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【書評】楽天IR戦記「株を買ってもらえる会社」のつくり方

2005年から楽天初のIR専任者として活躍された市川祐子氏の「楽天IR戦記」。同社のIRをゼロから立ち上げた著者の経験が詰まっていて、非常に面白い内容でした。今回は本書を3つのポイントでまとめます。

1.「それがどう価値に結び付くんですか?」

このセリフは、著者がNECに勤めていた際に、投資家から投げかけられたセリフです。ロードショーの際に投資家から競争力の源泉を聞かれ、同社の社長は「社員2万4,000人中、エンジニアが4,500人います」と答えたところ「それがどう価値に結び付くんですか?」と聞かれたです。

エンジニアがたくさんいます、と伝えたところで、それがどのように企業価値向上に繋がるのかを説明できなければ意味がないわけです。どのような企業価値向上ストーリーを作れるかが、IR担当の腕の見せ所というわけです。

こうした企業と投資家の攻防を、著者は「知的バトル」と表現します。

この真剣勝負は一種の知的バトルであり、投資家の頭の中にある企業価値計算のスプレッドシートをどう変化させ、価値を高め、購入の意思決定をしてもらえるか、これにワクワクするような面白さを感じました。

2.妄想を語り、信じてもらう

市川氏が楽天に入社した直後、同社は、TBSとの統合を念頭に「放送とインターネットの融合」というビジョンを掲げます。著者はこれを新しい社会への妄想と表現します。

それはもはや、市場創造への期待というより、社会変革の妄想といってよいかもしれません。妄想というとネガティブにも聞こえますが、妄想と嘘は違います。他人が思ってもいない新たな市場創造や変革が起こるイマジネーションが妄想です。

「放送とインターネットの融合」にしても「楽天経済圏」というコンセプトにしても、同社が掲げる革新的なビジョンはそれまでになかったものでした。そうした妄想を、いかにして資本市場に信じてもらうかに、IRの醍醐味があります。

3.IRの目的は株を買ってもらうこと

本書には「株を買ってもらえる会社の作り方」というサブタイトルが付いています。市川氏は株を買ってもらうことこそがIRの目的であると説きます。

IRの目的は「投資家と良好な関係を築くこと」ではなく、「株を買ってもらうこと」こそが目的であり、投資家との信頼関係構築はその前提条件である。

この目的を達成するためには、投資家の目線を持つことが必要でした。ですから、楽天では自社の企業価値がどの程度あるのかを、社内で算出していたそうです。それが投資家の信頼獲得につながるケースもあったことを明かしています。

海外投資家からも質問があり、会社の株価水準を即答すると、「自社の企業価値を議論できる日本の会社は少ない」と感心され、次の役員ミーティングを経て買いにつながりました。

まとめ

本書には、楽天のIRを12年間にわたってゼロから作り上げた市川祐子氏の経験が詰まっています。IR担当者はもちろんのこと、多くのビジネスパーソンにお勧めの一冊です。

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