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脱学校的人間(新編集版)〈62〉

 産業資本の富を増大させるという特定の目的にもとづいて、その生産活動の手段として一つに集合させられている労働者諸個人の、その生産機能としての同一化・統一化は、生産活動の手段として主に「分業」の方法を用いる場合、まず真っ先に必要となってくる条件なのだ、というように考えられる。ここでそれを、「分業」とはまた別の生産方法、たとえば「協業」という生産活動の方法と比べてみよう。
 まず、「生産手段として、個々の生産力が個々に機能することによって成立するところとなる、生産作業間の『連結』」が、いわゆる「協業」と呼ばれる生産活動の様態である、とする(※1)。つまり、互いに有しているそれぞれ種々多様な技能などを持ち寄り、それを必要に応じて互いに結び合わせ組み合わせたその結果として、「協同して」一つの生産物を完成させていくというのが、いわゆる「協業」という生産活動のイメージだと思ってよい。また、かつて子どもが子ども扱いされていなかった時代、「小さな大人たち」が学び取り、その終生にわたって携わっていた仕事とは、まさしくこのような生産活動にあたるとも考えられよう。
 この生産活動において、「個々の生産力が互いに連結して、一つの生産手段として成立する」というのであれば、たとえそれらが「互いに異なる性質や規格を有する生産力」であったとしても、強いてその個々の生産力に対して「互いに同一の生産力であること」がことさら求められるということはまずない。この「連結」は、あくまでも「結果として」のことなのである。だから、それら「質の異なる生産力」を集めてみたものの、結果的に生産手段としては一つの形にはならず、目当ての生産物が作り出せないというのなら、もはやそれらを一つに集めることは止めにして、それとは何か別のやり方をあらためて考えればいいというだけの話なのだ。ゆえに、そこに集められる個々の生産力にしても、それぞれ個々の生産力として「互いに平等=同一であること」などを、その活動に集合するための条件としてことさらに求められることも、逆に自分たちから求めることもないし、そもそも基本的にそのようなことなどは何ら気に留める必要がないのである。なければいらない、できなければやらない。ここでの話はただ、それだけのことに尽きるのだから。

 一方で、「分業」は個々の生産力の、その生産「機能」としての共同性、あるいはさらに言ってその同一性・統一性があらかじめ重視される。アレントの言葉を用いると、この生産過程に導入される個々の生産力には、「全ての人が等しい者として一つの者とされる『一者性(ワン・ネス)』」(※2)の前提にもとづき、たとえ生産活動過程のどこに導入されるのであれ、そこで何ら支障なく通用しうるように、互いに異なるところの全くない、その全体で統一された規格に適う生産機能であることが、何をおいても優先度の高い生産活動への参入条件として、全ての生産力の具現者、すなわち個々の労働者には、あらかじめ求められているわけなのである。
 言い換えれば、分業とはいわば「生産手段として集約された、同一生産力の分配」であり、そこで実際に生産活動を担う「労働の活動力」すなわち個々の労働者は、分配されたどの生産作業ラインにおいても、変わることなく同一の生産力として互いに全面的に一致し、同様の機能水準において活動できるのでなければならないものとされている。ゆえにその生産活動において、「実際に活動する」個々の労働の活動力すなわち労働者たる諸個人の、その「社会性(それをあえて言い換えるならば、『個々の労働者の社会的人間性』)」もまた、その生産活動様態の全面的な一致に伴い、それと同様に変わることなく互いに全面的な同一性・統一性を担保していなければならないものとされる。端的に言えば、人間性の違いが生産活動の水準の違いとして表れてくることは、分業においては絶対に許されないことなのである。

 上記にもとづいて、「分業」とは何であるのかということの本質を、アレントの言によって端的に要約すれば以下のようになる。
「…労働の分業は、二人の人間がその労働力を重ね合わせることができ、『二人があたかも一人であるかのように振舞う』ことができるという事実にもとづいている。…」(※3)
 すなわち分業の要点とは、生産手段として同一あるいは同程度の機能を持った生産力として、「あたかも二人の人間が同じことを同じようにできる」ようなものであるからこそ、たとえばそれを二つに、あるいはもしかしたらそれ以上に分けたとしても、それぞれが同じように作業することができる、というところにあるわけである。

〈つづく〉

◎引用・参照
※1 アレント「人間の条件」
※2 アレント「人間の条件」
※3 アレント「人間の条件」志水速雄訳


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