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ITAKOTO について

 2020年8月3日、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが、遺言動画サービス『ITAKOTO』をローンチした。ざっくり言えば、自分で撮影した”遺言”動画をインターネット経由で親しい人に届ける…というサービスだ。

 料金プランは、無料から月額480円のプレミアムプランまで4段階に別れている。

「この世から、心残りをなくしたい。」

 というコンセプトで【遺言】を身近にする意味ではいいサービスだと思う。ただ【遺言】というのは死んでから効力を発揮するイメージがあるので「生前に届いてしまうのはどうなんだろう?」っていう印象がある。自分が死んでから「実はこんな動画を残していまして…」という【遺言】動画が残っていたら子孫に生前の思いが伝わる気がするが、生前にその動画が送られてしまったら「次に会った時」に恥ずかしくなりはしないだろうか?

 月額制ということなので何度も撮り直し出来るのだろうけど、お金をかけて動画保存・更新しまくるんだったら「生前に伝えたい想いは直接伝えきれよ!」って感じがするのだが…。【遺言】はあくまで突然に死んでしまった人の思いを後世に伝えるのが目的で、財産分与などの相続でモメないための”手段”という意味合いが強いと思う。それが突然感動ポルノの道具として扱われるのはどうかなぁ…と。

 【遺言】という意味では、自分も考えているビジネスプランがあった。それは

葬式で流す生前の経歴VTR作成ビジネス

 だ。「結婚式で生い立ちVTRがあるんだから、葬式で故人の人生まとめVTRがあってもおかしくないだろう!」と思っている。自分が葬式に行ったとして、そういうVTRが流れたら「へぇ…@@さん、そんな人生を歩んでいたんだ」との発見もあることだろう。

 ただ、このビジネスにはいくつかの問題がある。その1つは「自分がいつ死ぬか分からない」こと。余命宣告された人なら『死ぬまでにしたい10のこと』のように、限られた時間の中でいかに目的を達成し伝えきるかが予想できるが、すこぶる健康な時に「葬式の時にこういう風にしたい」とは想像し難い。

 また、映像を作成してくれる業者に写真や動画を預けて「私が死んだらこういう動画を作って葬式で流して下さい!」と思っていても、下手すれば業者の人が先に死んでしまったり、会社が先に倒産してしまうことだってある。いつ死ぬか分からない自分のために月額の維持費を払い続ける「リターンの無い生命保険」に似た性質を持つサービスということだ。

 もう1つは「亡くなってから葬式までの時間勝負」かと。仮にそういうサービスがあって登録していました…その人が亡くなりました…葬式は2日後です、となった時に。死亡確認からお通夜&出棺までの間に故人の動画を完成させるスキルを持った人材がどれだけ集められるかっていうこと。最近はYouTuberが増えている影響もあり動画作成のスキルを持った人がすごく増えているが「故人の人生を感動的に描ける」スキルを持った人は少ないと思う。いかにそういう人材の確保が出来るか…が勝負なんだろうなと。

 今後、人口が減っていくと言われている日本。結婚ビジネスより葬式ビジネスが確実に生き残るチャンスがある。なので、【遺言】をビジネスにするなら、葬式で「(生前の)映像を流すことは不謹慎」といった空気(伝統)を払拭することが先決なのかなと思う。

 オフラインVTRチェックで演出に怒られた若手ディレクターに「大丈夫! 最悪、テレビの仕事が出来なくても結婚式の参加者テロップを打つ仕事は出来るって!」って声をかけることがあるが…半分は冗談ながら半分はマジ。日々、”発生”の事件に追われるテレビディレクターは瞬発力が強い。ある有名芸能人が亡くなりました…となったら、数時間後にはその故人の生い立ちVTRを作らなければいけないのは日常茶飯事。そういうことに慣れているディレクターなら、5〜10分程度のお葬式で流せる故人の生い立ちVTRを1日で作り上げることは十分可能なのだ。

 霜降り明星・ミキ・EXITが出る「最先端のお笑い」を繋ぐのは厳しい昭和生まれのディレクターでも、普遍的な人生ドキュメンタリーを繋ぐことは出来るディレクターはたくさんいると思う。

 「食うための手段はありまっせ」

 要はプライドの問題。テレビで流れないVTRを作ることに関しての”都落ち”感を拭えるかどうかなのかな。

 とりあえず、ビジネスとして成立するかどうかは別として、様々な形で後世に残せるようなシステム作りに日々励んでいる。

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