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父がYahooに飛んでる話

実家を出たのが19歳の時だから、かれこれ家族と離れて暮らして10年以上経つ。

久々に実家へと帰省した時のこと。

夕方に家に到着した僕はダイニングテーブルへと座った。

「おかえり。」と笑顔で家族が迎えてくれた。

向かいに父、キッチンに母、リビングにお婆ちゃんがいた。

息子が久々に帰ってきたということで、皆が部屋の中心へと集まってくれていて、母はコーヒーを入れてくれていた。

家族の前ではしゃぐ息子は稀だろう。

家族から質問にクールに、そして端的に答えていき、とりあえずの近況報告が終わった。

そして近況報告が終わると、なかなか話題に困る。

少し沈黙が続いたので、こっちから何か喋ろうと思った。

困った時の広島東洋カープだ。

地元は広島なので、僕の家族もしかり、カープを応援してる人は多く、老若男女の共通の話題はカープといっても過言ではない。

「今日カープは勝った?」

そう聞くと、父親が

「今日はナイターじゃろ。」

といった。

「じゃろ。」と言われても分からないが、どうやら今日はこれかららしい。

困った。これでは話が終わってしまうと思ったので、

「何時から?」

と聞いてみた。

すると父は

「何時からだったかいのー。」

と言いながらポケットに手を入れて、赤と黒のゴツゴツしたスマホを取り出した。

父は自営業で現場で作業することが多いので、機能性よりも耐久性を重視したスマホなのだろう。

そして、父はそれを画面を上向きにしたまま口元へと持っていったのだ。

そう、それは紛れもなく「音声検索」をする構えである。

僕は驚いた。

最新の電子機器に詳しい訳でもなく、最近やっとLINEを使うようなった還暦近い父が音声検索を使えることに。

恐らくこの会話の流れからいえば、「今日のカープの開始時間」とか言うのだろうか。凄い。

正直、僕ですら使ったことない。

そして、次の瞬間、その構えから父はスマホに向かって叫んだ。

「ヤフー!!!!」

Yahooに飛ぼうとしてるのだ。

僕は耳を疑った。

すると、父は咳払いを一回して、さっきより強めに言った。

「ヤフー!!!」

1度目は上手くYahooに飛べてなかったらしい。

僕は、母さんと婆ちゃんの方を見た。

しかし、何がおかしいのか分からないのだろう。

母さんは黙々と料理を続け、婆ちゃんはストレッチを始めていた。

わざわざ音声検索を使って、一旦プロバイダに飛ぶということに誰も何ら不思議と感じず、家族の中では常識としてまかり通っているのだ。

仮に、僕がここで突っ込んだとしても共感してくれる人はこの場にいない。

父はどのくらいの頻繁でヤフーに飛んでるのだろうか。

そして、2度目の「ヤフー!!」から1分後くらいだっただろう。

「18時30分からじゃ。」

と父が試合の開始時間を伝えてくれた。

僕は「おう。」とだけ言って、コーヒーを1回すすった。

END

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