「お探し物は図書室まで」 青山美智子
「どんな本もそうだけど、書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ」
「お探し物は図書室まで」 青山美智子
なんと素敵な本なのでしょう。
何度も何度もそう言いたくなる素敵な本でした。
実はもう、3回もこの本を読んでいます。
何回読んでも、読んだあとに幸せな気持ちになれるのです。
本屋大賞2位になっていますが「そんなの関係ないっ!」て感じで、1位も2位も順位をはるかに超えたところに「幸せ」が君臨していました。
この本のテーマは「本」であり、「図書室」であり、それを取り巻く「人」であります。僕はいつの間にかこの物語の強力な引力に引っ張られ、完全に没頭していました。
僕はこの図書室の司書である小町さゆりさんに、自分の悩みについて話したくなりました。また、そこからどんな「本」を自分に選んでくれるのだろうか? どんな「ふろく」を手渡してくれるのだろうか? と妄想しながらこの本を読んでいました。
この本に登場する5人の人たちは、すべてに共通して自分を見つめて悩んでいます。何かを探しています。
朋香 二十一歳 婦人服販売員
諒 三十五歳 家具メーカー経理部
夏美 四十歳 元雑誌編集者
浩弥 三十歳 ニート
正雄 六十五歳 定年退職
5人はなぜだか吸い寄せられるように、この図書室に立ち寄ります。
5人はそれぞれ、この図書室で司書を目指している森永のぞみさん(目の大きな高校生にも見えるポニーテールの女の子)に案内されて、司書の小町さゆりさんのところへ導かれます。
のぞみさんは小町さんに絶対的信頼を置いていて、小町さんに取り次ぐ使命があるかのようです。
森永のぞみさんに案内された先
奥のレファレンスコーナーには、針をブツブツと刺して羊毛フェルトを作成している小町さゆりさんがいました。
悩みを持った登場人物がそれぞれ、針をブツブツと夢中で刺している小町さんに対して、ある種、怖れのようなものを感じます。そして、こんな印象を抱きます。
シロクマ
ゴーストバスターズのマシュロマン
ディズニーのベイマックス
早乙女玄馬のパンダ
そんな色白の大きな小町さんが、針でブツブツ刺している状況に一瞬ひるみますが、ひるんだところに間髪入れず、小町さんはこう言い放つのです。
「何の本を探しているのか?」というのではなく、「あなたは何を探しているの?人生で?」という、問いかけみたいな言葉を投げかけるのです。
その声、その語り口調は、抑揚のない言い方なんですが、やさしく、くるむような温かさがあり、慈しみがあり、身も心も委ねたくなるような穏やかで凛とした声であるのです。
その声に心を奪われ、みんな自分のことをあれよあれよと小町さんに語ってしまいます。
話し終わったその刹那、ダダダダダダダァァァ~ッと小町さんはパソコンのキーを叩きはじめます。まるでケンシロウが、秘孔を突くかのように。
そして
決め手に「Enterキー」を一打!
その瞬間、プリンターがカタカタと動き出し、小町さんが選んだ本の名前が打ち出された紙が出てきます。
その紙には、何冊かの本の名前が書かれています。
みんな、その本のタイトルを見て考えます。
そして、その紙ともうひとつ
「ふろくだよ」と小町さんは言って、羊毛フェルトを手渡します。その羊毛フェルト(付録)が、深い深い人生のヒントをあたえてくれるのです。
小町さんが選んだ本は、確実に読んだ人に人生のことを考えさせました。考えて、考えさせらて、それぞれに幸せを導き出しました。
小町さんは言います。
人は幸せであれ、成功であれ、人に教えられるものではありません。自分自身で気づくしかありません。自分自身が気づくことでしか本当の幸せはないのだと。
そのヒントや道標として本があり、そうして着々と自分の目的地に向かって進んでいけるのだということを、小町さゆりさんに教えられます。羊毛フェルトの付録とともに。
「何をお探し?」
こだまでしょうか?
僕はこの本を読んで以来、この言葉がずっと鳴り響いています。
【出典】
「お探し物は図書室まで」 青山美智子 ポプラ社
P.S. 本の表紙には、付録の羊毛フェルトが載っています。読んだあとに表紙のカバーを見ると何故だか感慨深いです。また、本の表紙が図書室の本の仕様になっているのも、何故だかうれしいです。