しゃべるピアノ
彼に初めて出会ったのは3歳の時だった。
え、性別が分かるのかって?
そりゃ分かるよ。彼は絶対に男の子。
お父さんみたいに穏やかで
お母さんみたいに気分で怒ったりしないし
太郎くんみたいに紳士的で
花子ちゃんみたいに意地悪しないし。
あ、それに、いつも私を守ってくれる
誰よりも心強い存在なんだよ。
彼女は僕の事をこう語る。
そして、僕と彼女には秘密がある。
あれは、彼女が5歳の時だった。
幼稚園最後の発表会でミスをしまって
彼女は僕の隣で大粒の涙を流していた。
僕は彼女の笑顔が好きだったから
つい、
「笑ってよ」
と、声をかけてしまったんだ。
いつもは彼女の指に導かれ
音階を奏でるだけだったけれど
音に、意味を乗せてしまった。
「しゃべれるの?」
「秘密だよ」
それから彼女は僕の大好きな曲を
たくさん弾きに来てくれるようになった。
僕の大好きな
零れるような笑顔を携えて。