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上場株インパクトファンド初の「インパクトレポート」を発行。りそなアセットマネジメントご担当者インタビュー

「インパクト志向金融宣言」署名機関の1つ、りそなアセットマネジメントは、2021年6月設定の「日本株式インパクト投資ファンド」が1周年を迎えるのを機に、インパクトレポートを発行しました。オールカラー・全54頁の大作で、読みやすく充実した内容です。今回は、同社でファンド運用を統括する羽生雄一郎さんと、レポートの編集長を務めた鶴田早紀さんに、インパクトレポート発行の狙いと制作の苦労話を伺いました。

りそなアセットマネジメント 株式運用部チーフ・ファンド・マネージャー
羽生雄一郎さん 同 運用戦略部インベストメント・マネージャー 鶴田早紀さん(以下、敬称略) SIIF インパクトオフィサー 小笠原由佳

読みやすい誌面をつくるため、若手を編集長に起用

小笠原 「日本株式インパクト投資ファンド」のインパクトレポートは、国内の資産運用会社が発行するレポートとして画期的なものだと思います。盛りだくさんの内容が分かりやすく整理されているのに驚きました。私たちも大いに参考にさせていただきたいと考えています。そこで、まずレポート発行の経緯から伺いたいのですが、計画が始まったのはどの時点だったのですか?

羽生 インパクトレポートを発行することは、ファンドの設定当初から想定していました。上場株でインパクト投資を行う場合、運用者としての“アディショナリティ(追加性)”をいかにして出すかが難しい。私たちが考えたのは2点です。1つは投資先企業とのエンゲージメントを通してインパクトを拡大すること。もう1つは、投資家にインパクト志向への理解を広げていくことです。そのためのツールとして、インパクトレポートは欠かせませんでした。

小笠原 このファンドは10の課題領域(上図)をターゲットにしていますが、その分析だけでも大変だったのではないでしょうか?
 
羽生 統計データや課題の構造を体系的にまとめたり、評価の枠組みを検討したりする作業は21年秋から進めていました。ただ、運用チームだけでつくると、どうも研究論文のような堅苦しいものになりそうだった。そこで、本格的にレポート制作にとりかかる22年2月から、若手の鶴田に参加してもらうことにしたのです。
 
小笠原 そのご判断が素晴らしいですよね。鶴田さんの役割は、具体的にはどんなことだったのでしょう?
 
鶴田 インパクトレポートは、投資家に提供する大切な価値の1つと聞いていました。私の役目は、レポートの構成や見せ方を工夫して、より分かりやすいものにすることです。実は私自身、ファンドの設定にも少しかかわっていて、そのときから「なんていいファンドなんだ!」と勝手に思い入れを抱いていたんです。その良さを伝えるには、まず手に取ってもらい、読みたいと思ってもらわなければ始まりません。
 
小笠原 企業としてはもちろん、個人としての想いがこもっているのは大事なことですね。だからこそ、こんな素敵なレポートができたんだと思います。制作にあたって参考にしたものはありますか?
 
鶴田 主に海外ファンドのインパクトレポートを参考にしました。国内にも先行のインパクトレポートはありますが、「インパクトファンド」としてのお手本はやはり海外だと考えましたので。
 
小笠原 誌面で工夫した点を教えていただけますか?
 
鶴田 まず、10ある課題領域を、それぞれ見開き4頁で完結させて、どこからでも読めるようにしたことです。最初の見開きで課題を整理し、次の見開きにインパクト目標や評価をまとめました。ポイントになるデータの数字が目に飛び込みやすくし、読みものとしての面白さも目指しています。

小笠原 特に難しかったことはありますか?
 
鶴田 各課題の「インパクト目標と貢献企業」(下図)をまとめるのが難しかったですね。運用チームの内部では、投資先企業の行動からインパクト創出までの経路を整理できているのですが、その複雑な内容を、どうやって投資家に伝えるかが課題でした。分かりやすさと正確さの両立に悩みました。結果、それぞれ「ターゲット」に対する「インパクト」「アクション」の3段階のフロー図にまとめています。
 
小笠原 完成したものはシンプルですが、ここまでに整理するのは本当に難しいですよね。よく分かります。

10の社会課題すべてについてアウトカムを数値化

小笠原 このレポートで、特に訴求したかったことはなんでしょうか?

羽生 ファンドの目標は「持続可能で住みよい日本社会の実現」です。そのために10の課題領域を設定しました。検討段階ではもっと絞るべきとの意見も出ましたが、課題はそれぞれ独立しているわけではなく、複合的・連鎖的に絡み合っています。社会全体の改善を目指して、10の課題を洗い出して整理したことが、まず1つですね。そして、そのそれぞれについて、荒削りながらも指標を定量化し、可視化したことも訴求点です。

鶴田 このレポートを読んだ方が「日本にはこんなに課題があるんだ」ということに気付き、「自分ごと」として捉えていただけるといいですね。そして、その解決のために頑張っている企業がこんなにあることを知り、投資したいと思ってもらえれば。私自身も投資したくなった1人ですから。

小笠原 アウトカムの数字は、投資先企業が公表しているものですか?

 羽生 公表されている数字そのままではなく、それに基づいてこちらで「アウトカム」として試算しました。投資先企業としても、それぞれが目指すインパクトをどう表現していいか分からないことが多いようです。レポートで示したアウトカム指標はそのための提案でもあり、これに基づいたディスカッションを投資先企業と始めています。今後のエンゲージメントにもつながっていくでしょう。

小笠原 投資先企業にとっても役に立つレポートになっているんですね。

羽生 中には「顧客や株主に対して直接『自分たちは社会に貢献しているんです』とは言いにくい」という企業もありました。「代わりに、りそなが言ってくれてありがたい」と。

小笠原 それもアディショナリティの1つになりそうです。中立的な立場から企業活動を評価されることは重要ですから。ところで、インパクト評価のコストについてはどうお考えですか? 投資先と投資家のどちらが負担するべきか、よく議論になるところですが。

羽生 社内でははじめから、投資先に負担してもらうという発想はありませんでした。このインパクトレポートは私たちのアディショナリティとして作成しているものですから、りそなアセットマネジメントが負担するのは当然だと思います。ただ、将来的に企業活動上でインパクト評価が事業戦略のKPIに組み込まれるようになれば、企業が自ら負担することもありえるのではないでしょうか。

次号以降は、課題の相関関係や経時変化の可視化が課題

 小笠原 来年以降も毎年発行なさるとのことですが、今後チャレンジしたいことはありますか?

羽生 10の課題領域について一通りアウトカム評価を揃えられたのは良かったと思っていますが、まだまだ改善の余地はあります。今後は、時系列で変化を捉えていく必要もあるでしょう。また、課題相互の関連についても明らかにしていかなければなりません。

小笠原 特に課題の分析については、ご一緒に議論できるといいですね。ちなみに、ファンドとしてのKPIは設定しているんでしょうか?

羽生 それも今後の検討課題です。各課題のアウトカムを共通の物差しに置き換えて合算するとか、アイデアとしてはありえますが。

小笠原 分野が異なる10の課題を統合する指標をつくるのは相当に難しそうですね。

羽生 あとは、個別のエンゲージメント事例をもっとうまく伝えられればと思っています。

鶴田 まだまだ投資先企業の魅力を伝えきれていないように感じています。加えて、ファンド運営チーム各人の個性と熱い想いも、もっと表現したいですね。

小笠原 インパクト創出に向けて力を合わせる人々の顔が見えれば、さらに共感が得られそうですね。来年のレポートも楽しみにしています。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

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