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「うつくしいのはら」 いきのびる魔法 より 西原理恵子


「ねえ おかあさん ぼくたちは いつになったら 字をおぼえて 商売をして 人にものをもらわずに 生きていけるの。」


「うつくしいのはら」 いきのびる魔法 より 西原理恵子



とても不思議な物語でした。


とっても短いお話なのに


とってもかわいくて、きれいな絵なのに


すごく切なくて、考えさせられて、心が熱くなって


私たちの国では、あたりまえのことでも
そうではない国がたくさんある。


「うつくしいのはら」の国では、
字を習えることのありがたさがあります。


その地(国)で、女の子は毎日字を習いに行きます。


教室では、はじめにシスターがつくった歌をみんなで歌います。


♪ 字が読めたら 世の中がわかる。
商売ができる ごはんが買える
かぞくが いっしょに いられる 
字をおぼえましょう


ここは、紛争が絶えない国なんでしょう。


食事も配給です。


軍人さんにえらそうに言われて、食事をもらっています。


女の子は、思います。


「私は字をおぼえて、たくさんおぼえて、もらわない人間になるんだ」


ある日


女の子は、うつくしい野原で男の子たちと遊んでいました。


すると


そこには、異臭を放つ兵隊さんの死体が!


女の子は、なぜかその兵隊さんの
死体の近くまでずんずん行きます。


女の子のまなざしは、なぜかやさしくなつかしそうです。


不思議ですが、女の子はその兵隊さんと話をするのです。


「どこからきたの?」

「うみのむこうのくにから。」


兵隊さんは、家族を食べさせたいために兵隊になったと言い、「もらうのはみじめ」だと言います。


「今のほうがもっとみじめじゃないの?」

「いや、もう、らくちんだ。 あおいそらしか みえないし。」


兵隊さんに土をかけたら、次の年、そこから空豆の木が生えてきました。


そして


何年もして、その空豆が女の子のおなかにふってきたんです。


女の子は、男の子のあかちゃんを産みました。


女の子は、あかちゃんの瞳をみつめて言います。


「あの時の兵隊さんでしょ」


それから、月日がたち


戦火は、海の向こうから確実に
女の子の国へと、近づいてきます。


母親になった女の子は、息子に「字をならいなさい」と言いました。


そうすれば本を読め、世の中のことがわかり、仕事がもらえ、食べさせていける、と息子はお母さんに教えられます。


海の向こうの煙は
ある日 ぼくの家にやってきた。


男の子(息子)が字を習って帰ってくると、町が戦火に包まれ、お家の下敷きになったお母さんがいました。


お母さんは息絶え絶えに


「おかえり 今日はどんな字をならってきたの?」


男の子は答えます。


「うつくしいのはら」

「きれいなことばね」


お母さんは亡くなりました。


それから ぼくは 兵士になって
字をたくさん覚えられなかった。


男の子は兵士になって、うつくしいのはらで撃たれてしまいます。


最初の風景


はじめに女の子が、兵隊さんの死体を見つけたあの場所に戻ります。


死んでしまった男の子に、女の子(お母さん)は会いにやってきます。


まったくはじめと同じシチュエーションに戻る設定に、戦争の終わらない、また、戦場の変わらない、同じ年月をくりかえしている「空しい状況」を示唆しているように感じられました。


今度は同じ設定の中で、お母さんと息子の会話が続けられます。


死体になった息子は、涙を流しながらお母さんに尋ねます。


「ねえ おかあさんぼくたちは 
いつになったら 字をおぼえて 
商売をして 人にものをもらわずに
生きていけるの。」


「わからない」とお母さんは言います。


ただひとつ、お母さんの言った言葉が


一つでも多くの言葉を
おぼえましょう


空豆の花言葉は、『憧れ』。


サヤが天に向かって伸びるようなので、空豆なんだそうです。


「うつくしいのはら」の最後に母と子が語り合っている場面。


絵は青い空をバックに、そらまめが描かれています。


ふたりの「憧れ」が、天空に届くように



【出典】

「うつくしいのはら」 いきのびる魔法 より 西原理恵子 小学館



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