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かわいそう

 アルツハイマー型認知症患者は、そのまま病気が進行すれば、いつかは、歩けなくなります。車いすのお世話になります。やがて、寝たきりになります。でも、これは運が良かったり、介護者ががんばってやっとたどり着くことです。
 徘徊で帰ってこなかったり、事故などに巻き込まれて死ぬことも多いです。認知症患者も、普通の病気にはかかります。それで命を落とすこともあります。
 私の母も車いすから寝たきりになり、最期に呼吸をしなくなって、亡くなりました。20年かかりました。多くの方のご助力と、運のおかげです。私もがんばりました。
 母は認知症専門の病院にかかっていました。待合室にはいろいろな段階の認知症患者がいました。車いすの方もみえました。
 母が元気に歩き回ることが出来たころ、車いすの認知症患者を見て、私は「かわいそうになぁ、もう歩けないんだ」と思っておりました。介護する人の苦労はどれくらいのものだろうと心配していました。
 母が車いすで病院に行くようになると、私は全く逆の事を考えていました。まだ、立って歩ける認知症患者の家族を見て「かわいそうだなぁ、まだ、あんなに歩けるんだ。目を離すとどこかへ行ってしまったりして大変だろうな」と心配するようになりました。
 アルツハイマー型認知症患者の介護は一般的に、最初が一番つらく、だんだん楽になっていくそうです。寝たきりの状態が、介護者にとっては一番楽なのです。
 私も、母が自力でベッドから起き上がって、歩き回る力を失ったとき、ホッとしたのを覚えています。車いすになると、介護者のペースで移動できるようになります。危なっかしい歩き方をする母の手を引いて、階段や段差に気を配りながら移動するのは大変だったのです。
 身近な人が認知症になるのはかわいそうなことです。しかし、介護の実態は表面的に見えるものとは異なる場合があります。初期の認知症の患者を介護している人は、一番つらい思いをしてますが、そもそも、介護しているように見えないのです。一緒にいるだけに見えます。
 かわいそうは見た目ではわかりません。

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イラスト by 小林いずみ

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