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セオリー・オブ・チェンジの思考

■ シリーズ: ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から ■
執筆者:SIIFインベストメントオフィサー 古市奏文 (2019/08/28)

新生インパクト投資が今年6月、「日本インパクト投資2号ファンド」を設立しました。今回はわれわれSIIFもGPとしてファンドの運営に参画しインパクト評価などの面を中心に、協力させていただいています。

2017年1月に設立された同社の第1号「子育て支援ファンド」には各方面から大きな反響がありました。メディアでも数多く取り上げられ、新生企業投資インパクト投資チーム シニアディレクター高塚清佳さんと黄 春梅さんは昨年度の日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。

当初は社内でも投資価値のあるインパクト企業がどれほどあるのかと懐疑的な声もあったようですが、フタを開けてみると「投資を受けるのであれば、社会的ミッションを理解してくれる投資家から出資を受けたい」という起業家が集まりました。投資家側からもインパクト投資が可能な具体的な案件を探していたという声があり、うまくマッチングしたようです。

こうしたことを受けて同社の第2号ファンドはより大きな規模のインパクト投資ファンドを立ち上げようということになりました。

SIIFとしても以前から、本格的なインパクト投資を日本で立ち上げたいという思いは強くありました。ここ数年でインパクト投資という言葉は広まってきましたが、まだまだリターンが少ないというイメージはあります。リターンとインパクトを両立させたファンド、そして国内の企業を対象にしたインパクト投資ファンドを作りたいと模索していたところに今回の機会をいただきました。

ファンドを立ち上げるに当たって重視したのが「ファンドとしてどういう社会的インパクトを追求していくか」を定義すること―セオリー・オブ・チェンジの考え方です。単に投資ジャンルを決めるのではなく、われわれがこのファンドでどういう社会の変化をもたらしたいかを仮説を持って進めていくことが最も重要なのです。

議論を重ねた中で定義したのは、「より多様な働き方を創造すること」。働く人を中心に捉え、子育てや介護などの様々なライフイベントを経ても働きつづけられる環境づくりと人材の創出を課題としました。高齢化社会となった日本では働き方を劇的に変えざるを得ない。日本が今、グローバルに発信できる課題はそこにあると考えました。中期的には「ワークとケア」。自分の働き方をいかに充実させるか。そして子育て、介護といったケアもネガティブをプラスに転換するような支援や枠組み作りを行う投資先を探していきます。

今は日本国内でもVCが数多く新しく立ち上がっています。資金が拡大する一方で投資家に求められる役割も変わってきています。差別化も求められるし、明確なバリューがないと認知されづらくなっている。そういった状況の中で、インパクト評価を軸におくことは今の時代に求められる新しいバリューの一つでもあります。
投資家側も自分たちのお金をどう活用していくか自覚をもって運用していくという気運はありますし、起業家側も自分たちの思いを理解してくれる投資家を受け入れたいという思いが強くなっているのを感じます。社会を変えるための熱量とこだわりを持つ投資家と起業家が、その価値観を共有する方法論の一つがインパクトファンドです。これをもっと共有できるようにしたいし、社会的な課題に共感する投資家がもっと増えてくれることを願っています。

投資家と起業家がつながるために基本的には個人のネットワークが頼りになります。SIIFの役割の一つは、そうした両者をつなぐハブになること。幸い今回も日本インパクト投資2号ファンドのプレスリリースを出してからは一気に問い合わせが増え、多くの起業家から問い合わせをいただいている状況です。企業の選定に当たっては、インパクトはもちろんファイナンシャルも誠実に捉えて取り組んでいきます。

インパクト評価は確かに時間も手間もかかります。いかにインパクトを測り、それをどう活用していくかはまさに経営の本質であり、現在国際的にも共通概念を構築している段階。そうしたグローバルな最新情報をキャッチしながら我々もファンドを運営していきたいと考えています。第2号ファンドはスタートしたばかりですが、インパクト評価の手法については今後、できるだけ情報を開示していきます。


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