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地方でも、子育て中でも、キャリアを築ける仕組みを。はたらクリエイトとともに仕事のジェンダーギャップ解消を目指します。

システムチェンジコレクティブ事業(以下、SCC事業)の協働パートナー、1社目にご紹介するのは、長野県上田市に本拠を置く株式会社はたらクリエイトです。創業者の井上拓磨さんは「地方でも、女性がキャリアを築けるモデルをつくりたい」と語ります。現在、同社の約100人の従業員のうち、9割が女性、その8割が子育て中とのこと。

どこに住んでいても、どんなライフステージでも、誰もが自らのキャリアを諦めることなく働き続けるには、どんな構造変革が必要なのでしょうか。はたらクリエイトとともに、次のステージを目指します。

株式会社はたらクリエイト 代表取締役 井上拓磨氏
株式会社はたらクリエイト マネージャー 千野佳代子氏
SIIF 事業部長 加藤有也・SIIF インパクト・オフィサー 斉藤匠

「地方で女性のキャリアをつくること」を目的に会社を設立

齋藤 はたらクリエイトは、事業の目的そのものが「地方で女性のキャリアをつくる。」ことだそうですね。

井上 私の住む上田市で「子育て中の女性にとって働きやすく、キャリアを目指せる環境をつくりたい」と考えたことが、会社設立の動機でした。そのため、未経験のスタッフを全員パートタイマーとして雇用し、子育てと仕事のバランスを取りながら、徐々にキャリアアップを目指そうと思っていました。

仕事の入口として、まずBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業から始め、マーケティング、DXなどの専門的な事業に幅を広げてきました。地方で女性のキャリアを作れる事業は何か、という考えで事業展開をしているので、「御社の事業内容は?」と尋ねられると、どう答えればいいか困ってしまうんです。

齋藤 マネージャーの千野さんも、子育て中に入社した後、いったん産休・育休を経て復帰なさったと伺いました。

千野 第一子が4歳のときに入社して、ちょうど仕事がおもしろくなってきたタイミングで第二子を授かりました。仕事をする生活が恋しくなってしまったので、産後7ヶ月で育休を切り上げて復帰して、現在に至ります。

そう話すと順調に思われるかもしれませんが、実は、子育て中に社会復帰を志してからはたらクリエイトに入るまでは挫折の連続でした。就職活動で、小さな子どもがいること、第二子も考えていることを正直に話したら、見事なまでに落ち続けたんです。人生で、こんなに不合格をもらい続けることがあるとは思いませんでした。

たまたま、独身時代の縁でパートの職を得たものの、小さな店舗で休みもとりづらく「やはり辞めるしかないか」と考えていたときに、はたらクリエイトの求人に出会ったんです。そのときも自分から「第二子を考えています」と明言しましたが、受け入れていただけました。

齋藤 今では管理職に就いていらっしゃる。

千野 少しずつ階段を上っていった感じです。管理職になるからといって気負うこともありませんでした。任せてもらえることが純粋に嬉しかったですね。私はこの会社で仕事の楽しさを知りましたし、のびのび働ける環境だと感じています。

キャリアをつくった証左として賃金格差の解消を目指す

齋藤 男性である井上さんが、女性の課題に関心を持つようになったのはどうしてなんでしょう。

井上 私の母は、自分の仕事を愛し、子どもの私にいつも「仕事って楽しいよ」と話してくれる人でした。一方の父は「リアル島耕作」のような仕事人間で、よく「お前のような甘いヤツは社会に出ても通用しないぞ」と言われたものです。両極端の仕事観を持つ両親を見て育ったことで、社会課題とビジネスのバランス感覚が養われたのかもしれないな、と思ったりします。

実際に女性たちと働いていると、いろんな課題が浮かび上がってきます。身近なメンバー一人一人の課題と向き合いながら、それを社会全体の構造と照らし合わせて考えるのが、私の習性なのかもしれません。

齋藤 井上さんは、目の前の課題だけでなく、社会全体の構造に目を向けて、解決につながるビジネスモデルを志向しておられる。そこがSIIFのシステムチェンジコレクティブ事業と親和性が高いと思いました。現在、井上さんがテーマとしている課題の1つが「ジェンダーペイギャップ(男女の賃金格差)の解消」なんですよね。

井上 それもまた、身近な問題から始まっているんです。

はたらクリエイト設立当初は、従業員全員がパートタイマーでしたが、メンバーのライフステージが変化して、勤務時間が延びたことで、いわゆる「年収の壁」を超えるようになってきたんです。配偶者の扶養から外れ、社会保険料を支払わなければならなくなって、手取りが減ってしまう。「女性にとって働きやすい会社」をつくったつもりだったのに、このままでは「ただの給料が安い会社」になりかねないと焦りました。

はたらクリエイトが今、直面している課題は、社会全体が直面している課題でもあります。女性の働き方を、従来のパートタイマーモデルから変革しなければならない。ちょうどそう考えていたタイミングで、SIIFのシステムチェンジコレクティブ事業に出会ったわけです。

齋藤 税制や社会保険制度による「年収の壁」には何段階かありますが、いちばん高いもので150万円です。はたらクリエイトの平均年収は、150万円を超えても手取りが増える水準には達しているんですよね。

井上 時短・フルタイムで働く社員は超えるようにはなっています。ただ、理想をいえば、地域の正規職員の平均年収以上を目指したい。そうでなければ「キャリアを形成できた」と胸を張ることはできませんから。

未経験のパートタイマーから始めても、しっかりキャリアを築けるようなモデルをつくることが目標です。ジェンダーペイギャップの解消は、そのための指標に過ぎません。

加藤 地方で女性が、当たり前に、男性正社員と変わらない年収を目指せる。そんなモデルが本当に実現できて、社会に浸透していけば、日本の企業経営のあり方そのものの改革につながるかもしれません。

例えば今、非正規雇用が増え、経営側にとって安易な雇用調整が可能になっています。被雇用者側もまた、それを当たり前に受け入れざるをえない状況がある。この現実をひっくり返すには「事業でお金を稼ぐこと」と「働く人を幸せにすること」はトレードオンになりえるという、価値観レベルの変革が必要ではないでしょうか。

SIIFが目指す「機会格差の解消」において、企業経営のあり方は根本的な課題ですし、現場でその課題に取り組んでいる井上さんたちと協働できることにワクワクしています。

社会を変えるモデルをつくるために、ともに模索する

齋藤 井上さんたちはSIIFとの協業に、どんなことを期待してご応募くださったのでしょう?

井上 はたらクリエイトは、もともとIPOを目指すような会社ではありませんし、出資を受け入れること自体が初めてなので、率直にいって不安もありました。ただ、会社設立から7年が経ち、次のステップに進むには、私たちの力だけでは難しいかもしれないと考え始めていたタイミングでした。

世間から「女性がいきいき働く企業」として注目されるようになり、近年は視察も増えましたが、結局はみなさん「井上さんみたいな人がうちにいてくれたらな」とおっしゃって帰っていく。私も、上田や佐久のモデルを他地域に広めたいとは思いますが、かといって、自ら47都道府県に出張っていくこともできません。そんなときにSCC事業を知って「一緒に社会を変える仲間ができる」と思えたことが大きかったですね。

齋藤 はたらクリエイトは、事業にインパクトが実装されていて、SCC事業にぴったりの協働パートナーです。なおかつ、事業にもインパクトにも偏らない、絶妙なバランスだとお見受けしています。

井上 高評価はありがたいですが、事業面は、まだまだ弱いと自覚しています。未経験のパートタイマーから出発したメンバーが、キャリアを積んで付加価値を高めていくには足りないことだらけです。例えば事業開発やスキルアップ支援について、SIIFとご一緒できれば頼もしいなと思っています。

加藤 今後は、お互いの現在地とリソースを確認しながら、目標とするモデルに向けて解像度を高めていくプロセスになるでしょう。はじめから明確な将来像があって、足りないピースをただ埋めていくのでは、本質的な改革とはいえないでしょう。ざっくばらんに話し合いながら、少しずつ道筋を探していくしかないと考えています。

千野 私は今まで、「出資」や「協働」といった言葉にピンと来ていなかったのですが、実際に加藤さんや齋藤さんとお会いして「思ったことはなんでも話していいんだ」という安心感をいただきました。

これまでは、社外の方からうちの会社の印象を聞く機会がなかったので、とても新鮮な経験です。新しい視点をいただいて励みになりましたし、これからがとても楽しみです。

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<システムチェンジ投資家としてのチャレンジ>
ジェンダーギャップと様々な格差は密接に関連しており、人々の意識の奥底にはジェンダーギャップが埋め込まれていると考えています。その中でも、私たちが解決に向けて取り組む格差は、男女間の所得格差、いわゆる「ジェンダーペイギャップ」の根本的な解消です。
ジェンダーペイギャップは表面的には賃金の問題ですが、その背景には家庭内における家事労働負担の格差、正規・非正規雇用の格差、キャリアを通じた能力開発機会の格差、そして意識的・無意識的な男尊女卑のマインドセットなど多岐に渡る課題が埋め込まれています。これは地方であるほど性別による役割分担が根付いており、その構造が固定化しやすい状態にあります。1999年に男女共同参画社会基本法が制定されてからも、日本のジェンダーギャップ指数には改善が見られないように、明確な解決策は見つけられていないのが現状です。
一方で、課題のステークホルダーは明らかで、女性自身だけでなはく、働く環境である企業と経営者、そしてパートナーや同僚として関わる男性の3者です。そして、各ステークホルダーには前述のような課題の連鎖が生み出す負の循環から抜け出しにくいループが生まれていると考えています。

「女性のキャリアをつくる」中で女性のキャリアに関する実績を創出すると同時に、人的投資を行う企業のビジネスモデルを普及させることで、課題のステークホルダーである企業と女性に、同時にアプローチしていきます。アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)の変容を目指すためにも、表面化している負のループへの多面的なアプローチにより、改善へのプロセスを見出すことができるのではないでしょうか。

今後の計画としては、事業拡大を通じた自社内の「女性のキャリアをつくる」ことによりジェンダーペイギャップのさらなる改善を図ります。また、他地域で同じ思いを持つ企業へのビジネスモデルの横展開などによるステークホルダーの拡大、IMMによるモニタリングや広報発信など、はたらクリエイト社単独ではアプローチが簡単ではないレバレッジポイントへの働きかけを共に行うことにより、システムチェンジへの兆しを引き起こしたいと考えています。

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