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『買い手の立場の方が上!』という素晴らしき勘違いによる弊害について

読者の皆さんは、売り手ですか?買い手ですか?両方ですか?いわゆるB2Bのビジネスをしているセールス職の人は売り手でしょうし、マーケティング担当は買い手であることが多いでしょう。セールスの責任者となると基本は売り手でしょうし、時には買い手になることもあると思います。

僕は2019年の1月から今のポジション(App Annieという外資企業の日本法人代表、カンマネっていう立場)になるまで、セールスマネージャーの期間も含めると約17年、ずーっと売り手でした。2019年以降は突如マーケティングも見ることになり、買い手になることが何度かありました。

その時の事を書いたブログはこちら。4部作なので、全部読まなくても良いです笑

ずっと売り手の立場で仕事をしつつ、最近買い手に回ることが増えてきており、この『売り手と買い手の立場』について、まだまだ世の中に多いであろう素敵な勘違いがもたらす弊害について、非常に個人的な視点で書いていきたいと思います。

1. 売り手から見た買い手
2. 買い手から見た売り手

1. 売り手から見た買い手

長いこと、広義でいうIT業界でB2Bセールス、つまり売り手をやっていると、本当に様々な買い手がいます。明らかに売り手を見下す人、パートナーとして対等に接する人、敬意を払って接する人、特に何も示さず淡々と接する人。

僕は、買い手の振る舞いや態度等で、売り手として対応に差を付けていたりします。そりゃそうですよね。こっちも人間ですし。何も無理に買ってくれなくてもいいわけです。買い手にとっては唯一の価値を提案していますが、こっちからすると「何百もあるうちの1社」にしか過ぎないわけです。

それって人によっては偉そうだ!とかエゴだ!とかお客様は神様ではないのか!とかもっとカスタマーファーストでやれ!と思われるかもしれません。でもそういうマインドでやらないと、いちいち自分の感情がブレるわけで。不遜な人間にいちいち浮き沈みしていたら仕事になりません。

でも、実は売り手のアプローチで買い手の態度を変えることが出来たりします。性根が腐ってたりする人には全く効かないですが笑、腐ってる人は絶対数としてそんなに多くなかったので、僕は比較的嫌な思いをした経験が少ないかもしれません。

何をしたか、というのを少し紹介しますが、セールスのスキルの1つである『SPIN』がそのポイントだったりします。SPINについて、以前セールストレーニングを外部の方々向けにやらせて頂いた時の内容をいい感じにまとめて頂いるので、そちらをご覧ください。後半にSPINが出てきます。

このSPINの中に「示唆質問」というのがあります。示唆質問をちゃんとやると、買い手の売り手に対する印象がガラッと変わります。なぜなら示唆質問っていうのは『買い手が潜在的に問題だと思っている事を質問をしながら顕在化させ、買い手にその問題の大きさを自覚させる』テクニックだからです。

詳しくは上記の記事の中にあるSPINの内容を見てもらえればと思いますが、一足飛びで示唆質問に飛んだらダメです。示唆質問には準備が必須ですし、その準備のためにはSPINのSとP、つまり「状況を把握して」「どの辺に大きな問題が潜んでいそうかあたりをつける」必要があります。なので、状況質問をして、問題質問を経て、示唆質問に入るようにしてください。

どんなに不遜な応対をしてくる人であっても、その人がEB (Economic Buyer ※これも上記の記事を読んでください。超絶大事です)であるなら甘えは禁物です。何としてでもその人の胸襟を開いてもらう必要があります。

EBは経済合理性を追求します。つまり、ビジネス上のベネフィットを元に購買の判断をします。しかし売り手は往々にしてEBのニーズに訴求できずに提案をしてしまいます。なぜなら「EBのペインを抑えていないから」です。現場担当者とミーティングが盛り上げり、提案をしても最後の最後にRejectされるのは、EBのPainの確認不足による訴求力不足です。

業務システム系のITツールは比較的難易度は下がります。何故なら多くの場合ニーズが顕在化しているからです。でも僕の場合はこの12年以上「データ・情報」というプロダクトをB2Bで売ってきましたが、ニーズが顕在化している事は非常に稀なわけです。

この「ニーズを顕在化させる」ことと「ニーズを最大化させる」ことはB2Bセールスにおいて、売り手にとって非常に重要ですし、もっと言うとそれができないと適切なタイミングで適切な価格で売れません。

顕在化しているPainをさらに深掘りし、「そのPainがもたらすさらに大きなPain」を示唆してあげると、書い手の売り手に対する印象は大きく変わります。

売り込まれないように、セールストークに騙されないようにしよう、と思っている状態から脱してもらえるかどうかは、多くは売り手次第だったりします。

2. 買い手から見た売り手

僕自身、そんなに大きな購買の意思決定をしてきたわけではないですが、それでも昨年は色々な企業から営業を受けました。その時に僕が意識したスタンスは、全ての買い手にとって必要だと思いますし、20年近く売り手側の企業でビジネスをしてきた経験から見ると、それができていない人があまりにも多いと感じます。

僕が何を意識したか、というのは以下の2点だけです。

1. 買い手は常に主体性を持つべきである
2. 買い手は売り手に可能な限り多くの情報を渡すべきである

まず1つ目ですが、自分ごと化できていない買い手にはならないようにするべきだと思います。自社は何が出来ていて、何が足りていなくて、何が課題で、何を期待しているのか、そして肝心なのは「自社はどこまでやれるのか・やるべきなのか」を明確にしておく事です。これ抜きにビジネス上のゴールだけ提示して「なんかいい提案持ってきてよ」とか「おたくには何ができるの?」と言い放つのは不遜の極みですし、言葉を選ばず言うと職務放棄だとも言えます。

当然売り手はゆるふわの状態からPainを正確に把握し、誰の何を解消すれば契約に至るのか思考して行動する事が求められますが、無用なコストが双方に生まれないようにする為にも、売り手だけではなく買い手にも相応の準備が必要です。

次に2つ目。会社や部門のビジネス上のゴールや、そのゴールに到達するために何をしているのか、そして何が不足していて、それにより何が起きているのか。何故自分たちだけだと不足していると捉えており、外部のパートナーにどこからどこまでを期待したいのか。組織構造、ビジネス環境、予算、経験、リソース等、あらゆる情報を売り手に共有するべきだと考えています。

理由は明確で、「的を得た提案をもらうため」です。それ以外にありません。

これをするために必要な意識はシンプルです。売り手を下に見ないことです。そもそも何故買い手が偉いのか僕には全くわかりませんが、過去セールスしていた時もそうですし、過去振り返っても、社内の他の者が買い手であるシチュエーションのミーティングに同席していると、上から目線の態度や言動が端々に出ているのを目のあたりにしましたので、無意識に染み付いた習慣になっているのかもしれません。

僕は過去セールスでいろいろな役職の方々に対してビジネスをしてきましたが、1つ確かな事があります。それは「大手企業のエグゼクティブほど人格者が多い」ということです。

2回り以上も年下の僕に対して、決して下に見ることはせず、ビジネスにおいて足りない部分を丁寧にフィードバックをしてくださいました。基本的なスタンスとして、買い手が偉いというわけではない、ということが染みついているのでしょうね。さすが何万人もの企業のボードメンバーになる人だなぁと感心した記憶があります。

買い手がこういうスタンスということもあり、僕は売り手としてちゃんと的を得た提案をする事もできましたし、「いい提案してくれるね」と言っていただくこともできました。いや、あなたがちゃんと僕に包み隠さず全部伝えてくれたからですよ!と返していましたけど笑

とは言え、言われたことに合わせてそのまま提案していたら2流です。相手の言うことを半分くらい疑うことも大事です。何故なら気付かせることができると、買い手との信頼関係が一気に増すだけではなく、案件サイズや確度が高まりますからね。示唆質問を是非意識してみてください。

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