【第三十六場B…モンゼン・ラミ太郎の願い】

 モンゼン・ラミ太郎は、詩人さんとキリット大統領を呼びました。
「今から最後の術を教える。よく見ておくように」
 そう言うと、ラミ太郎は足元から消えはじめました。二人は前回の分身の術でも、驚いたのですが、ラミ太郎の教える術はどれも、人間技ではありません。完全に消えてから、またラミ太郎が姿を現しました。そして、こう言いました。
「完全に心から己の我を消せ。そのためには、まだまだ修練が必要だろうが、お前たちは、あと一歩まで来ておる。そうすれば、ひとつになれる。それができたら、尻の穴に力を入れるんじゃ。そうすると、自然と背骨が下から上に動き出す。それが極まれば、頭蓋骨が動き出す。そして、ひとつになった魂が頭から飛び出していく。やがて肉体は、人間の肉眼では見えなくなる。偉大なるお方がお隠しくださるのだ。よいか、わかったな?」
 そう言い終わると、ラミ太郎は、何日間も食べるのをやめて、社に籠もりました。
 二人は、修行を終えて夜にラミ太郎の様子を伺いに行くことにしました。すると、ラミ太郎は鋭い眼光でぎろっと睨みつけて、こう言います。
「まだだ。帰れ!」
 二人は、毎日、挨拶にうかがいましたが、毎回、
「まだだ。帰れ!」
 と言われました。
 しかし、四十九日目のことです。
「よろしい、近くに寄れ」
 と言われました。ラミ太郎は何も食べていないので、声もようやく聞き取れるほどです。
「よくやった。これで、すべての術をお前たちに授けた。そこで、お前たちに頼みがある」
 ラミ太郎は、大きくため息をつくと続けました。
「ドウダ・マイタカ王に会って、諭してやってくれないか。イマワノクニは、いまやムカシワノクニになっておる。これは決してあってはならないことだ。この国の形は、世界地図を縮めたもので、この国が乱れれば、世界が乱れることになる」
 詩人さんとキリット大統領が、
「はい」
 と言って、大きくうなずくと、ラミ太郎は、
「そうか、頼んだぞ。ありがとう」
 そう言って目をつぶりました。
 五十日目の朝、二人が社にうかがうと、モンゼン・ラミ太郎は安らかな顔で亡くなっていました。


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