしたキュアスパイシーの人形を動かしながら、

「いいわ! きゅうきゅうしゃよんでくるね」

 と言いつつ、おもちゃ箱へ向かいしょくぱんマン人形とそのクルマを持ってきた。「きゅうきゅうしゃがきました!」

「おお! しょくぱんマンの救急車が来てくれたぞ! ありがとう! みてくれ、キュアヤムヤムが倒れているんだ!」
「どうしたんですか、おなかいたいってゆってます。なおしてあげましょう」
「キュアヤムヤム、助かったぞ。しょくぱんマンが来てくれたからもう安心だ!」
「とうちゃん、“はこんでる”やって!」
「えっ? ああ」

 とつぜんレイヤーがプリキュア達から、ぼくと娘に移行してびっくりした。

“はこんでる”というのは、手足が稼働するアンパンマンシリーズの人形を中腰にしておんぶのポーズを取らせた状態で並べ、そこにケガ人を乗せる遊びだ。

 ぼくはプレイアブルだったキュアフィナーレを一時卓上に置き、おもちゃ箱から“はこんでる”可能なアンパンマンと仲間達を4体取り出し、“はこんでる”ポーズを取らせた。
 そこに、計8つの丸い手で出来た担架が現れた。

「キュアヤムヤムをびょういんにつれていくよー」

 娘はプレイアブルだったキュアスパイシーを置き、おなかいたいキュアヤムヤムを手にした。
 そーっと、アンパンマンと仲間達の担架に乗せようとする。

 ――が、乗せるときに担架役に強く当たってしまい、担架が崩壊した。

「わあ! 大変だ! これではヤムヤムを病院に連れて行けない!」

 ぼくはキュアフィナーレになって状況を説明した。
 娘は崩壊したアンパンマン達の担架を再構築しようと試みるが、けっこう腰や手の角度が繊細なのでうまくいかず、

「できなーい! おとうちゃんやって!」

 とお願いしてくる。
 はっきり言ってこれはぼくの楽しい瞬間のひとつなので、「おとうちゃんにまかしとき!」と言い、ケガ人を受ける手がビシィッと揃った担架を再構築した。

「もう一度だ! あきらめずにヤムヤムをそこに乗せるんだ!」

 キュアフィナーレとなったぼくが娘を励まし、再挑戦する娘。キュアヤムヤムを手に持ち、今度はそーっとアンパンマン達の担架に近づける。

「そうだ! そーっと、そーっとだ!」
「……そーっと……そーっと……」

 そして今度は、キュアヤムヤムを“はこんでる”することができた!

「やったぞ! よくやったな! すごいぞ!」
「びょういんにいくよー!」

 物語を続けつつも娘の顔には“できた!”の笑顔が浮かんだ。
 それをみてぼくもニッコリした。

 娘と遊ぶことは、娘が今できる身体動作や言語表現や創作力を最も近くで感じることだ。娘によってそこに現れた今しか存在しない「遊びの世界」に巻き込まれる体験はめちゃくちゃ楽しいし、夢中なその顔をみれることは最高だ。

 このあとも“あるいて”から始まった物語は続いてゆく。
 結局キュアヤムヤムはしょくぱんマンのサンドイッチを食べて元気になるのだが、またお腹を壊しては担架で運ばれるという流れを5回ほど繰り返すことになった。

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