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お互い無いものねだり

 2020年10月より、YouTuberの”水溜りボンド”がローカル局ながら地上波で冠番組を始めることがニュースになっていた。

 近年、”HIKAKIN”や”はじめしゃちょー”、"フィッシャーズ"をはじめとした超人気YouTuberたちが地上波に登場することも珍しくなくなっているが、あくまでゲスト扱いがほとんど。冠番組まで持ったのは彼らが初めてではなかろうか?

 ぶっちゃけ、ローカル局だから視聴率は関係無いはずで…。企画を採用した側としては話題になるか『水曜どうでしょう』のようにDVD(パッケージ)がバカ売れしてくれればそれでいいんだろう。テレビ神奈川と言えばかつて木村カエラさんが『saku saku』に出演し人気を博した前例もあるし。

 ただ…個人的には「それでいいの?」「そういう時代なのか?」という2つの思いが去来する。

 「それでいいの?」というのは水溜りボンドに対して。口が悪い言い方をすると

普通の芸の道を歩いてたらお笑い芸人としての成功が厳しかったであろう2人がYouTubeという活躍の場を見つけて輝き出したのに、なぜ従来のテレビという「古典文法の世界」へ逆戻りしたの?

 という思い。YouTuberとして数百万人の登録者(ファン)を集めるほど絶大な人気を誇っているのに、ビジネス系YouTuberがこぞって「オワコン」と酷評するテレビへ…しかもローカル局で始めようと思い立ったのだろう?

 もちろん、プロのカメラマンやディレクター、放送作家がいるから企画や編集の手間はかからないので自分たちで1から10やるより圧倒的にはできる。でも実入りは…拘束時間の割には低いと思うんだけどなぁ。絶対自分たちでやった方が儲かるはずなのに、何であえて時代に逆行するような行為をしているんだろうか?

 そしてもう1つの「そういう時代なのか?」というのは、世間や(迎え入れた)業界の空気に対して。この数ヶ月で社会のあり方が大きく変わった日本…。コロナ禍の中で多くの一流芸能人がYouTubeに参戦し始めたが、そもそもテレビマンたちは

所詮はインターネットの世界だけでの人気だろ? 視聴率1%=100万人を相手にしている地上波からすればたかが100万回再生なんて大した数字じゃないよ!

と動画配信を下に見ていたはず。それが今や「祝!水溜りボンド様様の冠番組!!」なんだもん…。これはほんとに【時代】としか言いようがないんだろうね。まぁ、この番組が誕生したのは「両者の思惑」がガッチリ絡み合ったからだろう。

 水溜りボンド側としては「広告塔として電波メディアを利用したい!」という思い。レッドオーシャンの中で他のエンタメ系YouTuberと差別化を図るのには、若者だけではなく幅広い世代に知ってもらう必要がある。そのために高齢者が多く見るテレビで知名度を上げようと思ってもおかしくない。営業の帝王"テツandトモ"さんはどんなに忙しくてもNHKのオファーは断らない…と聞いたことがある。老若男女、全国で見られるNHK。そこに出演することで【知名度】を上げて、さらなる営業を獲得しようという戦略らしい。

 一方! Fコアと呼ばれる購買意欲のある若い世代を取り込みたいテレビ側は「動画配信で若者に人気のある人達を囲い込んで1層やTにテレビを見させる呼び水にしたい」という思いがある。だから各番組、積極的にYouTuberをゲストとして招くようになっている。

 お互いが自分たちに足りないものを求めて生まれた今回の冠番組。ただ!! あくまで海水魚は海水で生き、淡水魚は淡水のある場で生きるもの。今回、水溜りボンドがこの汽水域でどのように活躍するのか…他のYouTuberたち含め、固唾を呑んで見守っているに違いない。

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