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たった一人の分析から始まる「顧客起点マーケティング」

こんにちは、ナカムラです。今回は「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」という書籍を紹介したいと思います。

P&Gマフィアの一人である西口一希さんの書籍で、ロート製薬「肌ラボ」やスマートニュースなどの事例を元に、「N1」という概念を広く世に知らしめた1冊です。

「実行プロセスがここまで体系化されたマーケティング本は無いのではないか?」と思うほど具体的で、実践用のExcelフォーマットまで特典で付いているので、すぐに実業務に取り込むことができます。

本noteでも、概念の紹介は簡素化させて頂き、実行プロセスに重きを置いて紹介していきたいと思います。

1)アイデアとN1分析

まず、本書の重要な概念である「アイデア」と「N1分析」について簡単に説明します。

本書では、便益と独自性を兼ね備えて初めて「アイデア」と呼びます。どちらか一方でも欠けてしまった場合、それはアイデアとしては不足しているということです。

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また、アイデアは2種類に分類されます。商品/サービスそのものに付随するアイデアをプロダクトアイデア、広告に代表される消費者とのコミュニケーションに付随するアイデアをコミュニケーションアイデアと呼びます。

・プロダクトアイデア…商品/サービスそのものに付随するアイデア
・コミュニケーションアイデア…広告に代表される消費者とのコミュニケーションに付随するアイデア

当然のことではありますが、重要度はプロダクトアイデア > コミュニケーションアイデアです。商品そのもののアイデアが脆弱では、コミュニケーションアイデアの効果は一過性に終わってしまいます。コミュニケーションアイデアで解決できる領域には限界が存在するということです。

これらのアイデアを発掘するために必要なのが「N1分析」です。ここではN1=特定の1人の顧客を指しますが、この「1人の顧客を深く知ることで強力なアイデアを発掘する」という考え方が、本書の肝になります。

「そんなに狭めたらニッチなアイデアしか出てこないのでは…?」

という懸念があると思いますが、その点は後述で解消するとして、ここでは「深く理解できうる特定の1人」と「深くは知りえない概念上の複数人」のどちらの方が”喜ばせ方を想像しやすいか”を考えると、前者の方が想像しやすいよな~くらいに捉えてもらえれば大丈夫です。

2)顧客ピラミッドと9セグマップ

続いて、戦略策定のフレームワークである顧客ピラミッドについて説明します。消費者を5つのセグメントに分類し、どこに成長のポテンシャルが存在するかを見極め、大まかな戦略の方針を建てる基盤になります。

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この顧客ピラミッドを自社・競合で同様に作成し、各セグメントのボリュームを見ていきます。すると、相対的に自社の顧客ピラミッドが把握でき、戦略方針の判断が可能になります。

<戦略方針のバリエーション例>
・未認知顧客が多い→認知を獲ってポテンシャルを拡げる
・認知・未購買顧客が多い→障壁を明らかにし歩留まり解消を図る
・離反顧客が多い→離反理由を明らかにし離反率を抑制する
・ロイヤル顧客が少ない→一般顧客を育成しロイヤル化する

このフレームワークの優れている点は、簡易的かつ安価な調査で現状把握と方針策定が可能な点にあります。下図のツリーでピラミッドの作成が可能なので、例えば1サンプル10円の調査であれば2,000サンプル聴取しても2万円で上記のような実態把握が可能になります。

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ここに、「次回も購入/使用したいか」を掛け合わせることで、さらに精度の高い9セグマップを作ることができます。ピラミッドを右に倒し、未認知顧客以外を、積極/消極で二分割するイメージです。

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この積極/消極が見えていると、ロイヤル顧客(本書の定義では高頻度ユーザー)の中にも、ブランドから離れつつある層がどれくらい存在するのかが分かったりします。そういう意味で精度が高くなるわけです。

但し、これだけ細かくセグメントを切ると調査のサンプル数もより多く必要になるので、コストを抑えて大枠を掴むことを優先したり、ブランドがまだ小規模な場合には5セグマップで十分だと思われます。

先ほど、

この顧客ピラミッドを自社・競合で同様に作成し、各セグメントのボリュームを見ていきます。

と書きましたが、ピラミッドを自社・競合で重ねて観察することで、現時点での併用状況や認知度のギャップは勿論、時系列で追っていくことで競合によって侵食されていないかや、逆にチャンスがどこにあるかなどの示唆が得られます。これをオーバーラップ分析と呼びます。

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3)顧客起点マーケティングの実行プロセス

ここまで紹介した方法論を用いて、具体的にどのようなプロセスでアイデアを導くのかを見ていきます。まず、実行プロセスを大きく4段階に分けてみましょう。

①戦略方針策定…顧客ピラミッドを作成し大まかな戦略の方針を策定
②アイデアの種探し…カテゴリ及びブランドの便益やイメージを分析
③アイデア発掘…N1分析でアイデアの種を真のアイデアに磨く
④コンセプトテスト…コンセプト化した複数のアイデアをテスト

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一つ一つ、順番に説明していきます。

①戦略方針策定
ここは2章で説明した顧客ピラミッドを活用するステップです。例えば、自社ブランドと競合ブランドAの両方について量的調査を行ない、5セグマップ(顧客ピラミッド)を作成するとします(下図)。

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このような実態だった場合、競合対比で認知のポテンシャルが大きく、かつ認知→使用の転換率は競合と同等水準であることから「認知を拡大する」ことが戦略のオプションとして最も妥当であることが分かります。

このようにして①で戦略方針を定め、次のステップでは「どのような認知を獲るべきなのか?」を探っていきます。

②アイデアの種探し
このステップでは、①で聴取した調査結果を活用しますが、見るべきデータが異なります。ここでは、カテゴリ/ブランドに対するイメージや便益に関するデータを使って、アイデアの種を探します。

データの見方は様々ありますが、ここでは1つの例を紹介します。カテゴリそのものに対するイメージを、3パターンで比較することでアイデアの種にたどり着く方法です。

1. ロイヤル(自社) vs 認知・未使用(自社)の比較
2. ロイヤル(自社) vs ロイヤル(他社)の比較
3. 認知・未使用(自社) vs 認知・未使用(他社)の比較

1. まず、ロイヤルが高く評価しているが、認知・未使用があまり知覚していないイメージに目星を付けます。それらのイメージは、認知・未使用に伝えることで顧客化/ロイヤル化のキッカケになる可能性を秘めています。

2. 次に、ロイヤル(自社)の方がロイヤル(他社)よりも高く評価しているイメージを抽出します。これによって競合に対して優位性となりうるイメージがあぶり出せます。

3. 最後に、1かつ2のイメージの中で、認知・未使用(自社/他社)共にあまり評価していないイメージに注目します。そのイメージは、

・顧客化/ロイヤル化のキッカケになる可能性
・競合に対して優位性となる可能性
・未使用層が競合にも抱いていない独自要素となる可能性

の3つを満たすので、アイデアの種として非常に有望です。

③アイデア発掘
アイデアの種をいくつか発見した後、いよいよN1分析を行ないます。N1分析の目的は「②で発見した種を軸としたアイデアを創出すること」です。

N1分析は量的調査とは異なり、分析したいセグメントに該当する方に1on1でインタビューする形になります。SprintのようなWebインタビューツールなども活用できますね。

インタビューによってカスタマージャーニーを明らかにしていき、生の情報を手に入れます。(ブランドをどのように知ったか、感じたか、評価したか、など)ここで、②で見つけたイメージは購入のキッカケになるのか?ロイヤル化のキッカケになるのか?を見定めるのも大切です。

ただ、カスタマージャーニーを聞くだけでアイデアにたどり着けるほど甘くはないので、どんなインサイトを得られるかが大きな分かれ道になると思います。下記のnoteで紹介した分析方法が役に立つと思うので、是非目を通してみて下さい。

④コンセプトテスト
いよいよ最後のステップです。N1分析の説明の際に取り上げた、

「そんなに狭めたらニッチなアイデアしか出てこないのでは…?」

という懸念は、この④で行なうコンセプトテストによって解消されます。

コンセプトテストとは、③で編み出した複数のアイデアを事前に調査にかけ、N1以外の多くのターゲットに対する有効性を判断するものです。

アイデアを評価する軸は、「独自性」と「利用意向」の2軸です。多くの人達がそのアイデアに独自性を感じ、かつ「使いたい」と思うかどうかを見るわけです。

※この時、単純に利用意向を聞くと「まぁ良さそうだし使いたいかな」くらいのノリで評価されて、実際は全く使われない/買われないという悲劇が起きてしまうので、商品/サービスの価格を提示し、「その金額とのトレードオフに足るか」をジャッジしてもらうべきだと思います。

このテストの結果、見事「独自性」と「利用意向」ともに優れたアイデアが施策実行のフェーズへと進んでいくのです。

4)最後に

顧客ピラミッド/9セグマップはとても優れたフレームワークだと思います。(※ちなみに9セグマップはStrategy Partners社が商標を保有しているのでご注意下さい)

アイデアの種までは、恐らく誰が実行するかに関わらず一定の示唆が得られるほど体系化されています。

なので、やはりN1分析でいかにインサイトを得ることができるか。ここに岐路があり、直感⇔論理の往復が鍵になってくるのだと思います。だからこそ、N1分析はその場の分析力だけが物を言うのではなく、日常的に多方面から蓄積したインプットがスパークする瞬間でもあるのかな、と思います。

以上、たった一人の分析から始まる「顧客起点マーケティング」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

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