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私たちが私たちであるため

私たちの身の回りにあるあらゆるものは、コンピューターで動くようになった。
テレビ、音楽再生機、自動車、白物家電・・・。その皮を剥がすと、中身は仕事に使っているPCと構造はほとんど変わらない。

コンピューター化されたそれらのプロダクトは、ソフトウェアの開発過程で役割を抽象化され、再定義されたことで、その価値が大きく変わった。あらゆるものは徹底的な定量的評価・比較が求められた。
人々は異なるコンセプト・プロセスで作られたプロダクトも、スペックシート上に記された定量的評価で選ぶようになった。

あらゆるもののコモディティ化。これがコンピューター化が進んだ社会の成れの果てだ。それは人も、企業も、例外ではない。

私たちは何者なのか。自らにどういうミッションを課しているのか。
あらゆるものの違いが見えにくくなった今、それを明らかにすることが強く求められる時代になったように感じる。

「私たちが私たちであるため。」
これは、リコーイメージングがPENTAXブランドのカメラの目指す方向性を宣言した際に使われた一節だ(冒頭画像はブランディングページより引用)。
私たちに課せられたミッションは、ユーザーに心躍る写真体験を提供すること。それに対するアンサーは、光を直接カメラマンの眼に届ける一眼レフを作り続けることだ、と。
ミラーレスへの一極化に対するアンチテーゼとも受け止められるこの宣言は、カメラ愛好者の間でちょっとした話題になった。そして何よりも、PENTAXの目指す方向性を明確にしたことは古くからのユーザーを安心させたに違いない。

ニコンが苦境に立たされている。コロナショックがあるとはいえ、かつて(そして今も)プロ用一眼レフとして独占的な地位を築き上げてきたニコンがここまで追い込まれるとは誰が想像しただろうか。

レンジファインダーカメラの神様・ライカが日本製の一眼レフにシェアを奪われていった時も、人々は同じように感じたのだろうか。
結局ライカのカメラ部門は、倒産に近い状態となり、一時期は安定した品質のカメラを作ることすらままならなかったとか。

かたやデジタルカメラの雄・ソニーは、自ら切り開いてきたフルサイズミラーレスの分野で一歩先を行く技術力、そして優れたマーケティングセンスで好調だ。
プロ用カメラのもう一人の王者・キヤノンもミラーレスカメラでは迷走感があったが、EOSブランドの威信をかけて最大限の開発リソースを投入し、スペックシート上でソニーを凌駕するカメラを作り上げ、王者の貫禄を見せた。
光学系・半導体・そしてソフトウェアで「最先端技術」を唄い自動化技術を競うのは、間違いなくこの2社だ。一方で、それらはもはやカメラというよりもレンズ付きのスーパーコンピューターの様相に近いのではないか。

一方、富士フイルムは「色」と「機械らしさを残したカメラ」をキーにした独自の製品コンセプトを掲げ、少数ながらも熱狂的なファンの獲得に成功しつつある。このコンセプトを全面に押し出したマーケティングも、富士フィルムのカメラが目指すわかりやすい方向性として一定の成功を収めていると感じる。

ペンタックスは、撮影プロセスを重視したカメラを目指す。
ソニーとキヤノンは、最先端技術で究極のカメラを目指す。
富士フイルムは、撮影からプリントまでの体験を楽しめるカメラを目指す

ニコンはどのようなカメラを目指すのだろう。

参考:
http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/brand/pentax/vision/
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL05HS4_V01C20A1000000/
https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/lifestyle/entry/2019/019675.html
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/interview/627920.html


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