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J3 第25節 レビュー【鹿児島ユナイテッドFC vs ロアッソ熊本】対策とデュエルの着地点

2021.10.31 J3 第25節
鹿児島ユナイテッドFC vs ロアッソ熊本

こんにちは。
今回もご覧いただき、ありがとうございます。

今回のお相手は、熊本。
数節前から対戦相手をイメージした(手抜き)ヘッダー写真にしてきましたが、今節はなかなか良い写真が見つからず、とりあえず馬だけ貼ってみました。適当の極み。

対戦前の熊本さんはというと、実に12戦無敗中の首位。
コレクティブさで言うと、宮崎の方が上だと思うのですが、それ以上の強度を持ったチームでした。

早速振り返っていきます。
よろしくお願いします。

スターティングメンバー

TACTICALista_2021H熊本戦スタメン

スタメンは両チームとも変更はありませんでした。

が、鹿児島は出場停止明けの米澤を先発には持ってくることは無く、島津で継続という判断でもあります。正直意外でした。でもやっぱり米澤が出てくると、攻守において一つ強度が上がるなあという感覚はあります。

対する熊本も、メンバー変更こそありませんでしたが、戦術的には変更を敷いてきていました。

前半

熊本:前後入れ替わるFW・IH

熊本の9番高橋のコメントにもありましたが、熊本は「変則的な守備」を敷いてきており、入念な鹿児島対策・自らの弱点をカバーしようとする狙いが見えました。

(9番高橋利樹 コメント)
いつもと違う変則的な守備だったが、うまくハマってくれて、前半のチャンスは少なかったが流れは悪くなかった。

(14番竹本雄飛 コメント)
前半、得点は挙げられなかったが、やりたい守備はハードにしっかりできていて、無失点で抑えられたのは良かった。

ざっくり言うと、「入れ替わるFW・IH」になります。

TACTICALista_2021H熊本戦守備FWIH

まず、最前線でのCBへのプレスはIHの18番杉山・21番ターレスが担当。後述もしますが、熊本のボール保持ではこの2人が大外に開いて脅威になるので、トランジションから攻勢に転じる際にスムーズな移行が出来るよう、この役目なのかなと思います。

一方、入れ替わって後方に立ったFW。
まず、10番伊東は田辺の監視がメイン業務でした。前節もビルドアップにおいて田辺の貢献が大きかったので、ここは潰したかったのでしょう。

そして、もう一人の9番高橋はさらに下がって、6番河原と2人でDHのような役割を担っていました。ここは、田辺のアンカーロールに伴って逆三角形になる鹿児島の中盤に対し、泣き所となる「河原脇」を埋める対策でした。

この守備を見ただけでも、前節上手く行った鹿児島の長所を消すため、入念な対策を講じてきたことが分かります。実際、特に第1Qはこの守備がハマり、多くのピンチを作られた時間帯となりましたね。

熊本:絞るWB

熊本のボール保持に話を移しましょう。
ボール保持については、割といつも通りの熊本だったと思います。

TACTICALista_2021H熊本戦絞るIH

熊本は、大外に張るIHの2人に2トップを加えた計4人が最前線に立ちます。前述のように、攻撃の要所はIHの2人。ここの個の質は脅威で、9番高橋のコメントからもIHのクロスから高橋へ、というパターンを狙っていたことが分かりました。

ーー攻撃の形としては悪くなかった?
試合前からナオ(杉山 直宏)とターレスにクロスを多く上げてほしいと話していた。良いボールも上がっていただけに、決めきれなかった自分の反省点が多い。

その2人にボールを送るための設計も出来ています。WBのDH化です。

基本的に両方、特にボールサイドのWBは河原脇に位置し、ビルドアップに絡みます。これにより、鹿児島SHは中央に引き付けられ、熊本HV→大外に張ったIHへのパスコースが開通することになります。

ボール保持での利点に加え、河原脇を埋められる・鹿児島SBはIH対応でピン留めされている+鹿児島SHは中央に引き付けられている状況を生み出すことで、ネガトラ準備の点でもメリットを享受出来ることになります。

首位を突っ走る熊本らしい、各選手の長所を活かせる、ゴールまでの道筋が逆算された戦術オーガナイズでした。

誰がするかじゃなく、何をするか

加えて、熊本はこのような形だけではなく、選手が入れ替わり立ち代わりしながら攻めてきていたと思います。

選手の質の面から「出来てしまう」というのもありますが、立ち位置(ポジション)がここなら、何をするべきか、という約束事が浸透しているからこそ出来ていたことだと感じます。

「誰がするか」ではなく、「何をするか」ですね。
そのため、上記の大筋の流れだけでない、多様なパターンを持っていたので、鹿児島の守備としては難しかったと思います。

デュエルの勝利が必要

熊本の良い面にずっと触れてきましたが、トランジションの局面では無理が生じています。特に今節は、9番高橋や10番伊東に特殊な変形を要求していたので、気合と強度が必要になっていました。

特にボール保持では最前線まで出ていき、非保持では河原脇まで降りる9番高橋は物理的に厳しかったと思います。

そのため、上記で説明したような安定したセットオフェンス/ディフェンスに持ち込むには、「ここは俺がデュエルに勝ってなんとかする!今のうちにお前はポジションまで戻れ!」でトランジションを乗り切ることになります。

特に鹿児島としては、ポジトラ時にそのデュエルに勝ってディフェンスがセットしきれていない内に攻め切ることが熊本攻略のカギですし、そのトランジションの不安定さを突き切るチームがその内出てくると思っていたのですが、突っ走っちゃいましたね。まあそれも、今節ウチが止めたんですけどね。うふふ。

何はともあれ、中盤やサイドで多発するであろうデュエルに勝つことが特に重要な試合だったと思います。

自由になれたSB

9番高橋のトランジションでの無理タスクが彼の判断を迷わせたこともあり、鹿児島としても上手く前進出来ることに繋がりました。23:50頃~です。

TACTICALista_2021H熊本戦打開策1

この場面では、IHや10番伊東にプレッシングを上手く掛けられていました。それに準じて、9番高橋も最前線に出て崩しに参加すべく、「河原脇」から離れ、前方に移動し始めていたくらいのタイミングです。

「前後入れ替わるIH・FW」の図を見ていただくと、今節の熊本の守備で手が届きにくいのが鹿児島SBであるのが分かると思います。ただ、守備をセットされると、相手は5バックに中盤は数的同数で前進しがたいという難点もありました。

ただ今回はトランジションの入り口に入ったと取れる場面。
前述した、9番高橋の「河原脇」埋めも為されていません。このことで、三宅・中原vs6番河原の2対1生まれています。

ここで最初は左に回そうとしましたが、9番高橋は砂森を気にしていたため、迂回して右サイドのフォゲッチへ。SBにはWBが対応してきましたが、5バックを形成していた位置からは遠く、WBの14番竹本は判断に迷い、追い付きません。

そこである程度余裕のあるフォゲッチは数的優位を作れている中原にパス。中原は6番河原が寄ってくると、三宅にパス。中央にて三宅がフリーでシュートを打てる場面になりました。

チームとして設計されていたかは分かりませんが、少なくとも中原は自身と三宅による数的優位を認知していたために、クリーンな前進が出来ています。

さらに、9番高橋誘導についてもう1点。
衛藤の負傷交代により投入された砂森が、積極的に田辺脇を取り始めます。

TACTICALista_2021H熊本戦打開策2

これにより、ビルドアップ隊が一人増えますが、これを嵌め込みたい9番高橋は前進して砂森に付きます。そして、再び中原・三宅vs河原の構図が生まれました。

挙動の変化が明確にあったので、砂森は意図的にこの立ち位置を取ったと思います。オーバーヘッドが注目された彼でしたが、このようなジーニアスっぷりも光った試合になっていたと思います。

後半

張りはじめるWB

前半を0-0で終えた両チーム。
スタイル的に早めの先制点が欲しいであろう熊本は、修正を掛けます。

TACTICALista_2021H熊本戦幅取りWB

WBがシンプルに大外を取り、鹿児島SHを大外にピン留めするタスクを背負いました。

これにより、熊本3バックに対して人数を合わせたプレッシングが出来なくなると同時に、引き続き18番杉山と21番ターレスが大外に位置して鹿児島ブロックを広げることで、10番伊東や9番高橋が1ライン落ちて組み立て参加しやすくなりました。

51分の被決定機はその代表例ですね。

深さを取り続ける

さらには、鹿児島も普段より低い位置からビルドアップをスタートし、深さを取って組み立てようとしていたと思います。ゴールキックからの再開なんか、CBはゴールエリア角から始めてましたね。

その結果、熊本のプレスとの距離が空き、中盤を介した前進もスムーズに出来るようになっていました。こうしてプレーエリアに余裕が出てくると、鹿児島の選手も生き生きと技術を活かせていたように思います。

ただそれは保持/非保持に関わらずで、オープンな状態になった結果、両軍ともガチ抗争デュエルがかなり多く発生していた時間帯でもありました。その中で、多くの熊本の選手たちがサイドに寄ったところを裏返して、米澤まで渡せたところで得点も奪えました。

勝つべき要所で勝つ

そして、試合終盤にかけては、そのガチ抗争デュエルの戦績も悪くなったと思います。

中盤・最終ラインもそうですし、守備面ではフォゲッチの貢献が目立っていたのではないでしょうか。対ターレスでは何度も止めていました。

尤も、この勝負で簡単に熊本の上を取れるわけでは無いので、ピンチを迎えることもありましたが、なんとか零封。勝利を挙げることが出来ました。

あとがき

熊本へ久しぶりに泥を付けた試合。
これまでに述べたように、各地でのデュエルを制することが重要だったので、上野監督がかねてより選手に求めていた「粘り強く」や「身体を張って」みたいなアプローチが奏功する相手だったとも思います。

実際にはスタイルを貫く熊本相手に簡単に先手を取れるわけではありませんでしたが、なんとか勝ちをもぎ取ることが出来ました。

また、ピッチ内で優位が取れる立ち位置を認知出来たのは、選手の発想なのか指示があったのかは分かりませんでした。もう少し様子を見て、続けられれば信用できるかなと思います。

次の八戸もロジカルに戦術を取るチームですので、八戸相手にスカウティングの跡が見られれば、いよいよ上野体制も軌道になったと言っても良いかもしれません。

期待して見てみましょう。
それでは、次戦もよろしくお願いします。

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