らいすアンガー

「コンセプト」とは何か、分かりやすく説明してみる。(売れなかった & 売れた商品事例を元に)


はじめに

この記事は、関係者に配慮しながら、できるだけ丁寧に、誠実に書いていきたいと思います。

この記事には、自社商品の売れなかった事例が赤裸々に登場します。売れなかったものを「売れなかった」と言うのは、タブーなのかもしれません。商品や事業は、たくさんの人の力で完成します。一生懸命作った人も、売ってくれた流通の方も、投資してくれた人も、そして、それにお金を払って使ってくれたお客様もいます。

だから、ビジネスの失敗を「失敗でした」とはなかなか言えないし、Facebookなどでも仕事の報告はキラキラした書き方をせざるを得ません。

でも、この世の商品や事業の9割9分は現実として売れなかったという結果になってしまうし、たとえ売れた事例の中にも、細かい失敗はたくさん隠れています。

商品のヒットの法則は存在しないと言われています。これほど、技術も学問も進み、みんなの知見もシェアされて、ビッグデータやAIまでも発達しているのに、ヒットの法則はありません。おそらく本当にないのだと思いますが、少なくとも、ヒット商品を開発しようとするなら、他のヒット事例だけに学ぶよりも、大量の「売れなかった」事例をあわせて学んでいかなければならないと思います。

商品がヒットすると、その理由は様々な場所で何度も語られますが、それは後付けの理由であることも多いし、そこで語られた理由以外の細かいつなぎの部分にこそ本質的な理由があることが多いし、何よりヒット商品は同じ手法が2回目に通用することがとても少ないです。1回目の新しさによりヒットすることが多いし、時代と共に消費者の嗜好やニーズも変わるため、転用が難しいのです。だから、「これは売れなかったけど、これは売れた」というセットの話を語り続けることで、売れるものとは何か、という話の核心に、少しずつ近づいていくことができます。

今回の記事では、自社の事例を中心に、4つの商品を、売れなかったものから、徐々に売れたものへつながるストーリーで紹介し、最後に、売れる商品を作るために、みんなが「コンセプト」という言葉を体得して一生の武器にし、売れるものこと作りに近づける方法を書きたいと思います。

まずは一度説明。ちゃんと知りたい、「コンセプト」


「コンセプト」って、何でしたっけ? みなさんは、説明できますか?

「コンセプト」という言葉は、マーケティングの中でよく出てくるし、ビジネスマンはよくこの言葉を使うと思いますが、様々な本やWeb記事の中でもいろいろな説明の仕方をされたりして、ちゃんと理解するのがなかなか難しいものです。自分が解釈しやすい捉え方をするのが一番いい気もしますが、ここではまず、僕がいろんな方が説明している本なども読みつつ、15年間商品を作って売れたり売れなかったりして、その中で体に擦りこませた「コンセプトとは」を以下に記述してみます。

***************************
コンセプトとは、

1.ターゲット(お客様になってくれるメイン層波及層) 
2.シーン(使用するタイミングや場面)
3.ベネフィット(他のものに代替されない、お客様が受ける恩恵)

が容易にイメージできる、ものごとを作るための指針フレーズ
***************************


以上に関しては、物申したい方もたくさんいると思いますが、今回だけはこれを元にお付き合いください。この記事を最後まで読んで気に入ってくれた方は、この覚え方を一生モノにしていただけると幸いです。

話の例えに、4つの商品の、売れなかった&売れた理由をさらけ出す


この記事では、
1.らいすふぃーるど
2.グーチョキパーダラピン
3.民芸スタジアム
4.アンガーマネジメントゲーム

という4つのアナログゲーム商品を例に話を進めていきます。知らない人が多いと思いますが、まずいきなり、この4商品の「トータル販売数」をグラフで紹介します。ざっくり、以下の様なイメージです。

4商品グラフ

最初に伝えたいのは、今回紹介する4つの商品は、どれもゲームとしては非常によく作り込まれていて面白く、人それぞれ向き不向き(not for me)はあるかもしれませんが、すべて買ってくれたお客様に大変喜んで頂いています。ただ、市場に出した結果として、売れた数のスケールが全く違いました。今回伝えたいのはその一点です。(だから、これらのゲームに携わったメンバーの気持ちも丁寧に込めて、これらの商品をぜひこの年末に遊んでみて欲しいです! という宣伝を付け加えさせていただきます。どれも自信を持って面白い #おすすめギフト です。)

では説明を続けます。ひとつずつ。

1.らいすふぃーるど

起業して最初に自社製品として制作した、秋田の米作りをテーマにしたゲーム。苗を植えて稲を育て、おいしいご飯を先にたくさん炊いた人が勝ちというルールです。

画像2

このゲームは、自分の地元である秋田への愛を爆発させ、秋田のお米がこのゲームを通して、よりおいしそうに感じてもらえたらいいな、という想いを込めて作った作品です。炊き立てごはんやきりたんぽ鍋などの米料理の写真を見て、食べたくなったらぜひ食べながら遊んでください、と伝えていました。

ゲームは面白かったのですが、結果的にこれが自分の作ったゲーム商材の中で最も売れませんでした。これが売れなかった理由を「コンセプト」の文脈で説明すると、以下のようになります。

コンセプト 「秋田のお米が食べたくなるカードゲーム」

1.ターゲット:誰かイメージできない。
2.シーン:いつやるかイメージできない。
3.ベネフィット:秋田のお米が食べたくなることは恩恵とはいえない。

秋田の米を愛する自分視点のみでコンセプトを設定していることが一目瞭然です。他の都道府県の人は、秋田と言うだけで自分ゴトではなくなるし、カードゲームを遊んで米を食べたくなりたい、なんて思う人はいないでしょう。恥ずかしながら、ユーザー視点が抜けてしまった商品だと認めざるを得ません。

コンセプトっぽいフレーズを設定したら、ターゲット、シーン、ベネフィットが1つも見えてこないただの雰囲気フレーズになっていたのです。実際、そうなってしまっている「コンセプト風フレーズ」は世にあふれていますし、僕も以前はそんなのばっかりでした。


2.グーチョキパーダラピン

誰もがルールを1分で理解して心理戦を繰り広げられるパーティーゲームです。日頃いろいろなゲームを試作する中で、自分の奥さんと子供が一番ハマってくれて、特に子供がエンドレスに遊ぶゲームだったので、6歳児とその親層向け、ということで制作、販売しました。

パーダラピン商品画像

このゲームは、らいすふぃーるどのターゲット設定の狭さから一転して、ターゲット層を広く取りました。6歳児がいる家族なら、おすすめですよ! と。

これに関しては、

コンセプト 「6歳児がハマる、初めての心理戦コミュニケーションゲーム」

1.ターゲット:6歳前後がいる家族。だが、それは後に狙いたい波及層であり、メイン層不在。

2.シーン:子供が暇をして遊びたいときの親子コミュニケーション。

3.ベネフィット:子供が初めて、相手の心理予測をしながらコミュニケーションができる。だが、その能力を子供に求める人がいるかどうかは曖昧。

結論、真っ先に飛びつく強烈なターゲットが誰で、その人にどんな強烈で代替されないベネフィットを与えられるかが曖昧でした。メインターゲット不在だと、その先の波及はありません。どんなに面白くても、手に取ってもらえなければ伝わりづらいのが、ゲーム商材の性質ですし。

3.民芸スタジアム

今度は、確実に熱狂的に欲しがるメインターゲットが存在する内容を、ということで、1パッケージで大人も遊べるTCG的ゲームにしました。これは正直、確信がありました。僕自身も、TCGを長年楽しんできたけど、大人になるとデッキを買い集めることもないし、仲間も見つけられないので、いわゆる「遊戯王」的にハマる遊びを、誰もが手軽にやれる商品を作りたい、という情熱で完成させました。モチーフは、全47都道府県の民芸品。それらをクリーチャーとして戦わせ合うカードゲームです。

商品カット

メインターゲットの狙いは当たりました。「昔トレカやってたけど、面白い!」「子供が今トレカバトルをやっていて、子供とすんなりできた!」という想定通りの声が殺到し、毎日ルールについて突っ込んだ質問をしてきたり、改良ルールを提案してきたりするファンも増えました。

しかし、販売の勢いは一定の所で止まりました。この理由は上の「グーチョキパーダラピン」とはある意味逆で、波及ターゲットが不在だったことです。これを待っていた人は存在したけれど、「TCG×民芸品のアート性」という、やはりまだ狭い内容についてくるマジョリティがいなかったのです。

これについては、

コンセプト 「47都道府県の民芸品で戦う、1セットで楽しめるTCG風ゲーム」

1.ターゲット:メインは昔TCGを遊んだ大人男性とその子供で、民芸品などのアートやカルチャーにも関心がある人。だが、波及層不在。

2.シーン:子供(大人の友達)とTCG的なゲームで遊びたい、余暇。

3.ベネフィット:過去にハマった、面白いと分かっている遊びをもう一度。(+全国の民芸品を知り、覚えられる。一覧できる。)

という感じです。スモールビジネスとしては悪くないのかもしれませんが、波及層不在。ニッチ過ぎということです。


4.アンガーマネジメントゲーム

無駄にイライラしないように感情をコントロールできるメソッド「アンガーマネジメント」。これをゲームで体験でき、実際に個人やチームのイライラが減ると評判のゲームです。圧倒的に売れ、発売から1年半、売れ行きは衰えず、むしろ上り調子です。

画像5

これが、コンセプト作りが最も成功した例です。

コンセプト 「みんなのイライラを笑いに変えて、怒りを減らせるゲーム」

1.ターゲット:メイン層はアンガーマネジメントにすでに興味があり、自分や周囲の人のイライラを減らしたい社会人。波及層は、チームビルディングなどに関心がある社会人で、ワークショップや研修を実施したい人。

2.シーン:初対面の人もいるゲーム会や、会社などでアイスブレイクなどが必要な場面。

3.ベネフィット:みんな、イライラする事柄はあると分かり、心理的安全性を得て、笑えると共に、イライラしなくてもいいと思えることが増える。

もともとのアンガーマネジメントファンや、自分や他人のイライラで悩んでいる人、という強い動機を持つメインターゲットが多人数(大きい塊)で存在し、さらにその周りに、「うちの家族もイライラしがち」「会社の上司や部下にやらせたい」という、今流行りのワードであるチームビルディング的な文脈で、欲しがる人たちが、いくらでもいたのです。そうなると、自ずとシーンもベネフィットも明確にイメージできますし、何より、ベネフィットが「他の商品で代替されない」ものになっています。

では、コンセプトという言葉を、自分のものにしましょう。


さて、ここまで長々と、自社事例を使って売れなかった商品 & 売れる商品を紹介してきましたが、多分、商売の仕事をしている多くのビジネスマンの皆様は、「いや、これ、当たり前だし、普通の話じゃん」と思われたでしょう。その通り、特に新しいことはない話です。でも、これを頭でわかっていても、なぜか、売れない物ができてしまう。それが、ハイスピードで進むリアルな仕事の現場で起こることです。9割9分のものごとは売れません。僕も、10年も大企業で商品開発とマーケティングをやってきて、いざ自分で自由な商売を始めたら、初歩的なことを忘れながら、「面白ければ価値がある!」と信じて作りたいものを作ってしまいます。僕のようなスモールビジネス屋はそれでも食べていけますが、大きな組織では許されません。

完全なヒットの法則はないかもしれませんが、よい「コンセプト」を作り、それを指針に企画を作ることで、集まってくるお客さんを増やし、ヒットの確率を高めることはできます。

コンセプト。

有名な例で言うと、iPodのコンセプトは、「1000曲をポケットに」。どうでしょう。これだけで、ターゲット・シーン・ベネフィットが一気に映像の様に目の前に見えてきませんか?

友人の玉樹真一郎さんの著書『コンセプトのつくりかた』で取り上げられている任天堂のWiiのコンセプトは、「一世帯当たりのユーザー数を増やす」だそうです。メーカー視点のコンセプトフレーズに見えますが、これも、普段ゲームをしない人とする人が一緒に遊べる、というターゲット・シーン・ベネフィットがありありと見えてくる感じがしますよね。


ここまでのお話、腑に落ちた方は、改めて、以下の「コンセプトとは」を、(できれば小さくても自分でものごとをアウトプットしながら、)体で覚えてみていただけたら幸いです。

***************************
コンセプトとは、

1.ターゲット(お客様になってくれるメイン層波及層) 
2.シーン(使用するタイミングや場面)
3.ベネフィット(他のものに代替されない、お客様が受ける恩恵)

が容易にイメージできる、ものごとを作るための指針フレーズ
***************************

ターゲット(メインと波及層)、
シーン(タイミングや場面)、
ベネフィット(他に代替されない)。

ターゲット・シーン・ベネフィット。

タ・シ・ベ。

しつこいですが、もう一度。

ターゲット、シーン、ベネフィット。

それが、ありありと目の前に映像のように浮かび上がるコンセプトを、楽しんで作ってみましょう。今の時代には「コンセプトメーカー」が必要です。あなたが、それになって、誰かを幸せにするものごとを生み出してくれたら、うれしいです。


※この記事を気に入ってくださったら、パートナーと大切に開発した以下のゲーム、ご興味があるものを年末年始にご家族で遊んでみて頂けると、とても、うれしいです。


この記事が参加している募集

おすすめギフト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?