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パンデミックが浮き彫りにしたアマゾン:後編(2020年6月18日)

アマゾンの台頭に関するLeaders記事の後編です(前編はこちら)。もともと進みつつあったオンライン化が新型コロナウイルスの影響でますます加速する中、アマゾン最強!と思いきや、強者には強者の悩みがあることがわかります。イラストのベゾスのアマゾン・スマイルは永遠か?!GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の一角を占めるアマゾンの動きはこれからも常にホットな話題になりそうです。

英語原文は、以下からどうぞ(後編はAll this might appear to fit the script Mr Bezos has written...からです):

パンデミックが浮き彫りにしたアマゾン(後編)
2020年6月18日

これらのことはすべて、ベゾスが長年にわたって株主に宛てた手紙の中で書いてきたストーリーと一致するように見える。今や投資家は、ベゾスの手紙をバフェットの手紙と同じくらい綿密に分析している。ベゾスは、アマゾンは市場シェアを獲得するために支出し、関連産業に参入することで、好循環を永久に継続できると主張している。アマゾンは書籍から電子商取引に進出し、その後、クラウドと物流部門をサードパーティの小売業者に開放して、それ自体を巨大な新規事業にした。顧客は、定額制サービスのアマゾンプライムや音声アシスタントのアレクサなどを通じてアマゾンの利用を繰り返している。このように考えれば、新たなデジタル取引の急増は、アマゾンの成長が止まらないことを意味する。これがウォール街の見解であり、アマゾンの株価は6月17日に史上最高値を記録した。

しかし、ベゾスは自らの拠点であるテキサス西部の牧場から、3つの厄介な問題に対峙しなければならない。まずは社会的な立場の危うさだ。アマゾンに対してよくある批判の中には、単に見当違いのものもある。検索エンジンのグーグルとは異なり、アマゾンは市場を独占しているわけではない。アマゾンの昨年の米国での電子商取引シェアは40%であり、小売売上高全体に占めるシェアは6%だった。それが雇用を奪っているという証拠はほとんどない。「アマゾン効果」についての複数の研究によると、倉庫や配送の仕事が店員の仕事の減少を相殺しており、米国でのアマゾンの最低時給15ドルは小売業の中央値を上回っている。

しかし、アマゾンの戦略は、経済が低迷しているとはいえ、雇用市場における大規模な創造的混乱を暗示している。また、アマゾンの倉庫で新型コロナウイルス感染者が発生したことで労働条件に関する問題が再燃し、米国13州の州司法長官が懸念を表明している。さらにアマゾンはデジタル市場の「何でも屋」の役割を果たしていることで利益相反が生じている。例えば、アマゾンのプラットフォームがサードパーティの製品を自社の製品と対等な条件で扱っているのかについて、米国議会とEUが調査している。また、アマゾンのプラットフォームを利用する企業が、競合でもあるアマゾンのコングロマリットの一部であるAWSに自社の機密データを安心して提供できるのかという懸念もある。

アマゾンの第二の問題は肥大化である。次から次へと新たな業界へ進出していく中で、アマゾンの資産はどんどん膨張し、ソビエトのトラクター工場よりも大きなバランスシートを持つようになった。現在、アマゾンはリース資産を含めて1,040億ドルの工場を保有しており、伝統的小売業者であるウォルマートの1,190億ドルとさほど変わらない。その結果、AWSを除く利益はわずかであり、さらに新型コロナウイルスの影響で電子商取引のマージンはさらに圧迫されている。ベゾスは、データを収集し、広告やサブスクリプションから収益を得ることで、個々の系列企業の総和以上の価値を創出できると述べ、これまでのところ、投資家はそれを信じている。しかし、電子商取引の利益率が低いため、アマゾンがAWSをスピンオフすることは難しくなっている。スピンオフすれば規制当局の干渉はなくなるが、アマゾンは他のすべてのビジネスを回すマネーマシンを失うことになる。

そして3つ目の懸念が競争だ。ベゾスは長い間、競合他社ではなく顧客をウォッチすると言ってきたが、ライバルがパンデミックによって活気づいていることに気付いているはずだ。ウォルマート、ターゲット、コストコのデジタル売上高は、4月には前年比で2倍以上になっているとみられる。独立系のデジタル企業も好調である。Shopify、Netflix、UPSなどアマゾンに似た会社で架空の株式市場を形成してみると、今年のアマゾンの業績を上回っている。また世界の多くの地域では、アマゾンではなくローカル企業が力を持っている。ラテンアメリカ圏のMercadoLibre、インドのJio、東南アジアのShopeeなどがその例だ。 中国では、アリババ、JD.com、そしてPinduoduo(拼多多)のような新しいEC プラットフォームが市場を支配している。

アマゾンは世界で最も賞賛される企業でありながら、このように複数の難問を抱えている。このポピュリズムの時代に、もしアマゾンが政治家をなだめるために賃金を上げれば、低コストの優位性を失うことになる。規制当局を喜ばせるためにAWSをスピンオフすれば、財政的基盤が揺らぐことになる。そして、株主を満足させるために価格を上げれば、新たな競争相手が市場シェアを獲得するだろう。アマゾン創業から25年経った今、ベゾスのビジョンである「オンラインで買い物をしたり、見たり、読んだりする世界」はますます急速に拡大しつつある。しかし、もはや箱詰めが仕事ではなくなった今、アマゾンの経営は簡単ではない。(おわり)

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次回のThe Economist最新記事もお楽しみに!


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