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「蟹の蒸し焼きです。そのままでも召し上がれますし、お好みで付け合わせのお酢をお使いください」 板前は丁寧に、最後の客一組にそう促すと、次へととりかかった。落ち着いた木の色合いをした店内へと溶け込むように。一連の「お寿司」は、美しい音色を奏でながらエンディングへと差し掛かる。 「シャンパンを一つお願いします。」 座席から少し壁に頭を持たれかける女が、不自然に投げかける。しなやかに受け答えをする者が、そっとグラスを下げる。異常なまでの無関心を装って。 少しばかり頬が赤らん