【詩】ひみこ、ひめみこ、ひなたのこ

坂をてこてこ下りて来る
山がべろんと垂れたべろ
熊と遊んで下りて来る
ころころ坂を帰り来る
手毬てまりなくして戻り来る
ひみこひめみこひなたのこ

熊を騙して下りて来る
熊をしばって逃げて来る
てんてんてまり、追いかけて
洞うろに入った。蓋された。
熊に姦やられて下りて来る
熊を悲しみ下りて来る

峪たにを鴉が騒がしい
あの白い花、摘んでみて
そうお願いの、すみれちゃん
崖に手をつき手を伸ばす
すみれちゃんから押される寸前
入れ替わる
後ろの正面だあれ。
わたしが
ひみこひめみこひなたのこ

熊を悲しみ下りて来る
脳天われたら曼殊沙華
手毬なくして下りて来る
樵きこりのおじさん黙らせた
首に斧刺し下りて来る

おばさんやって四十年
おばさんやるのも体力よ
鴉十二羽わたしのからだを
バサバサつつく
樵がすみれをむしゃむしゃ食べる
すみれが樵をむしゃむしゃ食べる
熊と三人、昼の闇鍋やっている
熱燗いっぽん追加ダヨ

おにぎり握るのとくいな手
おにぎりみたいなまあるい手
おばさん夢を見ずに寝る
わたしは
ひみこひめみこひなたのこ
もう山へとは帰らない

……………。
………………………………。
すみれちゃん、
あたしを置いて来いって言われたの？