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初めてくじけた記憶

知り合いから「初めて絵を褒められた日を憶えてる?」と質問されました。
しかし、ちゃんと答えられませんでした。
幼い頃は、自分の絵を日常的に褒めてくれる大人が周りにいたから、初めて褒められたのがいつだったか思い出せないのです。

しかし、初めて気持ちがくじけた記憶なら鮮明に残っています。
小学校4年生の図画の授業で「自分の大切なものを描きなさい」という課題が出たときです。
どんな画材を使っても、何を描いても良い、というめずらしい授業でした。
ちょっと変わった授業だなと思ったけれど、内心好きなものが描けるのがうれしかった。
自分は、散々迷って、当時大好きだったガンダムを鉛筆で描きました。
ガンダムは、教科書やノートに毎日のようにラクガキしていたし、何も見なくても描けるので楽勝だと思いました。

描き終わって、クラス全員の絵が壁に貼り出されてビックリしました。
自分以外にもガンダムを描いた奴がいたからです。
しかもその絵は、僕の描いたガンダムよりはるかにかっこよかった。
正面に向けてバズーカを構えている構図で、普通のポスターカラーを使って描かれていました。
同じガンダムでも、僕の鉛筆画とは次元が違いました。
その絵を描いたのはKくんといって、あまり仲良しではなかったけれど、
その後、速攻で友達になってもらいました。
なぜ、今までこいつの絵の才能に気づかなかったんだろう。
子供心に、友達にならないと後悔するぞ、と感じました。

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自分が最初に描いたガンダムにはハッキリとした輪郭線があって、影は描かれていません。
のっぺりして平面的な絵でした。
ところが、Kくんのガンダムには大胆に影が落ちていて、どの方向から日が射しているのかわかりました。
色の選び方が的確で、絵に空気が流れていて、空間と奥行きがありました。
日に照らされたガンダムの白いボディに地面の色が反射して、画面に温度のようなものが感じられました。
写実的な絵ではないのに、まるでガンダムがそこに実在するかのようなリアリティがありました。

自分はその日、家に帰ってからKくんと同じポスターカラーを使って、もう一度ガンダムを描いてみました。
なぜここまで結果に差が出たのか、同じモチーフと画材で分析してみようと思ったのです。
慣れないポスターカラーに苦戦したこともあって、Kくんのガンダムには遠く及ばなかったけれど、何かを掴んだ気はしました。

翌日、Kくんに直接聞いてみました。
すると、当時の自分には想像もつかない驚くべき答えがかえってきました。
Kくんは、ラフな下描きを数パターン用意して入念に構図を検討し、あらかじめ、使う絵の具を調合してから描いていました。
ポスターカラーのように乾燥後色が変化する画材は先に色を作っておくと
絵を濁らせず的確に色が置けます。
僕はこれを知りませんでした。
また、ここが一番大きな差だと思われるけど、ガンダムがどんな状況で戦っているのか、アニメのエピソードを交えて背景までしっかり調べてから取り組んでいました。
Kくんは、僕のように行き当たりばったりで描くのではなく、すべて計算して絵を演出していたのです。
「想像上のメカだからこそ、もっともらしい嘘をつかなければならない」
彼がそう口にしたわけではないけれど、彼の取り組み方からそう教えられた気がしました。
Kくんはどちらかというと、デザイナーの気質を持った人でした。

その後、Kくんとは、絵の得意な奴らを集めて一緒に漫画雑誌を作ったりしました(もちろんKくんが編集長)。
担任の先生に頼んで学級文庫に置かせてもらったりもしました。
残念ながら、その雑誌は2号で休刊になったけれど。


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