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【第十三場…王様対ありがとう星人】

《E氏→ありがとう星人のおじさんは、すぐに王様の力を見抜きました、とさらりと書かれても説得性はないなぁ。攻撃をしないというのは何かを示唆しているのだろうか? 星の王子様のストーリーの暗喩的な名言を想起した。でも、この王様、結局は剛腕さで治めているわけで、中央集権的独裁色が匂う。権力の分散の重要性も説いてほしいところ》


 次の日のお昼の十二時になりました。いよいよ王様対ありがとう星人のおじさんの対決です。王様は王冠とマントをつけて登場しました。あまり背が高くないので、マントをずるずるとひきずっています。試合場から観客席に手を振ると、観客席がどよめきました。なかなかの人気のようです。
 ありがとう星人のおじさんも観客席に手を振ってみましたら、同じように観客席から歓声や声援が聞こえました。おじさんのきのうの活躍が認められたのでしょう。この国の人たちは、力持ちですが、おおらかでやさしい人たちのようです。審判長が、マイクを持ちました。
「それでは、いよいよ本年度の王様が決まります。王様対ありがとう星人の試合を始めます。両者、正々堂々と闘うように。反則は即刻退場となるから気をつけて。ただし、反則は特にありませーん!」
 王様は、王冠とマントを外して手下の者に渡しました。

『カーン!』
 試合開始のゴングがなりました。王様はきのうのゴリラテリアの半分の背もありません。向かい合ってみると二人の背格好は、ほとんど変わらないのでした。王様は、よくこんな体で、毎年あの猛者たちを倒してこられたものです。小さい体ですが、力持ちなんでしょう。わたしは、どうせ、おじさんがすぐに勝つだろうと思って見ていました。じりっじりっと二人の間合いが詰まります。
 スーッと、ありがとう星人のおじさんは、むきむきマンになって、雲の上まで背を伸ばしました。観客はみんな驚いています。これでは、どんな怪力の人間でも勝てないでしょう。しかし、王様は、平気な顔で一歩も動こうとしません。
 次にありがとう星人のおじさんは、プーッとふくれました。大きくなって、空を覆い隠しています。昼だというのに、すっかり暗くなりました。しかし、王様は、やはり平気な顔で立っています。
 今度はと、ありがとう星人のおじさんは、ショションのションと小さくなりました。わたしの植木鉢と変わらない大きさです。それでも、王様は、平気な顔で見おろしているだけで、攻撃してきません。
 小さいままでは仕方ないので、ありがとう星人のおじさんは、元の大きさに戻りました。それから、指をグーンと伸ばして、王様の胸をトントンと叩いたんです。その瞬間、
『ゴロンゴロン』
 と後ろに転がってしまいました。王様が、じゃありません。ありがとう星人のおじさんが、です。
 おじさんは、起き上がって、フーっと息をつくと、じりっじりっと王様に近づいていきました。そして、1メートルほど手前でピタッと動かなくなりました。にらみ合いです。一瞬、王様はしまったという顔になりましたが、また普通の顔に戻りました。それから、二人はピクリとも動こうとしません。
「ファイト!」
 審判の声がかかります。このままにらみあってても勝負はつきません。
『あらっ? 二人ともニコニコ笑ってるわ』
 よく見てみると、にらみあってると言うよりも見つめ合ってという感じです。どういうことでしょう。二人とも微笑んでいるような顔をしています。しかし、二人とも額から、大粒の汗が流れています。どんどん時間ばかりがたっていきました。
「ファイト!」
 審判の声がいっそう大きくなりました。昨日のゴリラテリアとの試合とは、明らかに違う雰囲気です。わたしの植木鉢は、おじさんの一部だから分かるんですけど、いつもより柔らかくてフニャフニャしています。

 この王様が長いこと君臨できたのには、わけがありました。王様は相手の力を自分のものにすることができる技の達人でした。ですから、どんな攻撃を受けても、受けた力に自分の力を足してお返しするので、どんなに強い相手でも一撃で吹っ飛んでしまいます。
 二人とも笑っていますが、昨日の試合よりも緊迫しているんです。ありがとう星人のおじさんに余裕はありません。動かなくなったのではありません、動けないというわけです。転ばされた時に、ありがとう星人のおじさんは、王様の技を見抜きました。ですので、攻撃することをやめたのです。
 また王様の方も、ありがとう星人のおじさんが、転ばされた時に王様の技を吸収したことを知っていました。それで、しまったという顔になったのです。つまり、王様も動けなかったわけです。どちらか先に仕掛けた方が負けるという状況だったのです。
 とうとう日が暮れて、時間切れとなってしまいました。
「日没のため、この試合、ここまでとする! 転がしポイントで王様の優勢勝ち!」
 審判長が、大きな声で宣言しました。
「あーあ」
 観客席からため息が漏れます。しかし、お客さんたちにも二人の緊迫感は伝わっていました。実は安堵のため息だったのです。しばらくして、どこからともなく拍手が起こりました。これまで、たくさんの闘いを見てきた目の肥えたお客さんたちが、両者の健闘を讃えてくれたのです。

 ありがとう星人のおじさんは王様になることはできませんでしたが、わたしたちは王宮に呼ばれて、豪華な接待を受けました。王様とありがとう星人のおじさんは、とても気が合うようで、まるで双子の兄弟のように、おしゃべりしています。とは言え、おじさんは、
「ありがとう」
 しか言ってませんでしたが。
 マッチョロビン王国は、力のある者が一番えらいと定められているのですが、相手の力を利用するばかりでなく、相手の心もつかむ達人が王様ですので、当分この国は安泰です


【第十三場A…あとで追加   ロウソク島のヤスタボ君】


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