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FIFA World Cup QATAR 2022 グループC 第3節 レビュー【サウジアラビア vs メキシコ】

2022.11.30 FIFA World Cup QATAR 2022
グループC 第3節
サウジアラビア vs メキシコ

スターティングメンバー

雑感

満身創痍のサウジ

第1節でアルゼンチンに劇的な勝利を収めたサウジだったが、同時に怪我人も多発した。チームの核であったMFアルファラジュやDFアルシャハラニ、アルブレイクが離脱を余儀なくされたに加え、今節はMFアルマルキが出場停止。厳しい台所事情がスタメンにも表れている。

特に離脱が多発したSB、中盤をどう賄うかが問題になっただろうが、今節はDHに15番アルハッサン・SBが本職の12番アブドゥルハミドが名を連ねた。

アブドゥルハミドのDH起用は、メキシコIHを捕まえる強度確保や、特徴の推進力を活かしてアンカー脇を突く狙いもあったかもしれない。実際に11分にサウジがFKを獲得した場面では彼の推進力によるものだった。

また、DFラインは左CBに17番タンバクティ、左SBの位置に5番アルブライヒが入る形になった。アルブライヒは本職がCBの選手であり、離脱したアルシャハラニのようなサイドを駆け上がる挙動は見せず、低い位置でポジショニングする機会が多くなる。その結果、普段のような10番サレムアルドーサリや中盤を含めたユニットからの打開が見られなかった。

それでも23番カンノが難しいボールを収めたり個人技で打開したが、即興色が強く、いずれも単発で終わる印象だった。

反対にメキシコ。
MFグアルダードに前節アクシデントがあったものの完全な離脱者はおらず、得点が必要な今節は優勢だった。

そのような背景もあり、メキシコがボール保持する時間が長くなる。

メキシコ保持時は、基本的に4番アルバレスがアンカー役となりCB間に落ち、IHがリンクしながら両SBと3トップで埋める5レーンでフィニッシュまで持ち込む形。今節SBがサウジSHの押し込みに成功したので、幅を取ったCBが自由に運べるシーンも多くなった。

特に15番モレノが運ぶシーンが映像で頻繁に抜かれていたが、これにはサウジの思惑もあった。つまり、1人で打開できる22番ロサノがいて、DF時に2度追いしない場面が散見される10番サレムアレドーサリがいるサウジ左サイドを攻められたくないため、モレノのサイドに誘導したと考えられる。

具体的には下図のように23番カンノはモレノまで追わず、自由に運ばせていた。

自チームのウィークかつメキシコのストロングであるサイドを避けたは良いものの、追い込んだサイドでも問題は起きた。

SHが空けたスペースにメキシコWGやCFが落ちてサウジDFラインを引き出し、その裏のスペースを使う形でゴール前まで迫るシーンが多発した。

メキシコの得点は時間の問題のようにも思われたが前半を無失点で終えられたのは、GKアルオワイスの献身や、DFの人数自体は足りているので印象より決定機が少なかったのが原因であった。

攻めあぐねるメキシコ

なんとか守れているのは良いものの、崩しの核である両SHを押し下げられ、防戦一方のサウジ。守備のやり方を変えたのは18分だった。9番アルブライカンの挙動である。

アルブライカンは23番SBガジャルドを背中で消しながら、15番モレノまでプレス。SBにボールが渡るリスクを負う。続く21分にはサレムアルドーサリも同じように振る舞ったので、この辺りで指示が入ったと思われる。

この盤面では黄色丸で示したスペースを使われてしまうわけだが、ここからSBにボールが渡るリスクという観点で見ると、①クロスを受けても中央で跳ね返す算段が立つ、②メキシコCBからサイドチェンジされてもスピードにやや難あり、スライドが間に合うという点から、SHの位置を高くするメリットを享受する方が収支が合う。

だが、守備変更がハマったとは言えず、メキシコの保持は続く。先程の黄色丸のようなギャップを有効に使える他、個人技術・戦術から前進していた。サウジとしては押し込まれ、サレムが5バックに吸収・カンノを2列目に据えた5-4-1で堅く守る挙動ともなる。

結果、攻めあぐねるメキシコ・守るサウジという構造に変化は無かった。
そこでメキシコが立ち位置を変える。ここでも10番サレムアルドーサリがターゲットとなった。

メキシコは19番SBサンチェスのビルドアップ位置を下げた。これにより、10番サレムアルドーサリを引き出すことに成功。サンチェスが最前線で確保していた幅は、22番ロサノやIHが取ることとなった。前述のようにサウジは自陣左サイドから攻められるのを嫌うので、ブロックは左偏重となる。

それでもロサノが突破出来る可能性はあるが、24番チャベスや17番ピネダが受けてスルーパス・サイドチェンジが多くなった。IHのキックはスピード・精度ともに質が高く、23番ガジャルドへクリーンに届けられるためガジャルドからのクロスも多発したが、サウジは許容している。リスク対効果の意味でここに落ち着いたのだろう。

このような脈略の中、前半は0-0で終えた。

王様をどう扱う?

両チーム、HTに交代カードを切る。

メキシコは10番ベガ→21番アントゥナ。右WG本職を投入し、右で封殺された22番ロサノを左に移す狙いかと思われる。

サウジは前半に5番アルブライヒが負傷交代。替わってDHの26番シャラヒリを投入、12番アブドゥルハミドを左SBに戻すことで処置していた。

HTには15番アルハッサンに替えて3番CBマドゥを投入。23番カンノをDHに落とすことで3-4-2-1へシステム変更することとなる。この変更は、いよいよ供給が尽きたDF陣の中で、WBを配置することでメキシコSBを押し込み返し、さらに1トップ2シャドーのユニット優位性を活かしたかったものと考えられる。

しかし、サウジとしてはこれも空転することとなった。WBで押し込みたいサウジと、そのWB裏でWGを使いたいメキシコ思惑が一致し、ロングボールが多用されオープン化。その流れで得たセットプレーで、47分・52分とメキシコが立て続けに2得点する。

ここでサウジが先手を取れなかったのは1トップ2シャドーとそれ以外の「5-2」が攻守に分断していたのが主因だ。

守備面では、メキシコのビルドアップに対して逆三角形の形で2CB+アンカーを嵌め込もうとするが、守備強度は緩く、またメキシコGKとIHの一角がサポートし無効化。DHやWBは間延びしたスペースを管理しきれないので、メキシコは前進が容易かつスルーパスも通しやすい状況である。ロングボールと丁寧なビルドアップの併用で、メキシコは2つのゴール未遂含め多くのチャンスを作れた。

ボール保持時も同じ傾向であった。
前3枚が最前線で待つものの、5-2からの前線とのリンク、陣地回復が難しい。

そんな中でも、最後の最後にはオープンな流れで3枚のユニットからサレムが意地の1点を返した。全体の収支で見るとマイナスな気もするし、離脱が無く普段のアルヒラルユニットを炸裂出来ていたら…という見方は出来るが、メンバー全体の層の厚さ・構成と、不足の事態に守備強度と連続性の足りない「王様」をどう調理するかが課題となった。

試合はそのまま1-2でメキシコの勝利。

メキシコは突破までもう一点というところだったが、最後は失点で夢を絶たれ、44年振りのグループステージ敗退。

また、サウジもアルゼンチン戦以降勝ち点の積み上げは出来ず、アメリカ大会以来のグループステージ突破とはならなかった。

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【試合結果】
サウジアラビア 1-2 メキシコ

【得点】
47’      H.マルティン(MEX)
52’      L.チャベス(MEX)
90+5’  S.アルドーサリ(KSA)

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