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市民と共創するスマートシティ

前回は1周年記事として公共とデザインのミッションや今後取り上げていく記事のスタンスについて書きました。人々がうちなる光を灯すための公共のあり方として考える一つのうつわとして、都市環境があげられます。

過去にも市民参加やまちづくりの記事を書いてきました。行政や企業が都市をつくるにあたって、たびたびキーワードとしてあがるスマートシティに焦点を当て、テクノロジーと住民、住民の都市における役割について考えて行こうと思います。

トップダウン型 - スマートシティの古典的モデル

スマートシティについて、国土交通省の定義では「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)」が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」とされています。

現在は、世界2000以上もの都市で、スマートシティプロジェクトが進行していると言われています。スマートシティと一口にいっても、そのあり方はいくつかに分類できます。

社会学者のJennifer Gabrysは、古典的なスマートシティのモデルとして「トップダウン型」をあげています。大手テック企業や強い権力を持った国家の主導、または官民連携で行われるかたちで、少数の専門家グループが都市全体のプロジェクトを決定することで、住民や都市との軋轢が生まれて失敗してしまい、失敗してしまうケースが増えているとしています。

例えば、GoogleのSide walk labsは都市生活を最適化するため、可能な限りあらゆる場所にあらゆる種類のセンサーを埋め込み、住民の行動データを集めるはずでした。しかし、データの管理・プライバシーの問題について市民活動家、専門家からの批判に晒されプロジェクトは遅延し、最終的に頓挫してしまいました。

ボトムアップ型 - スマートシティのこれからのモデル

先日の市民科学の記事でも触れましたが、トップダウン型のモデルでは、住民がデータの一部として扱われることが多く、生活が便利になるとしても、住民のまちへの主体性は失われます。

都市計画者で社会学者のRichard Sennettはこのような意思決定に住民が関与しないかたちを、「市民をまぬけにする」と語っています。テック企業に最適化を委ねることは、住民は何も考えなくても便利な暮らしが手に入り、お上任せを助長することにもつながりかねません。

スマートシティプロジェクトが頓挫しないために、特にプライバシーの側面での住民のとのコミュニケーションの透明性・信頼性を担保し適切なコミュニケーションをとっていくことは大前提ですが、テクノロジーのよい点を活かしつつ、住民が自らまちの担い手となれる「ボトムアップ型」のスマートシティを模索していくことが一つの大きな鍵ではないかと考えます。

Amsterdam Smart City | オランダ

■ 住民・地元企業・スタートアップ・研究者・行政職員が集う、都市のイノベーションプラットフォーム
トップダウン型の場合、リードする企業や行政の理想に向かってコントロールし、住民や地域の企業などの入る余地を与えないこともしばしばありました。

「Amsterdam Smart City」は地元の公共団体・経済団体の主導で、政府、知識機関、社会組織、アムステルダム首都圏で活動する革新的な企業が参加。特徴的なのはオープンイノベーションのプラットフォームとしても使うことを明確にしており、8,000人以上の市民で構成されているコミュニティを持っていることです。

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プラットフォーム上で各プレイヤーがプロジェクトを共有しあう | Amsterdam Smart City

コミュニティではオンライン上で市民や研究者・企業・スタートアップ・自治体がお互いから学び、連絡を取ることができる仕組みになっており、オープンになっています。

例えば廃棄物施設に勤める女性は有機性廃棄物を堆肥にするプロジェクトを、あるい研究者は論文を共有しあえるプラットフォームを、ある教師は有機食品の小規模生産と販売を目的とした農家をめぐる散歩を企画したりしています。

企業がコントロールしたり、行政が形式的に決めるのではなく、自発的なプロジェクトを応援するうつわとなるコミュニティを運営するかたちで、住民同士のプロジェクト創出を促進しています。

Smart Citizen | スペイン・バルセロナ

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Smart Citizen Kitを使う住民 | Fab Lab Bercelona

■ 「スマートな市民なしに、スマートシティはありえません」
バルセロナのスマートシティ戦略のコンセプトのひとつには「市民参加」が存在します。といっても、単純にインタビュー調査に参加してもらうといった形式的な参加や、政策立案のワークショップに参加してもらうといった一時的な参加ではありません。

「市民はスマートシティの開発において重要な役割を果たす」と位置付けるバルセロナでは、市民自身がまちの課題を解決できるよう、Fab Lab Barcelonaのリードで市民がテクノロジーを扱えるようにするプログラムが組まれています。

「Smart Citizen Project」では市民がテクノロジーを用いてまちの課題を解決することをサポートしています。例えば、プロジェクトの一つである「Making Sence」では、市民が騒音が大きい場所を計測でき、地元の政策立案者と協力しながらまちの課題を解決できるような仕組みを作っています。

「Remix The School」は工芸作家の技術と、3Dプリンタなどのデジタル技術により、教育現場で地域で出た食品廃棄物を利用してアートや、石鹸、テキスタイルなどを創作する取り組みです。

Fab Lab Barcelonaは「Making Sence」などのシチズンセンシングツールキットを使用したり、「Remix The School」のような技術の使い方や自らの手によるクリエイションを体験することの重要性を説いています。それが「市民に社会課題解決と生活を向上させる権限を与える」としています。

無意識に行動データがとられ最適化されるというのも一つの未来のかたちですが、テクノロジーを用いて市民自らが生活をよくしていく。そんな人と技術の役割のあり方を示唆しています。

ちなみにバルセロナのスマートシティ政策は2000年代は、地元の住民からかなりの反発受けており、「市民の関心を無視して私利私欲のためのトップダウンなアプローチを取っている」という見方もあったほどだといいます。その失敗を糧にし、現在はビジョンのなかに市民参加を組み込んでいることから、ボトムアップでスマートシティを構築すること優先度の高さを感じます。

以下はバルセロナスマートシティプロジェクトのディレクターJosep-Ramon Ferrer’s による論文「Barcelona’s Smart City vision: an opportunity for transformation」に書かれているスマートシティ戦略のポイントです。

1. 急速に成長する都市化を前提に、21世紀の主な課題を予想しよう
2. テクノロジーをファシリテーターとしてとらえ、技術活用自体が目標ではないと考えよう
3. スマートシティは大胆な都市のイノベーション機会としてとらえよう
4. 長期的なビジョンを定義しよう
5. 地域課題を解決するへのアクションプランを定義しよう
6. 公共セクター・民間企業・住民を横断してアクションプランを定義しよう
7. 既存のフレームワークや資金調達スキームに戦略を合わせよう
8. 市民のプロセスへの参加を重視しよう
9. ステークホルダーを集め、効率的なガバナンス・モデルを実現しよう
10. イノベーションを実現するパートナーシップとエコシステムを構築しよう

今回取り上げた考え方・事例は太字のところに当たります。

おわりに

今回はスマートシティのトップダウン/ボトムアップの考え方に触れながら、よりボトムアップに近い形の2つの事例を紹介しました。

スマートシティとひとくちにいいますが、自分たちのまちがどのような未来になると望ましいか?自分のまちにとってスマートとはなにか?というビジョンが重要だと感じました。

そのビジョンをもとに、住民が自らまちを担えるという感覚を持ってもらうこと、一緒につくっていくことは結果的に信頼性にもつながり、スマートシティが目指すところの実現にもつながるのではないかと感じました。

今回の記事は以下2つの問いで終わろうかと思います。

・「スマートシティ」自分にとってどんな街でしょうか?
・Fab lab Barcelonaのように、住民が自らまちを担うことができる取り組みを行えるとしたら、どんなかたちが考えれそうでしょうか?

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Reference


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