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長い夜を歩くということ 68

 彼は情など関係なく前会社を加える価値は大いにあると考えていた。

彼にとっては騙されて身ぐるみを剥がされた勝利の女神に手を差し伸べる程度のことで、今の資金力と人材がいれば前会社の問題などすぐに鎮火させて順応させることができると考えていた。

前会社の奥深くに根付いている結果を出すために全力で向き合う覚悟。自社で培ってきた人を理解し合おうとする精神。

これは大きな化学反応を起こすと確信していた。

そして、彼の勝算は見事にハマった。

周囲の人々は全ての出来事をことごとく当てていく超能力者のように彼の姿を見えていただろう。

しかし、彼にとってはドミノ倒しと同じで、当たり前のことが当たり前に過ぎていくだけであった。

とうとう彼のする仕事は無くなった。

一国一城の主が現場に出続けることが組織としての危うさに直結することは、日本の歴史も欧米の帝国の歴史も物語っていて、彼の脳裏に焼きついた親の姿が決定的に確信させていた。

彼の時間は増えていったが、それは次の高みを目指す時に喜べるものであり、登りきった先でも時間は進み、また自らの歩みを止めてはいられないことを知るのは、それから少しばかり時間が経ってからのことだった。

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