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詩集『南緯三十四度二十一分』

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詩集『南緯三十四度二十一分』収録作品の一部を掲載しています(発行:2020年)
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2022年1月の記事一覧

彼

あらゆる人間や権力や団体から嫌われている一人の人間がいた。草も花も馬もコンビニの自動ドアでさえも彼のことが嫌いだった。

「あいつは最低だよ」

とみんなは口を揃えて言った。

「顔も見たくない」

ただ一人僕は彼を違う感情でとらえていた。僕は彼のことが嫌いではなかった。好きでもなかった。代わりに彼のことを理解していた。彼の話す言葉、彼の行う動作、彼の表現する感情について一切の判断をやめることにし

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